無能と追放された俺、村の畑を耕したら神が降臨して最強になった件
俺の名前はレイ。今ちょうど、異世界に転生してきたばかりだ。ここから俺の大冒険が始まるだろう。期待を胸にスキルを確認する。
俺のスキル欄には、たった一つこう書かれていた。
農耕 Lv.1
「……は?」
王宮の大広間でその文字を見た瞬間、何かの間違いじゃないかと思った。
だって周囲には「聖剣使い」だの「天眼持ち」だの、ファンタジーのテンプレをそのまま持ち込んだような連中ばかりなんだぞ?
なのに、俺だけが“農耕”。
しかもレベル1。
「おい、見たか? あいつ、“クワ使い”だぞ」
「“農耕”って、召喚枠の無駄遣いじゃね?」
聞こえてくる嘲笑。王様らしきおっさんすら、眉をひそめてる。
「……ふむ。これは――うん、農奴として働いてもらおうか。辺境の廃村がちょうど空いているしな」
隣にいるリヴァス侯爵が、こちらを子バカにするような目つきで見つめてくる。
「さっさとここから出ていけ。お前のような役立たずは辺境の村で野垂れ死んだ方がこの国のためになるわ」
そう言って高笑いを始める。俺はここから一刻でも早く立ち去りたかった。
必死に足を動かしてその場から離れた。
それが俺の異世界生活の、始まりだった。
廃村と呼ばれた場所は、想像以上にひどかった。
畑は干からび、井戸は壊れ、獣の足跡がそこかしこにある。
しかも、たった一人だ。送り込まれたのは俺だけ。
その村の人々は皆、今日を食いしのぐことすらも困難な状況だった。
「くっそ……これ、マジで死ぬやつじゃん……」
だが、腹は減る。死にたくない。
仕方なく、村に転がっていたクワを手に取り、かろうじて形を保っていた畑を耕す。
その瞬間、目の前に何かが表示された。
スキル《農耕》が発動しました
土壌改良成功:地力 +50%
微弱な魔素反応を検知、吸収します
作物適応ボーナス:未知の進化因子を確認
「……は?」
俺は思わず手を止めた。
なんだ今の。通知? というか“魔素”とか“進化因子”って、農業の範疇超えてないか?
よく見ると、畑の土の色が変わっている。黒く、しっとりとした、いかにも肥えた土だ。
手探りで種を撒き、水をやり、日を追うごとに畑はみるみる蘇っていった。
いや、蘇るどころじゃない。作物が一晩で発芽し、二日目には実をつけている。
「これ、“農耕”ってレベルじゃねえ……」
「神だ。神の御業だ。」
そこら中から村の人たちの雄たけびが聞こえる。これでこいつらも、もちろん俺も餓死することはないだろう。
数日後、村の様子は一変していた。
作物は異常な速さで成長し、見たこともない野菜や果物が、次々と実を結んだ。空気は澄み渡り、土壌には豊かな魔力が満ち、まるでこの地だけが時間の流れを超越しているような感じだ。
そんなある日、村に見覚えのある人物が現れた。
「ああ、なんだお前か……」
現れたのは、王宮で俺を追放した貴族、リヴァス侯爵だった。俺が異世界に召喚された日の記憶が、未だ
に脳裏に残っている。
「貴様、まさかここで生きているとはな。だが、もう終わりだ」
リヴァス侯爵は、俺に近づきながら高圧的に告げた。
「この土地は俺のものだ。王からの許可を得て、この村は取り壊し、他の用途に使わせてもらう!」
こんな場所に俺を追放したのはこいつらだっていうのに、相変わらずこいつは自分本位で俺たちのことを無茶苦茶にしやがる。
リヴァス侯爵は、なにやら勝ち誇った様子でこちらを見下ろしてくる。もう、こんな屑どもに振り回されるのもいい加減イラついてきた。俺は深く息を吸い込んだ。覚悟は決まった。
「リヴァス、何を勝手なことを言っている。俺がこの村の管理者だ。いや、もっと言うと、ここは神域として認定されている」
侯爵は一瞬、言葉に詰まった。
「神域だと? 何を馬鹿なことを……」
俺は一歩前に進み、村の中央にある祭壇のような場所に手をかけた。その瞬間、空気が一変した。
「神の声が聞こえた。それに従う」
俺がそう言った途端、辺りの景色が揺れ、空から金色の光が降り注いだ。それはまさに神の奇跡を示す証のようだった。
リヴァス侯爵は、顔面蒼白で後ずさり、呆然と立ち尽くす。
「この地には、もはやお前の権限はない。王の命令も、貴族の権利も関係ない。ただ一つ、神の意志が支配する」
「――な、何だと……」
侯爵が叫び声を上げようとした瞬間、まるで信託のように雷鳴が空中から響く。
その音が響くとともに、リヴァス侯爵の周囲に不思議な力がまとわり、地面が裂けていく。
「お前のような者がここに立つことは許されん。さっさと立ち去れ」
リヴァス侯爵は足をすくわれ、苦しみながらも、無理に立ち上がろうとするが、その足はすでに神の力に縛られていた。
最後に俺は、冷静にこう言い放った。
「この村には、もうお前に関わる資格はない。覚悟して帰れ」
その瞬間、侯爵は力尽きて地面にひれ伏し、魔力に引き寄せられるように退けられていった。
終わった…安堵感からか急に体の力が抜けた気がした。
その時、周囲から怒号のような声が上がった。あまりの歓喜にただ叫ぶことしかできなくなっているようだった。
一人の住民が俺の前に膝をついた。周りの人々も、こちらの様子に注目している。
「レイ様。我々を救っていただき、ありがとうございました。」
そして、周囲の人々も、俺に一斉に膝をつき、口々に感謝の言葉を述べ始めた。
「レイ様、ありがとうございます……」
「うん、まあ、君たちの役に立てたなら嬉しいよ。」
そう言ってニコリと笑うと、村の人たちは感動したらしかった。
「さすがは神に選ばれたお方。心意気まで素晴らしいですな。」
そんなことを言って俺をほめたたえた。
少しばかり罪悪感を感じる。
さっきの神の御業だが、種明かしをしよう。
俺のスキル 農耕 は、この数日間でLv2になっていた。
そのおかげで俺は、天候と光でさえも操れるようになったのだ。それを使って、さっきの劇的な演出をしたわけだ。いやーうまくいってよかった。先ほどのリヴァスのおびえ切った顔を思い出し、
レイはニヤニヤする。
実際にはほとんど役に立たないような能力だが、村の人たちの笑顔を見るとこのスキルでよかったと思う。それと同時に、
今の俺がかつての「無能」と呼ばれていた自分ではないことを、確かに実感していた。