14.4度目の春:____と再会-01-
"本日はいかがお過ごしでしょうか?"
可愛らしい文体でかかれた、可愛らしい挨拶。
ハノは思わず笑みが零れる。
最近では、アーベルから頻繁に短い手紙が送られてくるようになった。
きっと、僕が"兄はよく手紙を送ってくるから、返信に困る"といったからだろう。
「アダラート…紙ってどうやったら半永久的に保存できるんだ?そういう魔法かけてよ。」
「いや、あるわけがないでしょう。あったとして、半永久的に文を保存してどうするんですか。」
「額縁に飾って継承を…」
「やめてください。」
貴方がいなくなったあとどうするんですか…とアダラートは少し呆れながらも手に持っていた兄からの手紙を渡そうとする。
しかし、ハノはこの幸福な気持ちをあいつに邪魔されたくはない!とあとで読むと言って机にしまってしまった。
「どうせ読まなかった〜って後悔しますよ。」
「そうなっても、特に支障はないだろう。普段からそんなに内容が濃い訳では無いし。」
兄からの文は大体が今日何食べた〜や、こちらの流行は〜、といった他愛のない話ばかりだ。
「それでいうとアーベル様からのものも…」
「彼女は良い。彼女は何をしても良い。」
「(うっわ〜)」
4年で更に拍車がかかったハノのアーベルへの盲信っぷりに少しゾッとする。
しかも、これだけ特大の愛をひとっことも口に出さないでいた。
耐えられている根性が凄い。
「もういっそ正式に告白して自分以外と絶対付き合わないで!くらい言ってみては?」
「それは駄目!僕はこの檻の中で過ごしていても苦痛では無いし、むしろその方が安心する。でも、彼女は予定調和
を好まない。自由に羽ばたかせるべきだと思う。
彼女への枷はできる限り無くしてあげたい。」
そこに、僕の心情は関係ないから、とハノは笑う。
かつてのアダラートであったら、偽善者だの臆病だの悪態をついたところだが、彼がそこに信念をもっていることは分かっている。
しょうがない、ではなくそうしたい、してあげたい。
ならば、従者であるアダラートに言えることは無かった。
しかも…
「それに、どう足掻いても僕が彼女の婚約者だ!
僕が旦那だ!!この事実は揺らがない!!」
もう既に彼は開き直ることにしていた。
僕との結婚申し訳ない、、、を通り越してその肩書きがあれば生きていける!というフェーズに突入した。
「もう呪いでも良い…彼女が外を知って僕より良い男がいたとしても、僕にはこの肩書きがある。同じ感情を向けて貰えなくてもそれだけで満足出来る。」
うじうじと思い詰めなくなって良かったと思ったのもつかの間、今度は無理をして自分を騙すようになった。
すぐに分かる。
彼は嘘をつく時に、口元を抑える癖があるのだ。
だから、彼女の出会いを邪魔したくないという意志に偽りがないことも分かるのだ。
「まったく…次男なんだから、もっと楽観的に生きても良いだろうに。」
なんでこんな不器用なのかねぇ…と頭を撫でてやる。
ハノは抵抗することもなく、従順にされるがままだった。
「普通の家はね。だって、どうせ兄さん家なんて継がないって言うだろ?その時に僕がなんの教養も知識がなかったら父上が困
「俺がなんだって?」」
聞きなれた、でも忘れかけていた声が後ろから聞こえる。
口から声にならなかった音が漏れる。
なんだ、幻聴?
だって、いるはずないだろう…?
恐る恐る振り向くも、背後には誰もおらず、"なんだやっぱり幻聴だった"と嬉しそうにでも少し残念そうに前へ向き直ると、目の前に突如として顔が飛び込んできた。
「……これ幻覚?」
「逆に本物以外あんの?…あ、もしかして幻覚だと思うくらい、俺の事が恋しかったのか弟。」
喜べ!お前の愛する兄の凱旋だぞ!とハノとアダラートを2人まとめて抱きしめると、兄は"俺はすっかりお前の顔を忘れてたよ"と大きく口を開けて笑った。
「〜嫌いだ!」
「それはそれは、光栄だね。」
今じゃない。今じゃなければ僕だって…
ハノは苦虫を噛み潰したような顔をする。
アンタのように、自由を選んで飛び去った渡り鳥を見ると…不安でたまらない。
目の前にいる兄は、彼が見てきた中でもとびきりの笑顔で"ただいま!"と言った。