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修羅の旅路

頼もしい魔王様のおかげで向かうところ敵なしです。


 魔王シューベルト改めベルベットを仲間に加えた護達は次なる世界図書を探して町に向かっていた。魔王城付近は特殊な魔法磁場で転移魔法が使えない土地が多く、連れてきたドラゴンも飛び去ってしまっていたので徒歩で行くしかなかった。途中遭遇する恐ろしいモンスターは問題ではなかった。魔法を得意とするメーティスとベルベットによって簡単に退けられた。知能が高いモンスターはベルベットと目が合っただけで逃げていくのだ。魔王相手に生存本能が働いたのかもしれない。護は内心、あの鋭い眼光に人睨みされれば逃げたくなるのもうなずけると思ったが絶対に口に出さなかった。


「頼もしいですね。向かうとこ敵なしじゃないですか」


「油断は大敵だぜ? 俺様の親父も強かったが、ヒューマン種にやられちまった。それに俺様だって勇者と祀られたカイムには手を焼いていた」


「勇者……カイムですか」


 RPGもよくプレイしていた護としては本物の勇者が如何ほどの人物か興味があった。まして今まで圧倒的な強さを見せてきた魔王ベルベットですら手を焼くと言っていたのだから強さもそれなりだろう。


「ベルさん、その人について教えてくれませんか?」


「それは私も気になっていました。検索魔法では漠然的な情報しかでませんでした。貴方とまともにやり合えた強さも知的好奇心をそそります」



「――んだよ、それ。ま、教えるくらいはイイけどな」


 彼女は頭を掻きながら語り始める。


「カイムは人間としてはやる方だが決して強いわけじゃねーんだ。実際直接やり合った戦いは全て俺様が勝利している」


「じゃあなんでカイムって人は生き残ってるんですか? 見逃してあげてるとか?」


 ベルベットは首を横に振る。


「手加減はしてねぇ。それでこっちがやられたら世話ねえしな。アイツはなんつーか、運命に守られてるって言うかなぁ。トドメを刺せねーんだよ」


 ベルベットの説明によると、カイムを倒そうとした時、何らかの陰画に阻まれるらしい。自然災害に襲われること、また、優者と戦っている遠征中に中立関係にあった多種族が急に魔王城を責めに来たということもあった。つまりカイムが何かに守られて退却するか、魔王自ら退却せざるを得ない状況に陥るのだ。


「主人公補正ってヤツですかね……」


「なんだそりゃ?」


「僕がいた世界では絵本とかの物語であるんですよ。そのお話の主人公は絶対に死ぬことはない。少なくとも目的を果たすまでは――」


「ベルベットが手を焼くわけですね」


「まぁな。だがカイムの恐ろしさは別にある」


 首を傾げる護とメーティス。あの元魔王が〝恐ろしい〟と口にするとは思わなかった。二人は耳を傾けて無言の催促をする。元魔王は続きを話し始めた。


「奴の恐ろしさは強さを求める貪欲さと諦めの悪さにあるんだ。例えばマモルは勝てねぇ敵が現れたらどうする?」


「そりゃあ、逃げて二度と会わないことを祈ると思いますけど?」


「だろうな。じゃあメーティスは自分に理解できない魔法理論があった時、どうする?」


「無論、今では知識が足りないと納得してその理論を理解するために研鑽をつみますが」


「お前らが正しいな。勝てねぇ敵からは逃げる。届かない頂があれば努力し己が成長を待つ。それこそがあらゆる種族共通の選択だろう」


ベルベットは出会ったばかりの二人の特性を早くも理解していたようだ。流石は万の魔族の頂点に君臨していただけあって高い洞察力を持っていた。その割には四天王選定の基準だけは甘かったようだが。

彼女は大きく溜息をついてから話を続けた。


「――奴は、カイムは違うんだ。目の前に強さを得られる何かがあれば、大きな代償を払ってでも手を伸ばす。そして幾千も敗北しようと立ち上がって挑んでくる。だから人はアイツを勇者と呼ぶんだろうな。俺様の首を取るという大義こそ果たせていないが、偉業は成している」


 元魔王は意外にも敵対者のカイムのことは客観的に評価しているようだ。その分析力があるからこそ今日まで彼女が敗北していないのだろう。


「ベルベット、貴重なお話ありがとうございました」


「勇者カイムかぁ。会ってみたいなぁ」


「俺様と一緒にいれば、いずれ会うことになるだろうさ。どこ行っても鉢合わせるからな」


 彼女は遠い彼方を見つめた。


 再び歩を進めていると、小型恐竜のような大群のモンスターに遭遇した。


「さっきからエンカウント多すぎませんか? ベルさん、地理に詳しいんですよね?」


「あ? 町まで行くんだろ? 近道のはずだぜ? ここまでは魔力磁場で転移魔法が使えなかったからな。峠を超えたら転移魔法を使えるようになるぞ」


「確かに、私の検索魔法でも同じ結果が出ていますが、――にしても敵は多いようですね」


 メーティスは魔法でを駆使しながら疑問を投げかける。護も二人に及ばずながら数体の敵を倒す。魔王城の一件やこの旅路で大分魔法の使い方が備わってきた感覚があった。


「そりゃそうだろ? やっぱ敵が多いトコ歩いた方が刺激があっていいからな」


「「は?」」


 護とメーティスの声と言葉が重なった。ベルベットは敢えて敵が多い近道を選定していたらしい。最短ルートしか検索できなかったメーティスは気づくはずもなかった。というより、地理に詳しいベルベットが避けてくれているとばかり思っていた。彼女の強さを計算にいれたら確かに敵の数は問題ではないが、無意味な戦闘を避けたいメーティスは怒り心頭だった。


「なぜ、もっと安全な道を行かないのですか!? 貴女と私は良くともここには魔法初心者の護がいるのですよ?」


「だからこそだろうが。いかに強い魔法を習得させても経験が足りないんじゃ土壇場で足をすくわれる。俺様達がケツを拭ける間に経験を積めって話だよ」


ベルベットとは乱暴な言葉遣いだが全てが的を射ている。尚も食い下がろうとするメーティスに彼女は指摘する。


「それに俺様の城にそのど素人をぶっこんだお前が言える話じゃねーぜ? ここよりずっと危険だった」


「アレは私が守れると判断したからであって……」


「だったら今と同じだろ? そういうことだ護。てめぇのレベルで勝てそうなのをそっちに誘導してやっから、死ぬ気で戦え」


「えぇ!? そんな無茶な!?」


 いってる傍から、比較的小型のモンスター群が護に迫ってきた。


速射雷撃(グリスヴァロンテ)! 速射雷撃(グリスヴァロンテ)!」


 モンスターの群れにもまれながらも護は必死で魔法攻撃を行った。最初は攻撃をくらってフラフラになっていたが、数をこなしていくうちに魔法発動のタイミング、状況にあった魔法の選択、威力と速度の底上げ等を自然と学んでいった。


「こんな雑魚相手に骨折してんじゃなーよ」


「酷いですよ……ベルさん、僕はインドア派なんですよ?」


 メーティスの治療を受けながら抗議する護。しかしどこか達成感のある顔をしていた。ベルベットは悪びれる様子もなく残った敵を狩っている。当然彼女は無傷だった。

流石に世界司書の回復魔法は治癒速度が早く、見る見る内に治っていく。


「――っていうか、メーティスさんも無傷なんですね」


 メーティスは体どころか着ているローブにも傷が付いていなかった。いつも洗浄魔法で清潔にして羽織っているだけのことはある。


「丈夫なローブですね。どこに売っていたんですか?」


「興味があるのですか? でも残念。これは非売品です。贈り物として貰ったものなので」


「へー、誰にですか?」


 何気なく聞いた問いかけにメーティスは言葉を一瞬詰まらせてから答えてくれた。


「古い友人ですよ。魔法学会で残した功績を称えてプレゼントしてくれたのです」


話している間に治癒も終わったようだ。痛みは完全になくなっていた。お礼を言って立ち上がろうとしたその時、地震のような振動が起こった。驚きのあまりふらついてメーティスを押し倒してしまった。


「ほー、戦闘はど素人だが夜戦は得意ってか」


「違いますよ! メーティスさん、す、すみません。ボク、そんなつもりじゃ!」


「分かっています。それより二人とも、構えてください」



 再び地震がおさまったかと思ったその時、地面が盛り上がり大きなモンスターが姿を現した。外見はサソリと図鑑で見た鎧竜を足したような姿だった。何より目を見張るのはその大きさである。魔王城潜入前に捕縛したドラゴンより図体が大きかったのだ。

 どうやら護達の戦闘音を聞きつけて地中から姿を現したようだ。

 やる気満々の奴さんは鋏のある腕を向けてきた。ベルベットは護を抱えて跳躍すると、高所に着地した。メーティスは浮遊魔法で避けたようだ。ゆっくりと降りてきた。


「メーティス手ェ出すなよ」


 鎧竜は三人に向かって炎を纏ったブレスを吹きかけてきた。紅い炎の海が目の前に広がる。激しく強い熱気に思わず腕を額にあてる。


「マモル、しっかり覚えとけ。これが最前線だ!」


 魔法陣のシールドを張って攻撃を受けるベルベット。抵抗を感じた敵の方はさらに火力を強くしてきたようだ。徐々にベルベットが押され始める。


「ハッ! ブチ消してやるよ! 〝魔王の凱旋〟!」


 四天王を吹き飛ばした魔法だ。ブレス攻撃をかき消して一気に押し返す。波動が鎧竜を包みこみ、吹き飛ばす。


 地面に落下した鎧竜は満身創痍ながら「グルルル……」とベルベットを睨み付ける。


「チィッ、やっぱ威力は落ちるか……」


 ベルベットは雷系の魔法で鎧竜にトドメを刺した。結果的には勝ったが少し腑に落ちなかった。城で同じ魔法を使った時はもっと威力があったはずだ。「全力でやる」といった以上手は抜いていないはずだが。同じ魔法なのに明らかに威力に差がある。


「ベルさん。失礼ですが、少し本調子じゃないのではありませんか?」


「ああ。俺様は魔族の長だが、魔王としての全力を振るえるのは魔王城にいるときのみだ。あの地そのものが俺様に力を供給する」


 つまり脱引きこもりをした魔王様はあの桁外れの魔法を使うことはできないようだ。


「RPGとかで魔王が勇者を待ってるのはそういう意味があったんですか……」


 ゲームの疑問が解けて一人納得する。弱くなってしまったとはいえ、彼女の力は未だに強い。魔法使いでも上位に入ることには変わりなかった。


「今のままでも彼女は十分強いですからね。まぁ、御しやすくなったと思いましょう。魔王の弱体化が気になるレベルの敵が出てくるとは思えませんし……」


「既に僕はインフレについていけてないですが……」


護が一緒に行動する魔法使いは魔王と世界司書。

上澄みも上澄みなので主人公としてインフレ合戦に早くもおいていかれています。

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