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善と悪

テスエトス編最後です。

 ゼノスは動揺した。彼は完全な筋道を立てて行動に移してきた。だからこそ今はメーティスに罪を自覚させることができると動き出したのだ。しかし実際に闘ってみればメーティスと護の精神を完全に砕くことはできなかった。

 護達は動揺するゼノスの隙を見逃さなかった。四人は四方に散り、それぞれ己の得意分野で攻撃し始めた。護、ベルベットはそれぞれの魔法で、メーティスは二人の魔法から生成する新たな魔法を使って、ココロはそのハイテクノロジーを駆使して。


「流石にタフだな。何年も本の中に引きこもってただけあるぜ!」


「問題ない。対象物のエネルギー反応が小さくなっている。追い詰められている証拠。このまま押し切る」


「おのれぇえ! 罪を罪を罪を! 自覚しろ! 罪人共ぉおお!」


 ゼノスは防戦一方に追い込まれる。それでも数々の魔法で対抗するがまるで未来余地の力があるかの如く対処されてしまう。伏線は看破されて自分の戦術さえも利用されたしまう。確かに護は異世界渡航で強くなってはいたが、彼の今の動きはそれでは説明できないほどだった。まるで歴戦の軍師が彼の味方をしているかのようだ。


(なぜだ!? なぜ俺の戦術が尽く読まれる!? ……はっ!)


ゼノスは護の懐に何かがあることに気づいた。迷彩魔法をかけられたそれは兵書だった。護はベルベットの迷彩魔法で隠しつつ常に兵書を展開して戦術を組み立てていたのだ。


だがそれは全て陽動。護が取りだしたのは呪術書である。霊体や思念を縛る封印術は残留思念そのものであるゼノスの四肢を縛り上げるに十分だった。


「こんなッ! 低俗な呪術如きで俺を縛れはしない!」


「もう止めましょう。ゼノス、貴方は破壊を楽しむ人ではなかったはずっ! それもパンドゥラによって欲望が刺激されたから――」


ゼノスは頑なだった。単純な恨みだけでなく自分こそがテス・エトスのエトシャ人代表だという気概が彼の力となっていた。呪術で縛られながら尚も抵抗する忍耐力はベルベットも驚愕する程だった。


「エトシャ人全員が欲ボケして滅んだ訳だから、カイムの時みたく死人を呼んで説得はできねーしな」


「護、私では思念体への対処法の最適解が導き出せない。何か良い手はないの?」


 護は「大丈夫だ」とジェスチャーして、聖書を開く。


「――聖書よ! 悪しき魂を清めよ! 〝安らぐ思い出の一節〟!」


 聖書が輝いた瞬間、ゼノスの脳裏にメーティスとの楽しかった思い出が駆け巡った。共に夢を語りあったこと、魔術の研鑽を積んだこと、二人の共同研究で国民栄誉賞を授与したこと。並の者なら清らかな思い出によって浄化されるだろう。ゼノスは違った。


「――そうだ。俺は彼女と共にテス・エトスの未来を作っていけると思った。だからこそ台無しにした彼女が憎いんだ! 許せないんだ!」


「護、やはり彼は私を恨んでいます。私がしたことを考えると当然ですが――」


「いいえ。メーティスさん。それは違うと思います」


 首を傾げるメーティスに護は自身の見解を述べた。


「僕はずっと不思議に思っていました。記憶で見たゼノスさんはメーティスさんに好意的なのに残留思念である貴方は恨み過ぎている」


「護、結果だけ見ればメーティスが彼の命を奪う要因を作り、またエトシャ人を滅ぼす要因を作ったのだからその指摘は的外れだと思う」


「ココロの言う通りだ。如何に親しい奴でも最後の思い出が悲惨なら恨みに変わるぜ」


「そこですよ。普通の人間ならそうでしょうが、彼は魔法学を研究していた聡明な人物だった。パンドゥラの書に出会うまでは――」


「確かに私の知る記憶の中のゼノスと彼は違います。護はその原因が分かるのですか?」


「ええ。答えはコレです!」


 メーティスに向かって護は速射雷撃(グリスヴァロンテ)を撃ち放った。その場にいた者達は完全に虚を突かれ手反応できなかった。まさか護がメーティスの命を奪うような攻撃をするとは思わなかったのだ。心臓を正確に狙った一撃は彼女のローブから現れた謎の手によって受け止められた。何が起きたか分からない一同は沈黙したままである。分かったのは護が〝謎の手の人物を引きずり出すためにメーティスに攻撃した〟という事実だけだった。


「――おかしいと思っていました。ベルさんもココロも、そして僕も、異世界の旅で一度は死にかけている。けれどメーティスさんだけは大きな傷をまるで負っていないのです」


 ベルベットは一回目のカイムとの戦闘で致命傷を負った。護は感情に目覚めたばかりのココロに刺されて重傷を負った。ココロも抵抗軍や護達を守るために大爆発に呑まれて半壊した。しかしメーティスはずっと小さな傷は負ったが命に関わる負傷はなかったのだ。先程のゼノスとの闘いでも彼女はローブが放つ光に守られていた。そしてその答えこそが目の前の人物だった。封印術で捕縛されているゼノスは現れた人物の正体が理解できずにこれまでにない程狼狽した。


「なぜ、俺がいるんだ……? 幻術か?」


「いや、俺もまたゼノスだよ」


「ど、どどどどどうしてゼノスが二人いるんですか!?」


 メーティスも二人のゼノスを交互に見てパニックになっている。ベルベットとココロも目を白黒させている。


残留思念(カルディア)は、自身の思念の一部を埋め込む固有魔法。でも死の際で全ての自分を全てコピーすることはできなかった。だから最期に一瞬だけ強くなった困惑と未練、そして恨みだけが色濃く残ってしまった。その結果生まれたのが負の残留思念」


 護は縛られた方のゼノスを見る。そしてすぐに視線をもう一人のゼノスに向けた。


「メーティスさんのローブに宿っていたあなたは彼女を慕う想いで形成された、言うなれば正の残留思念ですよね?」


 恨みだけの人間なんていない。幼い頃から親友だった人物に対して好意や親しみの方が強かったはずだ。だからこそ〝彼〟の存在を確信したのだ。


「――俺は昔からメーティスを大切に思っていた。だが彼女があの禁書を手に入れて飛躍的に実力をつけ始めたのを見て、俺の心に黒い感情が湧くのを感じた。テス・エトスが植民地主義に進んでいくときにも強く感情が乱れたのを感じた」


「だから、自分が変わってしまう前にメーティスさんに贈ったローブに魔法をかけた?」


 ゼノスはゆっくり頷いた。そして捕縛された方のゼノスに触ると、その残留思念は顔を歪ませながら霞のように消えた。彼自身が残留思念(カルディア)を解除して消し去ったのだろう。消えた残留思念から落ちた《パンドゥラの書》を護が回収した。


「我ながら……残留思念(カルディア)は碌な魔法じゃないね。死人の恨みが暴走する。メーティスを守るために意思を残したはずなのに」


「分からねーなァ。メーティスを守るためならもっと早く出てきて暴走した自分を止めるべきだったんじゃねーのか?」


「僕はこの残留思念を使いこなしているわけじゃない。普段は〝メーティスを守る〟という守護意志しか出てこれないんだ。だから限界まで出られなかった。そして〝俺〟という個人の思念体として出てきたときは……守りの魔法が消える時だ」


「じゃあ、貴方はもうメーティスを守れないの?」


 ココロの問いに彼は何も言わず小さく笑った。その沈黙は肯定を意味していた。メーティスは彼の前に駆け寄った。


「ゼノス、教えてください。貴方は私を恨んではいないのですか!?」


「言っただろう? 俺もテス・エトスのやり方に複雑な思いを抱いていた。それがゼノスの中にさっきの俺と今の俺を宿らせたんだ」


「けど、私は貴方を殺したのですよ?」


「俺を殺したのは俺自身だ。禁書を奪おうとした時の俺は君をも殺しかねない勢いだった。だから君が発動した防御魔法をローブに宿っていた俺が強化してトドメを刺したのさ。伝えるのが遅れてしまってすまない」


 真実を聞いてメーティスは安堵のあまり腰が抜けてしまった。涙があとからあとから溢れてくる。そんな彼女を抱きしめるゼノスは既に体が透けてきている。


「そろそろ残留思念(カルディア)の守りの意思が消えるようだ。メーティス、もう罪の意識に苛まれることはない。彼が言った様にエトシャ人は滅びるべくして滅んだんだ」


 慰めるとても優しい顔だった。それこそがメーティスが慕うゼノスという少年の本来の姿なのだろう。彼は視線を護の方に向けてきた。


「古本護君。君のおかげで俺はローブから出てくる決心がついた。メーティスに施した守りの意思が消える。だから今後は君が彼女を守ってくれ」


「はいっ! 勿論! 一生かけて守ります」


「良い答えだ。これで最後の残留思念(カルディア)はなくなった。安心して逝ける。メーティス、過去にばかり囚われず新しい仲間と共に未来に生きろ」


「……はいっ!」


 ゼノスの残留思念は「見守っている」と言い残して粒子となって消えていく。護は号泣するメーティスの肩を抱いて彼の心を見送った。ゼノスと和解したことにより、憑き物が落ちたようにメ―ティスは魔法が使えるようになった。回復魔法で傷ついた仲間を癒す。最後の世界図書である《パンドゥラの書》も回収したので、世界図書回収の目的は無事達成されたことになる。護は回収した《パンドゥラの書》をメーティスに渡した。


「世界図書回収、やり遂げましたよ。メ―ティスさん」


「ええ。でも、それだけではありません。貴方は私の過去の遺恨すらも解決してくれた」


 メーティスが護の手を握って感謝の意を伝える。面と向かって感謝されると照れてしまう。甘酸っぱい雰囲気の二人を気にせずベルベットが二人の背中を叩いて豪快に笑った。


「まぁ、中々面白い旅だったなァ。本回収が終わっても、またこの四人で巡てぇな」


「それもいいけど、私は早く帰って本を読みたい。人間の知識を学びたい」


「ふふふ、じゃあ取りあえず帰りましょうか。私達の図書館へ」


 境界を開き、四人は世界図書館へと帰って行った。




ゼノスはメーティスを愛する気持ちと恨み妬み蔑む気持ちが両方あり、

別々の形で残留思念を残していました。

ただローブに宿した方が力が弱く、命の危機に際してしか現れませんでした。

護は彼の存在を看破したのです。


どちらの残留思念も消え去り、テスエトスの騒動は決着します。

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