似た者同士
「ダメッ!」
メーティスは特殊な魔法陣からゼノスと同系統の魔法を放ち、その攻撃を相殺した。
「そう言えばそうだったね。〝混沌言語〟。他者の魔法に重ねて同系列の魔法を発動できる君の固有魔法。精神的ショックで魔法が使えなくなっても固有魔法は例外だったか」
メーティスは遠くで戦うベルベットに目を向け、その防御魔法から同系列の魔法を作り出す。これでしばらくは攻撃をしのげるだろう。事実ゼノスは忌々し気に舌打った。
その間に護の戦意を取り戻そうと決意した。
「護、私の言葉を聞いてください!」
「僕は……何もなかった……。僕如きが何かを成すことなんて初めからできなかったんだ」
メーティスの訴えも空しく護の瞳に生気はなく、完全に呆然自失であった。
積極性も覚悟も忍耐力も発想力も全てがドーピング作用だったと知れば、そのドーピングによって得られた成果は本人の成果とは言えない。護自身生真面目な性格なのでそれが自身の成果だと自分自身が認めることができなかった。
メーティスにも覚えがあった。実のところ、《パンドゥラの書》を何の抵抗もなく国家機関に献上したのは自暴自棄になったためであった。最初にその魔法書の存在を明かしたゼノスが悪気なく、その書の効果を解き明かしたためだ。無論、当時はメーティスを追い詰めるつもりはなくただの学術的見地を述べたに過ぎない。だが凡庸な魔術師から大魔法使いになった自分を誇っていたメーティスからすれば、それは心臓にナイフを突きたてられる程の衝撃だった。故に当時の自分を重ね、護の両頬に触れて彼の瞳に訴えかける。
「聞いてください。カイムの心を救い、ベルベットを助けたのも、ココロを勧誘したのもシナプスネットを止めたのも貴方。貴方は私に為し得ないことをやってのけんです!」
「メーティスさん……でも僕の力は全部パンドゥラのもので……」
「重要なのは〝どのように力を得たか〟ではなく〝得た力で何を成し遂げたか〟です」
小さく反応した護をメーティスは優しく抱きしめた。
「自分を過小評価しないでください。いくら《パンドゥラの書》でもゼロを一にすることはできません。ここまでこれたのは貴方の力です」
「僕の力と……認めてもいいのでしょうか……?」
「貴方が有する力は貴方の力です。その力で成したこともまたあなたの実績です。ベルベットやココロ、そして私が貴方を慕う気持ちすら幻想と決めつけるつもりですか?」
護はメーティスと異世界へ旅立つことを決めた日を思い出す。あの頃からメーティスは護の精神に少なからず禁書の影響があったことを知っていたはずだ。それでも彼女は護の意思を尊重してくれた。それは護自身のことを評価していたという証だった。
さらに、マギタジアで出会ったベルベット。
魔族の王位に就いて多くの魔法を研鑽した彼女も聖書の影響を認め、変わった自分を楽しんでさえいた。そんな彼女が本の影響で変わった護を責めるだろうか。いや「細かいことは気にすんな」と笑うだろう。もしかしたら聡い彼女は既に護と禁書の関係も気づいていたかもしれない。それでも一緒に笑い、戦ってくれた。
そして、デッタルムで出会ったココロ。
呪術のせいで突如感情を持ってしまい、混乱していたオルターネイターの少女。感情を学びたいといった彼女に色々教えてきた。その結果、彼女は護に懐くようになった。《禁書》で精神力を底上げされなければ、彼女とここまで打ち解けることはなかったのか。そうではないはずだ。初対面でのやりとりが無様になっていたかもしれないが、感情を知ろうとするココロを無視して命惜しさに逃げだす程残念な男ではなかったと断言できる。
メーティスの言葉が強く響いた護は彼女を強く抱きしめ返す。
「ありがとう。メーティスさん。大切なことを思い出したよ。僕は今よりは弱かったけれど、自分が思っている程駄目な人間でもなかった」
「護、そんなあなただからこそ私は共に世界図書を収集しようと思ったのです」
「メーティスさん、彼の残留思念を止めましょう」
「……はいっ! 私も決心がつきました」
抱きしめ合う二人が気に食わないゼノスは狂気の殺意を向けた。
「似た者同士仲良く死ぬがいい!」
熱量が凄まじい攻撃が二人を襲った。
しかし強固な防御魔法が猛攻を防いだ。護の発動した透頑盾と護の混沌言語によって発動した盾がアップデートの能力でさらに強化されていた。自身の能力を強化するアップデートだが、護の魔法を元に作成する混沌言語もまたその影響下にあった。
顔を上げる護の眼光には透視が宿っていた。
「そうだ……僕が力がない人間なのは分かってた。僕は本当は弱い人間だし、魔力もなければ、君に挑む勇気もないはずだった。……でも、メーティスさんのためになりたいって気持ちだけは僕本来の! 心からの望みだ!」
護の心にもう迷いはなかった。メーティスが自身の力を認めてくれたことから自信を取り戻した。護とメーティスはアイコンタクトを取る。まずは護が魔法を詠唱して発動する。
「照準は雷光の導きに従い、閃光瞬き、雷鳴と共に翔けよ、――速射雷撃!」
「轟雷の士よ、我が願いに応え、矢となり射抜け―雷神の矢!」
メーティスの固有魔法である〝混沌言語〟は発動する魔法と同系列の魔法を発動するものである。細かい効果は、詠唱呪文の一部を引用し、別の言葉を付加することで魔法効果を何倍にも引き出すものだ。
今は護の雷という言葉と敵を射抜くと言う呪文の意味を強くして中級魔法の速射雷撃から上級魔法の雷神の矢を発動したのだ。それも護のアップデートの能力で強化付加され、拡散誘導し、ゼノスの防御壁をすり抜けて彼を襲う。
「ぐあぁああ!!」
流石に同時に防ぎきれなかったのかゼノスは腕の一部を負傷した。
護は使える魔法が限られている。メーティスはトラウマからまだ通常魔法を上手く発動できない。だが護が発動した魔法からメーティスは混沌言語により上級魔法を行使することができた。さらに二人の魔法は護のアップデートにより強化されるのでゼノスも予想しきれない。欠けた部分を補い合ったナイスコンビネーションだった。
「ふんっ、だがお前達に使える魔法は限られている。そんな貧弱なバリエーションで俺を倒すことなどできないっ!」
「それはどうでしょうか?」
メーティスは懐の魔法道具に仕舞っていた四冊の本を展開する。それはこれまで集めてそのまま所持していた世界図書だった。護の決意に呼応するように四冊の本は彼の周囲に侍る。
「それは聖書、魔道書、呪術書、兵書……。まさかっ!?」
「そうだ。僕に足りない実力は世界図書で補う! まずは魔導書グレガス!」
魔導書は書物本体に魔力が宿る本である。故に本人がまだ覚えていないまだ使いこなせていない魔法も扱うことができる。
地水火風の精霊を召喚し、四つの属性を操る。メーティスは混沌言語を発動して、魔導書の魔法から新たな魔法を発動する。
「人に物忘れを指摘した割に私のことを忘れていますね。護への対抗に必死でしたか?」
「メーティスぅ! 裏切者がァ!」
流石に世界図書を伴った二人を相手にするのは骨が折れるようだ。ゼノスは徐々に押され始めた。
「調子に乗るなぁあああ!!」
ゼノスは最上級の雷と風の二重魔法を放った。いくら魔導書を持っていても護はその書の力全てを把握できているわけではない。急いで防御系魔法を展開しようとしたその時、攻撃はレーザーと爆炎魔法で相殺された。
ちょうど護と合流するようにベルベットとココロが隣に着地した。
「待たせたな。虚像とはいえ流石にあのカイムを倒すのは苦労したぜ」
「……同じスペックだと勝敗を分けるの意地。だから私が勝った」
二人は随分ボロボロになっていたが無事に自分の相手を倒しきったようだ。 既に再現カイムや再現GKの姿はなかった。
「そんな馬鹿な!? お前達が勝てない敵を選別して記録再現したのだぞ!」
「あんなのカイムの強さじゃねーよ。再現度がお粗末すぎる」
「私は日々アップデートしている。故に過去の自分に今日の自分が負ける訳ない。当然の帰結」
自信喪失した護をメーティスが支えました。
重要なのは〝どのように力を得たか〟ではなく〝得た力で何を成し遂げたか〟ですね。




