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明かされる真実

禁書の真実が語られます。


「ゼノス、もう止めてくださいっ! 貴方の狙いは私でしょう!? 彼は関係ありません」


「違うよメーティス。彼こそが僕の狙いだ。実の所、君を殺すだけなら簡単だ。だがそれでは意味がない。君は自分を重ねて世界図書回収を終わらせて罪から楽になろうとした。その存在たる古本護を目の前で殺す。そうして絶望させるのが最も効果的だと判断した」


「そんな……。貴方はどこまで歪んでしまったの?」


「護君、怨むならメーティスを怨むんだね。彼女を庇うということは一緒に罪を背負う事だと理解するんだ。彼女がトチ狂わなければ万事上手くいった。未開の世界に技術供与をし、代わりに資源を貰うという画期的な関係を展開したんだ。それを彼女が台無しにした」


 耳障りの良いことを言っているが、技術を教える代わりに資源を献上させること、そしてあらゆる決定権は先駆者のエトシャ人が握るというのは単なる植民地だ。己が欲望に狂った民族に天罰が食らっただけなのにそれを止めようとしたメーティスに恨みをぶつけるのが護は許せなかった。そんな護の激情を知らないゼノスは尚もメーティスに怒りをぶつける。


「メーティスさえっ! メーティスさえ協力していればっ! エトシャ人が滅びることはなかった! それどころか三千世界を束ね、このテス・エトスこそが理想郷になったんだ! メーティスがテス・エトスを滅ぼしたんだ!」


 メーティスは罪の意識を感じて胸を押さえ膝をついてしまう。それほどまでに親友を殺したこと、テス・エトスを滅ぼしたことに罪悪感が残っていたのだ。震える彼女を見た護は胸の底から沸きあがった怒りを抑えきれなくなった。


「ふざけるな……。ふざけるなよ……」


「護君、何か言ったかな?」


 目を血走らせたゼノスは殺気に魔力を込めて睨んでくる。以前までの護なら失神してもおかしくはなかった。それでも怯むわけにはいかない。ここで委縮してしまってはココロの折れかけたメーティスは更に自分を責めてしまうからだ。


「ふざけるなと言ったんだ! 何がメーティスが滅ぼした、だ! 彼女は何も悪くないじゃないか! 悪いのは彼女の善意を利用したエトシャ人そのものだ!」


「異世界を併合したことを言っているのか? それなら見当違いの指摘だ。力ある者がない者を導いて何が悪い!」


「その理屈で言うなら君らエトシャ人はメーティスさんの決意より弱かったから滅びたんじゃないのかっ!?」


 痛いところをつかれたゼノスは一瞬たじろいだ。しかしすぐに反論する。


「……俺にも勝てない半人前に発言権はない!」


「僕は確かに魔術師としては半人前だ。でも半人前にだって意地があるっ!」


 自身の決意を込めて渾身の魔法を撃ち放つ。


「中級魔法、速射雷撃(グリスヴァロンテ)か。芸がない……っ!?」


 途中で雷撃は拡散して誘導弾としてゼノスを襲う。


「そう言えば、中々面白い固有魔法に目覚めたんだったね。だが――」


 突如姿を消したゼノスは護の背後をとる。手刀で首を狙った一撃を護は目視せずに受け止めた。肉体活性魔法をアップデートし反射神経と感覚神経を研ぎ澄ませたのだ。そのまま肘打ちでゼノスに一撃入れる。


「ぐっ!」


 ゼノスは咄嗟に出の早い攻撃魔法で反撃する。護は透頑盾をアップデートし弱い攻撃を反射するバリアに変えて弾く。すぐに高位の雷系魔法を放ってくるが、護は速射雷撃(グリスヴァロンテ)を電磁波魔法としてアップデートし、雷撃の軌跡を捻じ曲げてしまった。そして炎魔の(アグニア)をアップデートし足から発炎させて氷の捕縛から脱したのだ。

 焦るゼノスは狙撃系の魔法を連発するが、護は炎を纏った脚で全てを蹴り飛ばしていく。


「古本護ッ! 何がそこまで君を強くする!?」


「大切な人を侮辱されたからだ!」


 護は右ストレートでゼノスを殴り飛ばした。インドア派の彼が人を殴ったのは生まれて初めてだったが綺麗に決まった。


「まさか、ここまで!」


 メーティスも護がここまで固有魔法を使いこなすとは思わなかった。幼い頃自身が敵わなかった魔術のプロであるゼノスと互角に打ち合っている。その途中、弾き合った流れ弾がメーティスに向かってしまう。


「きゃっ!」


 その時、メーティスの纏うローブが瞬き、流れ弾を打ち消した。


「……魔法が使えるようになった訳じゃないようですね。ローブが私を守った? ゼノスから貰ったローブがゼノスからの攻撃から守ってくれるなんて皮肉ですが……」


「い、今のは? ローブの力? でもあんな強力な防御効果があったなんて……」


ゼノスは二人の隙を見て略奪魔法でメーティスを奪い去った。

 だが護は即座に回避魔法・逃げ足をアップデート、俊足として疑似的に瞬間移動し、メーティスを奪い返したのだ。呆気にとられたゼノスはしかし、すぐに護を睨んだ。


「何故メーティスを信じられる? 俺は彼女を信じて裏切られたのだぞ!?」


「信じたいから信じるんだ! 他に理由はいらない!」


「成程。大したものだ。くくく、ではお前の信頼を砕いてやろう。メーティスへの信頼も。そして自分への信頼も」


 護はまるで警戒していなかった。メーティスが親友を誤って殺してしまったことも、テス・エトスの災害を起こした張本人である事も既に知っている。それを越える衝撃の事実など思いつかなかった。


「古本護、お前は自分が急に変わったと思わなかったか?」


「どういう意味だ?」


「おや、言ってなかったのか? まぁ言えるわけないよな」


 ゼノスは意味ありげに笑いながら視線だけメーティスに向ける。メーティスは彼の意図を察して激しく狼狽した。そして子供のように首を横に振りながら呟いた。


「やめて……護、聞いちゃいけません」


「メーティスさんは何か知っているのですか?」


 ゼノスの言葉よりもメーティスの反応の方が気になってしまうが、彼女は気まずそうに視線を反らすばかりである。そんなメーティスの代わりにゼノスが噛み砕いて説明する。


「お前は、室内に引きこもって本ばかり読んでいた口だろう? メーティスもそうだったからねぇ。それがいきなり異世界の生物と闘えるのは不自然だ。増して積極的に命懸けの冒険に行こうなんて思えるはずがない……」


 普通なら耳は貸さないが、護も自身の行動に疑問に思ったことがあった。積極性が増したこと、簡単に命をかけられるようになったこと、努力家になったこと。確かに精神構造に変化が見られた。そしてその転機に心当たりがあった。だがその影響を認めたくなった護は震えながら尋ねた。


「何が……言いたい?」


「分かっているだろう? 《パンドゥラの書》だ。お前はあの本に書かれている意味を全て教えてもらったのか?」


 困惑する護の反応から、彼が真実を知らないと確信したゼノスは懇切丁寧にその内容を語りだした。


「序章を読んだ者は魔法の才が与えれる。第一章を読めば多くの言語を理解できるようになる。第二章を読めば生命力が上がる。第三章は読者の頭脳を鍛える!」


「護! 聞かないで!」


 彼女の言う通り耳を塞ぐことはできたがそうすることはなかった。なぜなら護自身も疑問に思っていたことがあったからだ。ゼノスの言葉はその疑問に回答を示してくれるものだった。メーティスの声を打ち消すようにゼノスは意味の続きを諳んじる。


「さらに第四章には積極性を向上させる効果がある。第五章を読むだけで精神力を底上げされる。第六章には良き出会いを巡らせるように因果が変更される。そして最終章で異世界へと誘われるのさ!」


 つまり《パンドゥラの書》とは、読者にあらゆる能力を付加し、新世界へ送り出すというものだった。だからこそ、メーティスはその意味を知りながら敢えて黙っていたのだ。護の自信を砕かないように、傷つけないように。

 しかし、早めに打ち明けるべきだった。隠してしまっていたからこそゼノスの切り札として、護の戦意を削ぐために使われてしまったのだ。


「――お前は自分が強くなったと錯覚してるだろうが、それは全部禁書の力なんだよ! お前は積極性も覚悟も忍耐力もない、ただのつまらない人間なんだ!」


護が一番分かってはいた。自分に特別な力がないこと。そして人を牽引するような、物語の主人公が務まるような人物ではなかった。メーティスと出会って魔法という新技術に出会って、自分が変われたと思った。

だがそれは全て幻想だった。全ては《禁書・パンドゥラ》によって授けられたものだったのだ。ベルベットやココロとの出会いも作られた運命だったのかもしれない。そう考えるだけで胸が締め付けられた。


「……ぼくは……」


自分自身の力だと思ったものは全て借り物の力だった。そう理解した瞬間、今までの行動が嘘のように戦意喪失してしまった。


「本当にそっくりだな。魔法の才だけでなく精神的強さまでもパンドゥラによって与えられたものだと知らせた時、メーティスも同じ顔をしていたね」


 ゼノスは護に止めを刺すべく攻撃魔法を指から放つ。自信を失くした護は攻撃が見えても防ごうとはしなかった。その気力さえわかなかったのだ。



メーティスが護に目を付けたのも

ゼノスが護をいたぶるのもメーティスに似てるからですね。


護君、とばっちりです。

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