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メーティスの罪

悲しい物語です。


(そういえば生き残りは自分だけだって言ってたっけ)


 ゼノスの死もテス・エトスで起こった災害に関係があるのだろうか。考えている間にノイズが発生し始める。もう何度も見たので過去の映像が再生される兆候だと分かった。


「メーティスさん、顔色が悪いみたいですが……?」


「なんでも……ないです」


 今度の映像は今までとは違った。テス・エトス全域で天変地異が起こっていたのだ。落雷に地震、火災や大竜巻等、国家機関も対処しきれないようだ。民衆は阿鼻叫喚である。そんな中、小さな研究所の様な場所でゼノスがメーティスに詰め寄っていた。


『メーティス! どうしてあんなことをしたんだ!』


『仕方なかった! この世界の人は狂い始めている!』


『狂っているのは君だ! 早く《パンドゥラの書》を渡すんだ! 今ならまだ間に合う!』


『嫌よ! 渡さない! こんな本見つけなければよかった!』


 パンドゥラの書を奪還しようと手を伸ばす少年。メーティスは奪われまいと本を抱えながら魔法を発動した。無我夢中だった故に力の下限を間違えたのだろう。氷の防御魔法が鋭利に尖り、少年の左胸に刺さっていた。


『ゲホッ、メーティス……どう、して……』


 最後に伸ばした手が禁書に触れるが、そのまま力尽きてしまう。


『うわぁああああああああ!』


 メーティスが号泣しながら絶叫したところで記録映像が消えてしまった。


 映像を見た一同は沈黙した。ゼノスという少年の死にメーティスが直接関わっているとは思わなかった。この世界に来たメーティスが過呼吸をおこし、魔法が発動できなくなった原因が今見た出来事のせいだったのだろう。メーティスは涙を流しながら後ずさり、その場から逃げ出してしまった。誰よりも早く護が後を追いかける。

そして追いついた護は彼女の手を掴んで追求した。


「メーティスさん! 今の映像は本当なのですか? 現実に起こったことなのですか?」


「……軽蔑……しましたか?」


「あれは正当防衛だと思います。それに今の映像だけではなぜ二人が対立していたか分かりません。だから教えて下さい。貴女の口から真実を聞きたいです」


「……わかりました。貴方には聞く権利があります。ベルベットとココロにも」


 護から真剣な眼で見つめられた彼女は自分の過去を明かす覚悟を決めたようだ。元の場所に戻ったメーティスは仲間三人に対して今度は包み隠さずに全てのことを話してくれた。


 幼い頃、ゼノスと共に魔法の特訓をしていたメーティスだがその差が埋まることはなかった。だがある日、パンドゥラの書を発見したことから大きく運命が変わる。


『メーティス、最近調子がいいみたいだけど?』


『やっぱり、ゼノスは分かっちゃうね』


 気心の知れた間柄のゼノスはメキメキと魔術を習得するようになったメーティスの変化に直ぐに気付いた。そしてメーティスも隠し通している訳ではなかったので自身の手に入れた魔術書の存在を明かした。


「――ですが、これが間違いだったのです」


 後悔を帯びた表情で天を仰いだメーティスは続きを話し始めた。


『この魔術書はスゴイ! メーティス、魔術学会の人達にも見せよう! これは世界の魔法学の根本を覆す世紀の大発見だ』


『本当? 皆の暮らしが豊かになるかしら? 不治の病の治療とか』


『勿論さ!』


 当時のメーティスは自身の国が豊かになることを願っていた。元々魔術師を志したのも国家に貢献したかったからである。

 その願いは簡単にかなった。ゼノスが指摘した通り《パンドゥラの書》は正規の大発見として魔法学会に注目され、魔術の新理論の確立、新魔法の開発が飛躍的に進んだ。それは人々の生活を豊かにしたのである。ちなみに魔法のローブはこの時に貰ったらしい。

 だが魔法新技術の発展は人々に豊かさをもたらすだけではなかった。新魔法の開発は軍事分野でも行われ、メーティスの祖国は軍事国家として世界を牽引するようになったのだ。

 そこまで話し終えたメーティスは額を押さえ、絞り出すように言った。


「その躍進はテス・エトスのみに留まりませんでした。星屑落下地点でパンドゥラの書を使い異世界の扉を開いたのです。突き進むのは異世界の植民地化。私の故郷は……自分達より劣った文明の世界を支配下に置いたのです」


「なんですって……!」


 奴隷として連れられる異世界人達、搾取される異世界。異世界の財産を簒奪して喝采を叫ぶ同郷人達。それはもう自身が守ろうとした、役に立とうとした人民の姿ではなかった。彼女が異世界のものを〝異物〟と判断して、他世界への干渉を嫌った理由は故郷の植民地主義になったのだ。涙を流しながら語るメーティスにココロは悲しげに呟いた。


「劣ったと判断されれば駆逐される。デッタルムでもシナプスネットがそう判断したから戦争が起きた」


「私は植民地主義に邁進する故郷が嫌だった。その引き金を引いてしまったのが私が《パンドゥラの書》を世間に公表したせいだと思ったら、いても立ってもいられず……」


メーティスは既に国に寄贈されていたパンドゥラの書を盗んだ。そして、迷走する世界を元に戻すためにパンドゥラの書に秘節として隠されていた【再編成魔法】を発動した。故郷が植民地化を始める前の優しい世界を願ったのだ。満ち足りていた訳ではないが輝いていた過去のように戻ることを祈った。

彼女の想いによって発動した【再編成魔法】は異物と混じった世界を元に戻そうと天変地異を引き起こした。


「テス・エトスの災害はメーティスさんの再編成魔法だったのですね」


「――それがあのゼノス死亡事故に繋がる訳か」


 あの時、ゼノスはパンドゥラの書を盗んで再編成魔法を発動したメーティスを止めようとしたのだろう。そうして悲劇が起きてしまった。


「折角テス・エトスは潤っていたのに全てを君が台無しにしたんだよ。メーティス……」


 いきなり会話に入ってきた声に驚いて全員が上空を見上げるとそこには一人の少年が空に浮かんでいた。まさにメーティスと共に成長し、彼女の氷に貫かれて絶命したはずのゼノスが涼しい顔で佇んでいた。


「お初にお目にかかる。メーティスの友たちよ。俺の名前はゼノス・ロトリコ・マルティアナ。メーティスの友人だった者だよ」


「まさか……あ、貴方は死んだはず……」


 死人の出現に一同は恐怖と驚きの入り交じった複雑な表情をしていた。確かに彼は死んでいた。だからこそメーティスは過呼吸を起こし、魔法が発動できなくなる程のトラウマを抱えたのだ。しかし彼は現に存在し、微笑みかけている。


「メーティス、自分の罪と一緒に僕の固有魔法を忘れたのかい?」


 メーティスは大きく目を見開いた。彼の固有魔法の特性を思い出したのだ。


「――〝残留思念(カルディア)〟。記憶の中のモノを短期間現像させたり、自身の思考の一部をモノに宿らせる魔法。アレは伝達用の魔法でしかなかったはず……」


「自分の意志を宿らせるのも修得していたよ。披露する前に殺されてしまったけど……」


「じゃあやっぱり今までの記録映像もモンスターも全部テメーの仕業だったのか! 悪趣味な真似しやがって!」


「そう怒らないで。物忘れが激しい友人に過去の罪を思い出してもらいたかったんだ」


 ゼノスは慇懃無礼に会釈した。護は彼が死ぬ記録映像をよく思い出してみる。彼が最後に《パンドゥラの書》に触れていた。その時に固有魔法【残留思念(カルディア)】を発動させたに違いなかった。つまり今の彼は本人が生前に残した残留思念そのものなのだ。


「成程。《パンドゥラの書》に自身を宿らせて世界図書喪失の騒動を引き起こしたのか!?」


「随分苦労したよ。なにせこの《パンドゥラの書》に残留思念(カルディア)を仕掛けたのは死の際だったから……仕掛けた当初僕の意思は弱かった。だから時を待ったんだ。メーティスに復讐するときを! そのチャンスをね!」


 憎悪のこもった瞳を向けるゼノス。


「君が死んだのは事故みたいなものだったじゃないか」


「俺の死自体は恨んじゃいないよ。問題はその切っ掛けになった方さ」

 ゼノスの死の切っ掛けとなったのは、メーティスがパンドゥラの書を盗んで発動したリセットの魔法である。その魔法のせいで天災が巻き起こり、テス・エトスは滅亡したのだ。


「あれはっ! 再編成魔法でまさか人が死ぬとは思わなかったっ! 他世界から搾取しない元のテス・エトスに戻れると思ったのにっ!」


「知らないなんて言い訳だよ。事実君は再編成魔法によりテス・エトスのエトシャ人を五億人殺したんだ!」



メーティスは以前禁書を使用した人物でした。

だから詳細に知っていたのです。

そして禁書の力で異世界さえ支配しようとした同胞を忌避し、正そうとした結果滅亡しました。


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