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合流

相変わらず過去の映像が流れます。


仲間を探して歩いていると、茂った森の付近でまた立体映像が再生された。


『危ないよ、ここは怖いモンスターが出るって噂だよ』


『新しい魔法を試すには人気のない所がいいだろ?』


 どんどん奥へ進む二人。そして懸念通り狼のようなモンスターが目の前に現れてしまった。涎を流して鋭い牙を向ける猛獣はトレスケアの狼をより凶暴に巨大にしたような姿だった。怯える子供達の前に行こうとする護をメーティスが引き留めた。


「助けないと……!」


「無駄ですよ。これは過去に起こった出来事です。私も彼も命を落とすことはありません」


 彼女の指摘通りだった。過去に起こったことは止めようがない。護は二人の無事を祈りつつ映像を静観する。

獣は幼い二人に向かって飛びかかった。


真空弾バキュームガン!』


ゼノスは負傷しつつも魔法で獣を追い払った。だが追い払った獣は立体映像を見ていた護達に向かって突進してくる。


「また!? 記憶ではすぐに逃げていったのに!」


 メーティスは魔法の構えを取るが、やはり発動しない。護は無防備な彼女を守るように自分の腕を獣に噛ませた。


「ぐっ! この! 炎魔の(アグニア)! アップデート!」


 噛みつかれた護の手が炎を纏い、獣の顎を焼く。火傷を負った獣は驚いたように飛び退き、逃げ去っていった。

 護の腕から滴り落ちる血を見たメーティスが治癒系魔法を施そうと手をかざすがやはり何も起きなかった。


「いつもなら治せたのに……」


「これくらいなんともないですよ」


 護は強がるが血が滲む腕は酷く痛そうだった。どうにかしようとするメーティスは残っていた立体映像にはちょうどゼノスの怪我した肩にハンカチを結び付けるメーティスの姿が再生されたのを見つける。そして持っていたハンカチを護の腕にきつく縛り付ける。


「私は魔法に頼りすぎていたようです。以前は何もできなかったからこそ何かをしようと奮闘していました」


 幼い自分の背中を見つめるメーティス。


「僕はメーティスさんに助けられてきましたよ。魔法だけじゃなくて人間的な意味でも」


「そういってもらえると……嬉しいですが」


「また変な敵が出てくるかもしれません。先を急ぎましょう」


 仲間の探索を再開している間にいくつもの記録再生魔法が発動した。映像には必ずメーティスと共にゼノスという少年が出てきた。彼はメーティスと共に魔法を学んだり、馬鹿な悪戯をしたりして楽しんでいた。メ―ティスはやはり嬉しさと哀しみが交互に混ざった複雑な表情で映像を見ていた。

しばらくすると、瓦礫の溢れる場所に出た。近くの植物が生えた看板には現地文字で星屑落下地点と書かれてあった。


「ここってどういう場所なのです?」


「ここは異世界から物が落ちてくる場所です。テス・エトスの空は他の世界と違い、異世界と繋がっているのです。故にこそ飛行機などの航空技術でこちらから行くことはできませんが、異世界からの落し物は頻繁にあるのです」


「だから星屑落下地点なんですね」


メーティスが何かを伝えようとした時、また記録映像が再生される。

 少しばかり成長したメーティスが瓦礫の山で星に願いを込めて祈っている姿が映される。やがて空が瞬き、何かが落下してきた。


『これは……本?』


 彼女が拾い上げたのは一冊の本《パンドゥラの書》だった。彼女もまた禁書の禁忌に触れた者だったのだ。


「メーティスさん、貴女も《パンドゥラの書》を?」


「……はい。私もあなたと同じ過ちをしたからこそ、その対処法を知っていたのです。隠していたわけではないのですが……」


 再生される過去のメーティスは護と同じように目次の内容を音読していく。すると、最後の一説を読んだ時、突風が起こった。星の一部が面積を広げて何かを落としてきたのだ。それはテス・エトスに存在する生命体とは異なる種類の怪物だった。


「僕が読んだ時はこんな化け物が出てきませんでしたが?」


「最後の節は異世界の扉を開くと教えたはずです。たまたま異世界のモンスターが落ちてきてしまったのですよ」


 映像のメーティスはモンスター達に囲まれてしまう。


『これはまだ練習中だけど、転移魔法!』


 映像のメーティスは持っていた魔導書の魔法を唱えた。すると彼女の姿は消えてしまった。パンドゥラの書の魔法の才を授ける力が作用したようだ。護の時は魔術に関しての基礎知識がなかったが、元々魔術師だったメーティスは簡単にコツを掴むことができたのだ。


「護、私達も脱出しましょう。私の記憶が正しければ過去の私は安全なところに逃れているはず。でもこいつらは今までの記録映像と同じで実体を持っています」


 彼女の言うとおり、異界の怪物達は確かな実体をもって護達に狙いを定めている。護はメーティスを庇うように前に立った。自身の魔術をアップロードして闘う。だがどこの世界から現れたか分からない怪物達は耐久力が凄まじかった。数体は倒せてもメーティスを守りながら戦うのは骨が折れる。


「逃げるにしても退路を確保しないと」


「くっ! 私に魔法が使えたら――」


 危機迫るその時、赤い落雷が怪物達を飲みこんだ。


「よォ、探したぜ。護、メーティス」


「二人の無事を確認。周囲の敵を殲滅する」


「ベルさん! ココロ!」


ベルベットの大火力魔法とココロのミサイルの嵐が残った敵を焼き尽して行く。まさに圧巻で頼もしかった。そして気が付いた時には敵の存在は消し炭になっていた。


 彼女は魔王として様々な魔法に精通しているのだ。探索魔法が使えるだろう。それにココロの探知レーダーも侮れない。デッタルムでは抵抗軍の隠れた人間達も容易に発見していた。護達の発見は簡単だっただろう。しかし当の二人は渋い顔をしていた。


「悪いな。お前達の発見に手間取ったのは探知魔法が上手く作用しなかったからだ。霞みに隠されていたみたいに護達の反応が消えてな」


「私のレーダーも漠然とした位置しか特定できなかった」


「ココロと協力して何とか位置を割り出してきたんだ。しっかし、この世界はどうなってるんだ? 勝手に俺様達を巻きこみやがったし、訳わかんねー」


 ココロは周囲の空気を検知し始めた。大気の流れからそこに含まれる成分まで細かく分析する。そして演算を終えた彼女は全員に結果を伝えた。


「この世界には特殊な磁場が発生している。魔術の原理は分からないが、これが二人の探知魔法を妨害していると思われる」


「私の場合は魔法そのものが使えませんが……」


「ん? どういうことだ?」


 上手く言葉を伝えられないメーティスに代わって護が今の事情をベルベットとココロに

簡潔に説明した。


「――成程な。やはりここはメーティスの故郷だったか」


「やはり、というとベルさんもあの記録映像魔法をみたのですか?」


「まぁな。中々悪趣味だったぜ」


「身体的特徴が100%一致したので本人の幼少期と判断した」


 ココロは自身が見た幼少期のメーティスと現代のメーティスのデータを見せる。二つのデータを重ねると見事に一致した。二人もメーティスの幼少期として過去の映像をいくつか見てきたようだ。


「――問題は映像を見せていたのが誰なのかということ」


「それに探知魔法が妨害されてメーティス達が隠されていたってことは誰かの明確な意図があったってことだぜ? ココロとは直ぐに合流できたからな」


「やはり、僕らをこのテス・エトスに誘った人物がいるってことですね」


 考えられるのはメーティスと共に魔法を学んでいるゼノスという少年である。皆の考えを察したメーティスは首を横に振った。


「彼ではありません」


「ですがメーティスさん、こんな映像を見せる意図があるのはゼノスって人くらいしか」


「そーだぜ? 幼馴染を信じたい気持ちはわかるけどよォ……」


「そう言う意味ではありません。……彼は既に死んでいるからです!」



怪しい幼馴染のゼノスくんは既に死んでいました。

次話で詳細が語られます。

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