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テス・エトス

残る世界図書はこの物語のはじまりの一冊禁書のみです。

 本の中に飛び込んだ護達は過ぎ行くデッタルムでの出来事を回想する。


「デッタルム、機械と人とが戦争していた世界……か。僕達の世界トレスケアが同じようにならないとは限らないんだよね」


 護の住む世界も技術は発展途上。数々のAIが開発され、機械に仕事が奪われるのではないかという懸念すら持ちあがり始めている。


「そうですね。そうならないために努力を怠ってはいけません。辛い出来事ばかりではありませんでした。なかなか興味深いことも多かったですし」


「新しい仲間も加わったしな。お前のことはココロって呼べばいいのか?」


「私の名前はココロ・ゴールドキラー。好きなように呼べばいい」


「え、でもそのファミリーネームは……」


 抵抗軍が付けた仇名である。意味からして敬意はなく純粋な畏怖と憎悪から名付けたのだろう。彼女にとっては人間が勝手につけた名前で興味はなかったはずだ。呪術書により心を持った後では黄金な殺戮者何て名前は嫌悪するはずだ。だが彼女は自らファミリーネームとして名乗ったのだ。


「護がつけてくれた名前と、自分の罪を忘れないように」


 殺戮兵器として多くの人間の命を奪ったことは心と感情を得た今罪悪感として彼女の心をむしばんでいる。名前に抱えて背負って行くことでその罪と折り合いをつけたようと決めたらしい。それが自壊を選んだシナプスネットと彼女の違いなのだろう。


「ココロ、あなたは強いですね」


「あなたの魔法という技術も中々だった」


 突然褒められたココロは反射的に相手も褒める。人間のコミュニケーションを習得しようと頑張っているようだ。だがメーティスの称えた強さは実力の方ではなかった。


「私が称えたのは精神的な強さですよ。己の罪に向き合うのは難しい。それも自我に目覚めてから短時間でその生き方を決めたのだから大したものです」


 ココロはメーティスの言葉の意味があまりよく分かっていないようだった。


話している間に世界図書館についた。護は時間酔いを感じなかった。世界を渡ることになれてきたようだ。相変わらず世界図書館は本の山である。デッタルムでは書物の束など中々見なかったからだろうか。ココロは物珍しそうに本を手に取って読み始める。


「私のデータベースにはない言語」


「本に興味がありますか? 危険な本もありますから全てを見せるわけにはいけませんが、こちらの本棚なら好きな本を読んでもいいですよ」


「本当? なら言語から教えてほしい」


「いいでしょう。本好きに悪い子はいませんからね」


 メーティスは教育するようにお勧めの本を彼女に紹介した。護に魔法を教えたり、ココロに本を紹介したり、メーティスは随分面倒見がいいらしい。ココロの方も嫌がるそぶりはなくどんどんと本の内容を覚えていく。人間の感情や文化的な違いで分からない部分は積極的に補足説明をしていた。 ココロとは本を通じて打ち解けたようだ。



「呑気にやっていていいのか? 世界図書はあと一冊あるんだろ?」


「一番重要な《禁書パンドゥラ》が回収できてないじゃないですか」


 護は自身の過ちを思い出す。不用意に読んでしまったせいで他の世界図書と共に異世界二散らばってしまったのだ。アレを回収しないことには旅は終わらない。寧ろ、更なる災厄を生む可能性すらある。


「メーティスさん! 早く探しましょうよ!」


「それが……どの世界にも反応がないのです。探さないのではなく探せないのですよ」


 メーティスは気まずそうに目を反らしながら言った。彼女の発動している検索魔法でも【該当書物なし】と出ている。今までこんなことはなかった。カイムが持っていた魔導書は所持者が転移魔法で飛んでいたので検索に引っかかりにくかったが、それでも検索できてはいた。《聖書》《兵書》《呪術書》は言うまでもなくメーティスの検索魔法にかかっている。そんな万能検索ツールが今では全く反応がない。これでは旅立つ世界を選択することもできない。


「じゃあ虱潰しでもするか?」


「ベルベット、世界が何個あると思ってるんです? あなたの寿命でも足りませんよ」


「それなら私、機械だから寿命気にせず探せるよ?」


「ココロ、僕らが死んでたら意味ないと思うよ」


――その時、突如世界図書館が大きく振動し始めた。本棚から多数の本が落ちる程強い揺れだった。


「地震!? 世界図書館でも起こるんですか!?」


「こんなことは今まで起きたことがありませんよ!?」


「じゃあ敵の奇襲か!?」


 警戒心をむき出しにするベルベット。対照的にココロは冷静に分析する。


「震源地確認。振動の元はあっち」


 ココロが指さしたのは古びた扉だった。護は見覚えがあった。


「あれは忘却書庫ですよね? 何か危険な本も入ってたんですか!?」


「元々欠損した本やいらなくなったものを置いていただけです。そもそも私の前任者の私物がほとんどで……私が置いたものは数えるくらいしか――」


「どうでもいい。振動の原因がここなら止めるまでだ!」


 ベルベットが扉を蹴破るとそこには輝く一冊の本が漂っていた。目当ての《パンドゥラの書》ではなく、もっと古びた本だ。勝手にページがめくれていく。その清書スタイルから本の種類は現歴書であることが分かる。世界言語が分かる護にはその本のタイトルを朗読することができた。


「テス……エトス? どこの世界の現歴書だ?」


 その場にいた誰もが勝手に開かれた現歴書に驚いているがただ一人、メーティスの驚きだけは他の三人と異なっていた。


「テス・エトス……まさかっ! 何で今になって!」


「メーティスさん?」


 テス・エトスの現歴書は腕のような形をした光を何本も伸ばしてメーティスを掴む。普段なら対処する彼女だが動揺故に呆然と立ったままである。


「くそっ! 肉体活性(レイズ)!」


 護は肉体強化の魔法で速度を速めて攫われる直後にメーティスの手を掴んだ。

 そのまま現歴書は大きく発光し、護とメーティス、ベルベットとココロをも呑みこんだ。

 現歴書の中に吸い込まれるということは異世界に誘われるということだ。本自らが人間を攫うなんてことはなかった。だがおかしいのはそれだけではなかった。普段はその世界の歴史や出来事が記憶に流れ込んでくるが、今回は全くそういうことはなかったのだ。ただ真っ暗なモノローグにノイズが奔るくらいである。


 そして気が付くと、テス・エトスの中に放り出されていた。


「時間酔いがないのは良いけど……。なんでこんなことに……」


 護は近くに倒れているメーティスに気づき、その体を揺り動かす。


「メーティスさん! メーティスさん!」


「……うっ……まも、る?」


 意識が戻ったようだ。咄嗟に腕を掴んだのがよかったようで二人は同じ場所に飛ばされたらしい。メーティスを引っ張って起き上がらせる。そして彼女は目の前に広がる世界を見た瞬間、蒼い顔をした。


「ここは……まさか。いえ、そんなはずは……。今更何で」


「吸い込まれた現歴書のタイトルはテス・エトスでした。どういう世界なんですか?」


 メーティスは何かに怯えるように震えている。どんな世界に来ても動じなかった彼女が明らかに何かに怯えて動揺していた。視線の先には倒壊した建物があるばかりだ。建物の外観は古代ギリシャに近いようだ。或いはマギタジアにも似ているかもしれない。 倒壊した建物から草木が生える様はノスタルジックさを感じさせた。


「メーティスさん、どうかしたのですか? この世界に来たことがあるのですか?」


「ハァハァ……どう、して……」


 過呼吸を起こして蹲るメーティス。彼女の症状に驚きながらも護は必死に介抱する。

 背中を擦っているとやがて呼吸音が正常に戻った。


「だ、大丈夫ですか?」


「ええ。すみません。それよりベルベットとココロの姿が見えませんが?」


「二人も一緒に飛ばされたのが見えました。けれどここに着く前に逸れてしまったみたいですね。急いで合流しないと――」




世界図書館でまったりしていましたが突如別の世界に飛ばされます。

果たしてどんなせかいなのでしょうか?

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