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終戦

デッタルム編のエピローグ的なお話です。


やがて周囲を巻きこんだ巨大な爆発は収まった。


「どうやら助かったみたいだな」


「皆さん、無事ですか?」


「そうだ! ココロッ!」


ココロの中に匿われていた護達が外に出て驚いた。彼女は主たる要塞機関の半分を失っていた。それでも中枢にいる護達のためにと踏ん張ったらしい。彼女は半壊しながらも抵抗軍を守り抜いたのだ。ゆっくりと人型に可変しようとするが上手くいかない。


「無理したら駄目だ」


『……人の姿に、戻りたい。これは……私の願望』


 ココロが強い自己主張をするのは珍しい。虚を突かれた護は制止できなかった。

 途中でつっかえながらも彼女は人型に可変した。だが顔の半分と右腕は機械の素体が見えてしまっている。その姿は痛々しかった。弱々しく伸ばされる手を護はぎゅっと握った。


「シナプスネットは……沢山の命を奪った重みに耐えきれずに自壊した。私もそうすべきかもしれない。……でも、もっと護の傍で学びたい……。護、私の行動は過去の清算を少しでもできただろうか?」


「過去の……清算?」


 ココロはGKとして人間狩りをしていた頃の罪悪感に苛まれていたらしい。

 護は彼女の顔を見ながら涙をぽろぽろと流した。


「十分だ。十分だよ。そんなにボロボロになってまで僕達を救ってくれたココロを誰が責めるって言うんだ……」


 護が流した涙は丁度ココロの瞳に入った後、その頬をつたった。まるで彼女本人が涙を流しているかのように――。

 その日、デッタルムでは公式に機械軍の総帥シナプスネットを破壊したと全世界に配信した。半信半疑の民間人が勝利を実感するのは少し後になってからだった。



 戦闘とココロ損傷でゆっくり話合う機会はなかったのでラウンジのような場所で互いの健闘をたたえ合う。


「メーティスさん。ベルベットさん。セントラルに先に侵入してるなんて流石ですね。強敵を潰してくれていたおかげで追跡しやすかったです」


 ベルベットは護の頭を胸に抱いて愉快に笑う。


「マモル~……固有魔法を上手く使いこなしやがって! 成長したじゃねーか!」


「そんなことは……」


「いいえ、誇るべきです。貴方は短時間で強くなった。理想を現実に変えられるくらいに」


 自分を褒めてくれるのは嬉しいが、そこで護は以前彼女に言った言葉を思い出して深々と頭を下げた。


「メーティスさん、以前は責めるようなことを言ってすみませんでした! 貴方は僕の身の危険を心配してくれていたのに!」


「えっ……いや、そういうわけでは……」


 真意を見抜かれるとは思っていなかったのだろう。メーティスは顔を真っ赤にして照れてしまった。そんな二人をベルベットはニヤニヤとしながら冷やかした。そんな彼を無視してメーティスは護を軽く抱擁した後、小さくほほ笑んだ。


「これからも頼りにしていますよ、護」


「はい!」


 豪快に扉が蹴破られアッシュ達が現れた。随分酔っているようである。


「主役が来なきゃはじまんねーだろぉ? 早く来いよ~……ひっく」


「ご指名が入っちまった。まぁこの世界の酒の味を知っていても悪くはねーか。行こうぜ」


「すみません。僕は寄るところがあるので」


「どっか行くとこあるのか?」


「はい。ココロのところへ」


「左様ですか。では、私達は下に降りています。抵抗軍が顔を出せとうるさいので」


 メーティスは気を使ったのかベルベットを引っ張って飲み会の場へ向かった。

 彼女の気遣いに感謝しつつ、護は整備室に向かった。


 整備室に入ると、ココロを修理するツバサが目に入った。

 集中して修理しているので、護は軽くお辞儀をして彼女の好物を差し入れするにとどめる。そしてココロに目を向けた。

 修理を受けるココロは窓の外を見上げている。抵抗軍が人類の勝利を祝した花火を打ち上げているのだ。夜空に咲く大輪を瞬きせずに見つめている。


「……綺麗。これが花火?」


「ああ、そうだよ。近くで見せられないのが残念だけど」


 余程好きになったようでココロはずっと夜空に上がる花火を見つめている。

 護は未だに酷い損傷を追った彼女の体を撫でながら労わる。護の心配を察したツバサがココロを修理しながら話しかけてきた。


「そう心配そうな顔をするでない。ワシにかかればこのくらいの傷はすぐに治せる。ココロには自動修復装置も積んであったからな。予想より早く治りそうじゃ」


「ありがとうございます、ツバサさん」


「礼には及ばん。彼女も功労者の一人じゃからの。それより、お仲間のように宴の中心に参加してきたらどうじゃ? 今の時代では入手できない高級の酒も君らに優先するとアッシュはいっとったぞ?」


 窓からのぞくと、地表ではベルベットとアッシュが肩を組みながら無礼講になっていた。メーティスはデッタルムの料理が気に入ったようで何度もお代わりしている。


「英雄なんじゃから、あそこに突撃すればいいのじゃ」


「僕は未成年ですし、今はココロの傍にいたいので……」


 護はココロ手を強く握るとすぐに握り返してきた。


「ほぅ、ここまで人に愛された機械は珍しいの……」


 ツバサのつぶやきは修理音にかき消された。



 ――何日も続いた宴は酒が切れたことで終わりを迎えた。デッタルムの人々はこれからのことを考え始めたのだ。今までは考える余裕さえなかったが、現実的に食糧の自給自足やインフラの再整備等やらなければならないことが沢山あった。抵抗軍も武器を捨てて旧時代の職種に応じて文明の立て直しに尽力することになった。


人類立て直しの指導者に祭り上げられたアッシュは疲れた様子で挨拶に来た。懐から本を取り出して護に渡す。


「長い間借りていてすまなかった。この《兵書ハンヴァルト》は返還する」


「では延滞料金をいただきます」


「ええ!?」


「冗談ですよ。ありがとうございます。確かに受け取りました」


 アッシュは兵書に未練は全くないようだ。返還の約束があったこと、戦争が終わって必要なくなったのが大きな理由だ。最終局面で兵書に頼りすぎていた部分が露呈したのも大きいかもしれない。彼は自らの力でやっていこうと決意したのだ。

 一時の平穏が訪れたからかメーティスは重要なことを思い出した。


「そう言えば、戦時中は聞けませんでしたが、《兵書ハンヴァルト》は元々アッシュが持っていたのですよね?」


「ああ。民間人を助けた時にお礼にと渡されたんだ。まさか異世界の書物とは思わなかったが……」


「そいつはどこ行ったんだ?」


「さぁな。気が付いたらいなくなってた。この世界では出会った人間が次の瞬間に死んでることは珍しくないが。だが異世界の書物を持ってたってことはキミ達と同じ異世界人なんじゃないのか? 本の効果も知ってたみたいだったし……」


 護は頭を捻る。そもそも異世界人がおいそれと他の世界に行けるはずがない。護達はメーティスの世界司書としての立場と現歴書を使ってこの世界に訪れているのだ。他の方法で来た人間がいないとも限らないが、そんな人間が都合よく世界図書を拾うのだろうかと疑問だった。


「世界図書を手に入れた人は皆誰かから譲り受けてるんですよね」


「言われてみれば、ベルベットもカイムもアッシュもそうですね」


 目を合わせる護とメーティス。二人は同じことを考えているようだ。遅れてベルベットも気が付いた。


「同一人物が世界図書を渡したってのか? だが何のために?」


 半信半疑のベルベットに護は自身の考えを述べる。


「目的は分かりませんが、マギタジアの魔王と勇者、デッタルムの抵抗軍……その世界に影響力を持つ者の手にわたっています。……何か作為的なものを感じる」


 突如真面目に話し合う護達。だが疑惑が深まるばかりで結論が出ることはなかった。


 話題はいつの間に変わり、今後の身の振り方についての話になった。


「そうそう、カーツハイルは戦死したことにしたよ。抵抗軍の中には彼を慕う者は多い。名誉の戦死として歴史に名を残した方がいいだろう。復興の足掛かりになる」


「賢明な判断ですね。真実を話せば混乱を招きます」


「どこの世界でも政治的思惑はあるもんだな……」


 ベルベットは玉座についていた頃を思い出したのだろうか、渋い顔をしていた。彼女も魔王シューベルトとして厄介な政治的駆け引きもやっていたのだろう。

 アッシュは護に纏わりつくココロに目を向けた。


「その子を連れていくのか?」


「はい。ココロは僕らの仲間ですから。それに彼女や抵抗軍のためにもこの世界を離れた方が良いと思います」


 バレルが大きく頷いた。


「確かにな。GKを恨む奴は未だに多い。そうでなくても再プログラミングされていないGKはいつ人間に牙を向くか分からない爆弾でもあるしなぁ」


「連れていってくれるならその方がいい。彼女は仲間の仇だけど……私達を守ってくれた恩人でもあるから……」


 ヘレンは複雑そうな表情でココロを見つめた後、目線を反らした。



 世界図書の回収も果たした護達はココロの回復を待って出発することにした。目的は達成していたが、連日祝勝会で掴まってしまったためデッタルムからの旅立ちが遅れたのだ。皆が騒ぎ疲れて寝静まったところをそーっと抜け出していく。


「少し……名残惜しいですね」


「メーティスさん、遠足でも嫌だって言ってませんでしたか?」


「勝利の余韻と宴の後だと濁った世界も綺麗に見えるものです」


「まぁ俺様達は世界を救った英雄だからなぁ。持ちあげられる嬉しさってのはある。だが玉座は心地いいだけじゃねーぞ?」


「ははは……」


 メーティスが魔法を発動すると、空に巨大な本の見開きページが現れる。いつもの期間ルートである。すぐ頭上に召喚しなかったのは、デッタルムの風景を見るためだった。護達は新たな仲間ココロを連れて空を飛んで行く。


「確かに綺麗だ……」


 振り返る世界は朝日に照らされて輝いていた。地上の機械の残骸に太陽光が反射して星空が広がっているかのような錯覚さえ覚える。

突如『ドン!』と大きな音がした。見ると花火が打ち上げられていた。次々に撃ちあげられる花火にベルベットは愉快そうに笑った。


「野郎ども、祝勝会で使い切ったんじゃねーのかよ」


「わざわざ見送りにきてくれたようですね」


 一部の軍隊は戦闘機で煙を焚いて鮮やかな航空ショーを行う。アクロバットなど曲技的な飛行で護達の旅立つを祝福する。地上を見ると、空を見上げる戦友達と目が合った。


「アッシュさん、ツバサさん、ヘレンさん、バレルさん……」


「英雄達の旅立ちに敬礼!」


地上にいる抵抗軍人達は一様に敬礼をした。デッタルム解放の噂を聞きつけて集まってきた一般人達もつられて敬礼する。大勢の祝福の中、涙しながら護達は異界の扉の中に帰っていった。護達の姿が消えるのを見送ると、アッシュは部下達に向かって叫んだ。


「さぁ! やることは山ほどあるぞ! 気を引き締めろ!」


「「YES,Sir!」」


 抵抗軍たちは人間らしい生活を取り戻すべく気炎を上げた。


デッタルム編いかがでしたでしょうか?

感情を持たない殺戮兵器が愛を知るのは今となってはベタベタのテーマですが……。

自分は某SFのファンなので書いていて楽しかったです。

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