頼もしい背中
いよいよデッタルム編クライマックスです
勝利の喝采を叫ぶ抵抗軍達の背後のモニターの電源がつく。
それを皮切りに一度落ちた全ての電源がすぐに復旧した。さらに完全にシャットアウトしたシナプスネットが再起動を始めたのだ。
「どうなってるんだ。ウィルス打てば勝つんじゃなかったのか!?」
動揺を隠せない抵抗軍達。メーティスとベルベットも唖然としている。そんな中、カーツハイルだけが何かを察したように笑みを浮かべた。
「アンチウィルスプログラムがここまで進化するとはな。私の想定通り……シナプスネットは史上最高のコンピュータだ」
「アンタ、何言ってんだ!? シナプスネットを破壊しようとしてんだろ!?」
ベルベットはカーツハイルの胸ぐらを掴んで怒鳴るように質問する。だが彼は全く動じずに答えた。
「破壊などできんよ。アレは私が作った頃より進化している」
「作った? 閣下……どういうことですか?」
「アッシュ、お前ほどの男がおかしいとは思わなかったのか? あんな高度なAIが突如現れたことを。シナプスネットは我が国の軍部が作ったAIだ。私はプログラマーとしてそのプロジェクトに参加していたのだよ」
「そんな……嘘ですよ。だって閣下は俺達人類を導いて……」
打ち明けられた事実を受け止めきれないアッシュは現実逃避した。ただメーティスは納得したように頷く。
「成程。開発者だからこそ、AIが次にとる行動を予測して対抗できたという訳ですか」
その分析にアッシュはハッとする。指導者として妄信していたが、カーツハイルの作戦内容の正確さ、機械軍の動きの読み方等も思い返せば既に知っている風だと得心したのだ。
「贖罪のつもりかしらんがそれで負けてたら世話ねーよ」
「そうだな。最初は義務感責任感で抵抗軍をまとめた。だが私の立てた作戦を攻略してくるAIに私は興奮した。この戦争は人類の命運をかけたモノではなく、いつしか親と子の知恵比べになっていた。だが成長した子に老いた親は勝てないものだな」
アッシュは耐えられなくなりカーツハイルを殴り飛ばした。だが既にカーツハイルはアッシュを見ていなかった。その瞳に写るのは進化したAIシナプスネットだった。
「ふざけるなっ! 俺達抵抗軍はアンタの一人芝居に付き合わされたわけだ!」
「そう感情的になるな。私も人類の勝利のために闘ったよ。だがこの戦は人類の負けだ。私が立てた最後の作戦に奴は対抗した。本体がアンチウィルスプログラムによって再起動するのに合わせてウィルスプログラムの制作履歴から抵抗軍の基地を特定される」
「なんだって!?」
「シナプスネットが完全復帰する数分後、一斉攻撃が始まる。ハハハ、完璧だよ! 唯一の誤算はアレが敵に回ってしまったことだな」
子の出世を喜ぶ親のようにシナプスネット復帰を喜ぶカーツハイル。葉巻に火をつけて満足そうに一服していた。彼をリーダーと慕い、人類の存亡をかけて戦ってきたアッシュは当然激怒した。
「多くの人がお前を信じていたんだぞ! 人類文明を取り戻すために闘ってきたんだぞ!」
「信じること、命令に従うことしかできんから、AIに負けるのさ」
「このッ! お前のせいで何億の人間が死んだと思ってる!?」
カーツハイルは謝罪もなく、不気味な笑みを作っただけだった。
「その事実こそ私が作ったAIが優秀だという証じゃないか。そして我々も滅ぼしたシナプスネットが次に何を成すのか興味があるな。ハハハ!」
「クソ野郎がっ!」
アッシュはメ―ティス達が止める間もなく、カーツハイルに向けて引き金を引く。
『パァン』という乾いた音の後にドサリと誰かが倒れる音が響いた。
だが元凶を殺したところでシナプスネットは滅びない。アッシュは様々なウィルスプログラムを送るが全く効果はない。外部からのアクセスもできない状態になっていた。
何か手はないかと鞄を漁っていると《兵書》が目に入った。
今日のために実行した作戦は失敗した。怒りと混乱で支配された今の極限状態では碌な作戦が思いつかない。彼が最後に頼るのは異世界の異物しかなかったのだ。
「頼む。この状況を打開する手を教えてくれ!」
あらゆる戦術を教えてくれる兵書。今まで多くの機械軍殲滅の案を立ててくれた知恵の書。今日もきっといい作戦を立ててくれる。そんな幻想はすぐに打ち砕かれた。
「おい! 嘘だろ! 今まで進む道を教えてくれたじゃないか!」
兵書は途中で白紙になってしまっていたのだ。
ページをめくって戦術を探すアッシュの背後からメーティスが憐れむように言った。
「教えているじゃないですか。本は現状をひっくり返す戦術はないと判断したのです」
アッシュの顔は絶望の色に染まった。
完全にお手上げの状態にアッシュは項垂れてしまう。
「俺達は何のために……」
気が付くとメーティス達の周囲をオルターネイター達が囲っていた。彼らは絶望する抵抗軍を嘲笑うかのようにゆっくりと銃口を向ける。反撃しようと発動する大魔法は突然出力を失ってしまった。防御魔法で機械兵の射撃を防ぐメーティス。しかし敵の本拠地である故に増援は無限に追加されていく。
「ちっ! 魔力を使いすぎたか!」
「私もそろそろ魔力が……」
シナプスネット中枢に入りこむために抵抗軍はメーティスとベルベットの力に頼りすぎた。戦力差をたった二人で補っていたのも限界になってしまったのだ。やがてメーティスの魔法シールドも強度を失っていく。
(くっ、ここで終わりなんて……まだ護と……。でも、これも因果なのでしょうか……)
デッタルムの科学力を甘く見た。自分の魔法力におごったのも事実だ。でなければもっとうまく立ち回れたはずだった。弟子のことばかりを考えて自身の安全確保を怠ったのだ。
後悔してももう遅い。
絶望に目を閉じかけたその時、突如天井から光が射した。現れた人影が周囲のオルターネイター達を破壊していく。
「無事ですか皆さん!」
聞きなれた声に顔を上げる。
A-F19型と共に着地する護は少し見ない間に精悍な顔立ちになっていた。
彼は生きていたのだ。生き残っていたのだ。自分の力のみで。ここに来るまでにどれほどの苦労があっただろうか。それらを全て一人で解決し、師の元に駆け付けてくれたのである。
メーティスは涙ながらに護を抱きしめた。
「よかった……生きていてくれて」
「メ、メーティスさん!?」
余程心配していたようで長い間強く抱きしめる。胸の膨らみの感触さえも意識してしまう程の強いハグだった。本人は気にしていないようで抱擁を強くしていく。
恥ずかしくなった護はメーティスの肩を掴んでそっと引き離した。
「つ、積もる話は後です」
オルターネイターを睨み付ける護の傍に近くの敵を殲滅し終えたココロが戻ってきた。
その姿にベルベットも目を見開いた。
「マモル、その横にいる奴はGKか!?」
「まさか! 抵抗軍の話では彼女は再プログラミングはできないはず……」
「ええ。ですが、《呪術書カドラボーグ》で心を得たのです」
メーティスは仕舞ってあった《呪術書》を開いて確認すると、確かにそのような呪術が記されていた。
「皆さんは休んでいてください。今度は僕が守る番です!」
「ですが、護……」
「メーティス、ここは大人しく休ませてもらおうぜ。今はアイツの顔つきが違う」
ベルベットの制止により、加勢を諦める。メーティス自身も魔力がない今、加勢にならないことが分かっていた。大人しく護の武運を祈る。
「行くよ! ココロ!」「いつでも」
二人は左右に散開した。
「速射雷撃‐アップデート・磁力付加!」
護が撃った雷撃が一体のオルターネイターに当たると磁力が発生し、周囲の機械達を巻き込んで吸着させていく。当然ココロも例外ではないが、彼女はその引力を利用して接近し、肘からジェット噴射した腕で集まった他の機械達を破壊した。
「狙い通りだ」
磁力が収まったのと同時に敵の反撃が始まる。ココロは加速デバイスとジェット噴射でその攻撃を踊るように躱し、誘導弾で弱点を正確に撃ち抜いていく。
「炎魔の手‐アップデート・マジックハンド!」
護は自身の発生させた炎を腕上に変化させて狙撃兵を掴み、その機体を溶解する。
「まだまだぁ! 浮天‐アップデート!」
単純に物体を浮かすだけの浮天を強化した護は、近くの鉄柱を大型オルターネイターにぶつけてその身を砕く。
その光景を感動したように眺めるメーティスとベルベット。
「固有魔法を使いこなしている」
「男子三日会わざればというが……大したもんだ」
ココロは持ち前の怪力で残った旧式オルターネイター達の五体を引きちぎっていく。遠方の敵は腕を可変させて狙撃する。形勢不利と見た敵は動けないメーティス達に照準を定める。気づいた護が叫んだ。
「ココロ、皆を守って!」
「了解。四分の一要塞形態展開」
ココロは右肩から腕までを簡易な小型の要塞に変形させてメーティス達を庇った。一番驚いたのはアッシュたち抵抗軍だった。先程の無線でGKが味方になったと言っていたが俄かには信じられなかった。だが現にGKは護と共に抵抗軍を守ってくれていた。
カーツハイルはシナプスネットの開発者でした。
だから戦争初期は活躍で来ていたのです。
アッシュは上官の裏切りに怒り射殺してしまいます。
兵書は白紙の未来しか教えてくれない中、
満を持して助けに現れた護君。
ココロとはいいコンビになっています。




