確信する勝利
作戦は順調です。
――護が固有魔法操作を身に着けた頃、メーティス達は既にシナプスネットセントラルに潜入し中層部まで来ていた。
「自身を強化する固有魔法だぁ?」
「ええ。間違いないでしょう。すぐに強くなる必要がある現状ではアタリの能力ですよ。後は本人が使いこなせるかどうかですが……」
「マモルは今まで無意識的にやってたんだろ? だったら大丈夫だ」
魔族のトップに立っていたベルベットは重要な局面では仲間の不安をできるだけ解消するのが士気があがることだと心得ていた。だが今はそれだけでなく彼女自身も護の成長を信じていたのだ。修羅場を折り超えて、男として立派になって帰ってくると。
そんな中、無線で連絡を取っていたアッシュが朗報を告げる。
「部下から連絡があった。無事護君と合流したそうだ。詳しい話は聞けなかったがこちらに向かっているのは確かだ」
敵地のど真ん中で大声を出すわけにはいかず、メーティスはベルベットと抱擁しながら護の無事を喜んだ。
「不安要素はなくなったようだね。じゃあこっちの作戦に集中してくれ。外側からの襲撃も重要だが、セントラル内部も敵だらけだ。だからこの潜入組を工作チームと内部陽動チームに分けようと思うんだが」
「どうせ、テメェら抵抗軍が工作で俺ら異世界人が戦うんだろ?」
「半分正解だな。工作チームはカーツハイル指令達少数で行う。俺を含めた他の面子は陽動班だ。君らばかりに命を張らせるわけにはいかないからね」
アッシュは特殊なレーザーガンと空中を移動するデバイスで戦い始める。
ゴーグル型の照準機で敵の位置や弾道を素早く予測し、パワードスーツや特殊デバイスを使って巧みに攻撃を躱しながらオルターネイターを破壊していく。
魔法なしで戦う抵抗軍達の奮闘ぶりにはメーティス達も舌を巻いた。
そして彼には虎の子《兵書ハンヴァルト》がある。
「皆、一時の方角に敵接近、下層にも伏兵がいる! 第一小隊は階層転移用ハッチを破壊し敵勢力を分断せよ! 近くに迫ってる敵は中型だ! 狭路に追い込んで破壊せよ!」
「「YES,Sir!」」
彼の実戦経験と兵書の指示によって下される命令は的確だった。鹵獲した兵器や重力操作の機動力で数で勝る敵を翻弄し封じ込めていく。
「メーティス! ベルベット! ここで食い止めても地下の生産工場からオルターネイターが量産されてくる。工場を破壊してくれ! バリアが張ってあるがアンタ達なら!」
「分かりました。行きましょうベルベット」
「侵入口までは転移魔法で戻れるからな」
メーティス達は転移魔法で侵入口まで戻った。
ここから下層はアッシュの封鎖戦術を気にしなくていいので、ベルベットの火力特化魔法で一気に地下まで突貫した。
「無茶苦茶な……」
「一刻を争うんだ。この方が近道になる」
しかしアッシュの警告通り工場近辺はセントラル周囲よりも強固なシールドが張られていた。潜入兵による鹵獲を恐れているのだろう。
「メーティス、この防壁を破る術はあるか?」
「貴方と二人なら造作もありません」
世界司書らしい特殊な魔法でシールドを無力化したメーティス達はすぐに工場の扉を開けた。そして目に入ったのは銃口を向ける多種多様のオルターネイター達だった。
「良い歓迎ぶりだな」
「全くですね。花束ならもっと嬉しかったのですが」
セントラル故に内部にも護衛兵がいたようだ。メーティス達の戦闘が始まった。
中層ではアッシュたちの防衛戦が展開されている。工作部隊が殺されればこの計画は失敗し、人類は大きなアドバンテージを失うことになる。ここで戦果をあげておきたかった。
だが機械軍の猛攻も止まなかった。自分達の最終防衛ラインが突破されているのだ。躍起になって侵入者を駆逐しようと砲撃してくる。既にアッシュの部下は半分殺されていた。床に倒れた部下の屍を踏みつぶして進行してくるオルターネイター。
「ライスター隊長! 武器が持ちません!」
「倒した敵から鹵獲しろ! ここで俺達が死ねば、カーツハイル閣下もメーティス達も危険にさらすことになる。我々の負けは人類の敗北を意味する!」
部下を必死に鼓舞して士気を上げさせるアッシュ。彼の持つ《兵書》には「増援がなければ、後三分で全滅する」と書かれていた。無機質な機械兵に銃弾を乱射する抵抗軍達。
迫りくるオルターネイター達は下層から沸き上がった光の柱に焼き溶かされた。さらに仕留めきれなかったオルターネイターは瞬間的に凍り付き、機能を停止させた。
「頼み事は聞いてやったぜ」
「シナプスネットも大魔術師の出現は予想外だったようですね」
下層からやってきたのは二人の魔術師だった。
「ベルベット、メーティス! やってくれたか! ありがとう!」
「健闘を称えるのは戦勝後です。陽動の役割は十分果たしたはず。私達もカーツハイルに合流しましょう」
「ああ。先程から総司令の連絡がないのが気になっていたんだ」
無線からの連絡は別れてから十分くらいしか続かなかった。持ち場があったために助けに行けなかったが、アッシュはずっと気がかりだったのだ。
「くたばってるんじゃねーの?」
「いや、我々抵抗軍は脳や心臓に異常が出れば知らせる機械を装着している。彼が死んでいればすぐに知らせが来るはずだ」
「――機械の故障か。何かアクシデントがあったのかもしれません。急ぎましょう」
アッシュらは潜入部隊の反応を追ってシナプスネット中枢機関まで走る。
中枢は東京ドームの十倍以上広い空間だった。潜入していた工作兵達は何らかの操作でシナプスネットを休眠状態にしているようだ。彼らは目線をデバイスに向けたままアッシュたちを労う。
「お疲れ様です。アッシュ副指令。シナプスネットを休眠状態にするのは骨が折れますね。常にパスをうちこまなければ、すぐにデータが書き換えられて復帰してしまいます」
「それで君らが作業を続けている訳か」
「ええ。ですが閣下がウィルスプログラムの注入を開始してかなり時間が経過しているのでそろそろ……」
メインコンピュータの前でカーツハイルを発見した。近未来的なデバイスを接続して操作している。
「来たかアッシュ。だがこれで終わりだ」
ボタンを押すと、ウィルスプログラムが実行された。周囲のライトを含めて完全に電源がシャットダウンする。セントラル内部から鳴り響き続けていた機械音も消えて完全に無音の世界になった。
「勝った! 勝ったぞ! 人類の勝利だ!」
「「うぉおおおお!!」」
勝利を確信したときほど油断に満ちたときはありません。




