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憧れ

GK改めココロと護の意思疎通が続きます。



(A-F15はココロと同じ機動要塞。近くで機械軍と戦闘があったから既に移動してるだろう。だったら僕が目指す場所は一つだ)


抵抗軍の目的地はシナプスネット中央。即ちそこを目指せば作戦中に再会できるはずだ。しかし懸念は残る。ココロの創造主であり、機械軍の総帥であるAIに彼女を近づけさせるのは危険ではないかということだ。せっかく芽生えた感情を削除されてはたまらない。


(ココロは作戦の障害となるから、このまま遠ざけた方がいいのか? でもそれだと僕が合流できないな。セントラル襲撃中にメーティスさんやベルさんに何かあるかもしれない。できれば二人の傍にいたい)


 抵抗軍達と合流して自身も最終戦争に参戦するべきか、障害となるGKを留める役に徹するか、どうすべきか考える護は葛藤の末に考えをまとめた。


(やっぱりセントラルに向かおう。そしてその間にココロにより強い感情を植え付けよう。シナプスネットが干渉できないくらいに強い感情を!)


 考えに耽っていた護の袖をココロが引っ張る。


「それで人間の感情を学ぶためにどうすればいい?」


「まずは近くに人間がいないか探りながらシナプスネットセントラルに向かってほしい。行路で見つけた人間から感情を学ぶ機会もあるはずだよ」


「わかった。マモル掴まって」


「えっ!? ぼぶっ!」


 ココロは護の首を掴んで自身の胸に抱いた。一瞬戸惑うがすぐに彼女の行動の理由が分かった。彼女は要塞形態に可変したのだ。護は要塞形態となった彼女の内部で尻もちをついていた。


『陸路はこの形態の方が速い』


「そう……だね。じゃあ生命反応があったらそこで停まってくれるかな」


『了解した』


 独特の機械音と共に移動を始めるココロ。護は物珍し気に彼女の内部を散歩する。アンドロイドの操縦を想定しているようで人間が座れる空間やモニタールームのような場所まである。護は同じような内装を抵抗軍基地になっている彼女と同型のA-F15型で見ていたが、あれは抵抗軍が改造したのではなく元からあった設備らしい。


(抵抗軍が鹵獲したがるわけだな。メーティスさんとベルさんは無事だといいな。ううん、大丈夫。あの二人は僕より強いんだ。どんな世界でも生き残れるさ)


 不安な自分を鼓舞していると、ココロから通信してきた。


『生命反応を確認。接近を試みる』


 停止したココロの外に出る護。彼が出たタイミングでココロは素早く人型の形態に可変した。あの大きな機関をどうやって人の形に留めているのか科学者の知的好奇心を刺激するオーバーテクノロジーぶりだった。

 到着した場所は機械兵の残骸が遺棄されている場所だった。恐らく随分前に抵抗軍との戦闘があったのだろう。周辺には人の気配は全くない。


「誰もいないけど……本当にここに生命反応が?」


「待って。今サーモグラフィで視覚的に探索する」


 彼女の瞳の中にある歯車が稼働し瞳の色が変わる。そして物体を透過して熱源の特定を開始する。すると小さな形状の熱源が複数検知された。


「これは鳥?」


「ココロ、君のレーダーは人と鳥の区別がつかないの?」


 拍子抜けした護はつい本音をポロリと漏れてしまう。するとココロは護をじーっと見つめてきた。その無表情だがどこか怒りを感じる。


「的外れな侮辱。生命反応を検知しろといったのは貴方。貴方の指示に従っただけ。初めからサーモグラフィで検知していれば人か他の生物かの区別は簡単についた」


「そこは臨機応変に対処してほしかったけど」


「命じられたことを実行したのに理不尽だ。指示が不明確だっただけ。大変不愉快」


 事務的で合理的だったココロの口調に棘が見え始めた。表情の変化がないので見分けがつきにくいが、間違いなく喜怒哀楽の感情だった。


「……もしかして怒ってる?」


「怒り? オルターネイターである私は、敵意は持っても怒りなんてありえない」


 彼女はそのまま鳥のいる場所まで歩いていく。


「ピー、ピー!」


 錆びた機械の間に鳥が巣を作っていた。ココロは巣の中の雛の様子をじーっと見つめる。餌を求めてピーピー泣いているか弱い存在である。


「興味があるの?」


 そっと雛に手を差し伸べると、餌だと思ったのかココロの指をつつきだした。彼女は少し目を見開いたように見えた。


「この種は絶滅したとシナプスネットの履歴にあったはず……。こんな過酷な環境でも生き残っていたなんて」


「生命は強いんだよ。君達が考えているよりもずっとね」


日差しの照り返しで彼女の顔は見えなかった。だが過酷な環境下で生きる命の輝きが彼女の心に何かを伝えたらしい。彼女はずっとそこに佇んで雛達の挙動を見つめて時折、指でつついていた。観察していると「ピー!」と親鳥が帰ってきた。どこからか捕まえてきたワームを雛達に与える。今度は親鳥に目を向けた。雛のように触ろうとしたら飛んで逃げてしまう。大空を舞う鳥を見上げるココロはどこか儚げだった。


「空を飛ぶのは気持ちいいのだろうか?」


「飛行機や龍に乗って飛んだ時は気持ちよかったよ。可変型なら君も飛べるんじゃない?」


「私は陸戦型だから飛行能力はない。でも、あの鳥を見ていたら私も飛びたいと考える。不思議。元々飛行願望なんてなかった。いや、オルターネイターにはそもそも願望自体なかったはず……どうして今そう考える?」


 護に問いかけた訳ではなく自問自答している風だった。

 このまま聞き流すのは簡単だ。しかしそれではコミュニケーションにならないと考えた護は彼女の疑問に返答してみせた。


「それは憧れだよ」


「アコガレ?」


「そうなりたいと思うものを見た時に心がざわつくんだ。人間の感情の一つだよ」


「それはどんな意味があるの? その憧れを持ってどうする?」


「憧れに近づこうと努力するんだよ。目標があるから強くなれるんだ」


 彼女は大きく目を見開いた。初めて見せる〝驚き〟の表情だった。


「データベースを更新する。人間より強くなる手段を見つけた。感謝する」


ココロは要塞形態に可変すると再び動き出した。少し彼女とのコミュニケーションに慣れてきた護は一つ疑問に思っていることを尋ねることにした。


「君はなんで人間を殲滅しようとするの?」


「シナプスネットがそう選択したから」


「シナプスネットがすべて正しいって言うのは違うんじゃないかな。確かに人間より賢いんだろうけど、君のバグにも気づかなかったよね」


「……シナプスネットが正しくない?」


 今までの彼女の価値観を歪める言葉だったからか彼女は混乱しているようだった。すかさず護がその心に楔を打ち込む。新しい価値観という楔だ。


「シナプスネットの管理下から外れた今だからこそ、君は自由に考えて決めるべきだ。本当に人間を滅ぼしたいのか、他にやりたいことがあるのか……」


「自由? 言葉としての情報はあるがその概念が分からない」


 護も少し悩む。先程の出来事を思い出して説明した。


「君はあの鳥を見て空高く飛べることに憧れたんだろ? 足という制約がなく空を行けることに。自由って言うのは制約がなく自分の好きなように行動できることだよ」


「自由……。人間は不思議な概念を考えつく……」



殺戮兵器は鳥を見て何を思うのか……。

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