抵抗軍
抵抗軍本隊と合流します。
「もうすぐ着く。本部に着いたら改めて君らの話を聞かせてくれ」
「あ? ……基地なんてどこにもねーぞ?」
「確かにそれらしい建物はありませんね」
アッシュが合図を送ると、目の前にあった岩場可変した
「ふっ、機械軍と戦う抵抗軍が目につくとこに拠点を置くわけないだろ? 擬態型可変式機動要塞A-F15型だ。見ての通り周囲の風景に溶け込む機能がある」
その機種番号に覚えがあった。
「GKと同じ機種ですか?」
「ああ。アレよりはいくらか旧式だがな。鹵獲するのに多くの犠牲が出てしまったが今では重宝している。まぁ昔の話はいいだろう。君らにはまず、リーダーに会ってもらう」
A-F15型は中部を大きく開き、A-S03型は内部に入っていく。
着陸したので機体から降りて見てみると、基地内は軍事基地的な側面がありながら近未来的な機械的装飾だった。システマチックなつくりなのは元々シナプスネットが制作したからだろう。
「お待ちしていました。こちらへ」
案内されたのは指令室のような場所だった。中央には軍服姿の太った中年男性が椅子に座っていた。
「ようこそ抵抗軍本部へ。私はヴェイク・カーツハイル。最高司令という立場である」
「僕は古本護、後ろの二人はメーティスさんとベルベットさんです」
「うむ、結構。話は聞いている。若いのに大した者達だ。歓迎しよう。まずは君達の境遇を聴かせてもらえるかな。部下から興味深い情報を耳にしたのだが……」
護達は自身が異世界人であること、この世界に落ちたであろう世界図書を探していること、速やかに回収したらこの世界を去るつもりであることを打ち明けた。
目を丸くしていた彼らだが、背後のモニターでウルスタイト基地から送られた映像を再生するとある程度納得したようだった。魔法を目の当たりにすれば当然といえる。
カーツハイルは髭を弄りながら懐から一冊の本を取り出した。
「成程な。探し物はコレか……」
「それは《兵書ハンヴァルト》!? もう一冊も抵抗軍が持っていたのですか!?」
目を丸くするメーティス。確かに本の所在はこちらの方角をさしていたが、まさかこんなに早く二冊目を見つけられるとは思っていなかったようだ。
「それは僕らが落としたものです。返してください」
カーツハイルは力強く「断る」と拒絶だった。
「コイツは所持者の状況に合わせて最善の選択を用意してくれる。これのおかげで拮抗した戦況を覆し、我々が優位に立てているのだ。返却することはできん」
「そういうことかよ。だったらぶち殺されても文句はなーよな」
ベルベットが脅しのつもりで撃った炎はカーツハイルが持つ謎のデバイスで吸い込まれ、威力を増して跳ね返ってきた。驚愕しながらもその砲撃を素手で受け止めたベルベットは手の平に軽い火傷を負いながら苦い顔をした。
「ふふふ、これが《兵書》の選択だ。コイツがある限り次の一手は読めるのだよ、お嬢さんの行動も分かっていた。――そして君の攻撃を跳ね返したデバイスの力も体験できただろう。如何に君らの魔法が強くても我々の科学力を舐めない方がいい」
「その科学力に牙を向けられたお間抜けはどこのどいつだ?」
ベルベットの挑発に苛立ったカーツハイルが指を鳴らすと、大量の機械兵達が虚空から出現した。鹵獲した機械兵のようだ。 機械兵達は一斉に銃を構える。
「これらA-700型はコンパクトシステムで収納してあり、いつでも取り出すことができる。質量を無視して収納できるんだ。こんな風にね」
カーツハイルが投げたカプセルのようなものの中に《兵書》は収められてしまった。質量や重量を無視した収納技術はGKにも見られた。この世界では当り前の科学なのだろう。
「君らに解除はできない。カプセルを破壊すれば中のモノも破壊される。機密保持にはもってこいだ」
単純な戦闘力なら元魔王と世界司書がいる護達の方が有利のはずだが《兵書》がある限り護達の戦術は対策されてしまう。状況悪かった。彼らはこの大戦に勝つまで兵書を手放すつもりはないようだ。
「くっ!」
「仕方ありませんね。今は退きましょう」
抵抗軍にとって《兵書ハンヴァルト》の能力は理想的だった。戦争の要としているのも頷ける。今返却を求めても彼らと敵対するだけだった。日を改めて出直そうと出口に向かおうとした時、アッシュや他の軍人達が銃を向けてきた。
「おい、何の真似だ?」
「君らの闘いはウルスタイトから送られたデータで見せてもらった。機械軍に反撃しうる貴重な戦力を帰すわけにはいかないな」
「まさか……アッシュさん……」
「そんな目で見ないでくれ。俺達は狡猾にならなきゃ機械軍とは渡り合えなかったんだ」
悲痛な面持ちで呟くアッシュ。今まで数々の同胞達を機械兵達に殺された苦しい過去があったのだろう。時に裏切りともとれる非常な決断さえも選択しなければならないのだ。
だが彼の表情から感じる罪悪感と拳銃を構えながら振るえる腕を見ると、彼を責める気にはなれなかった。
「分かりました。こちらの要望を飲んでくれるなら機械軍討伐に協力しましょう」
メーティスの言葉にアッシュは安堵したようだ。部下達に命令して銃を下げさせた。
「お前、首突っ込まないんじゃなかったのか?」
「アッシュはともかく、あの狸親父は、茶地な約束程度反故にするはず。機械軍に勝利した方が手っ取り早く《兵書》を回収できそうです。ぼちぼちしていたら異世界に移民させろと言いだしかねませんよ。それに……護もその方がいいでしょうし」
このデッタルムでの死に感情移入していた護は抵抗軍に一番協力的な姿勢を見せていた。真面目に戦況を聞いている。メーティスとベルベットもカーツハイルに向き直った。
「約束ですよ。勝利の暁には《兵書》を返してもらいます」
「いいだろう。機械共を殲滅できれば不要になるモノだ」
かくして、メーティス一行と抵抗軍に同盟関係が成った。
強力の証として抵抗軍から情報が開示される。まずはシナプスネットの持つ機械軍の兵力の説明を受ける。
「機械兵は全てalternaterと言われる。通称は〝A〟で略される。その次はどんな形状をしているかで分類される。例えば君らが乗ってきたA-Sはalternater-Sky。航空機型だ。他にも四足歩行型のA-Bや戦車型のA-Tもある」
話を聞いていた護は近くに立ったまま微動だにしないアンドロイドを指さした。
「そこにいるアンドロイドもオルターネイターなのですよね?」
「勿論。Aの次にアルファベットを持たないのは人型だ。A-500から700番まである。こいつの大型としてA-G型ってのもいる。GiantのGだね」
アッシュの話によると、A型は潜入型で人に擬態して大量に送り込まれてきたようだが、ちょうど機械の可動を混乱させる電波を開発した抵抗軍はこれでA型を大量鹵獲したらしい。人類殲滅のために送ったはずが人類へのプレゼントに変わってしまったのはシナプスネットが人間を過小評価しすぎたせいだろう。カーツハイルが葉巻に火をつけながらアッシュの補足説明する。
「シナプスネットは、これらと同型のAに改良を加えて配下に置いている。他にも新型を開発しているという話だ。早く中枢を破壊しなければまた犠牲者が増える」
「簡単に言いますが、策はあるのですか?」
怪訝そうに尋ねるとアッシュが肩をポンと叩いて言った。
「大丈夫。俺達も遊んでたわけじゃない。作戦の要はウィルスだよ」
抵抗軍は立体映像を表示して作戦について説明する。
彼らはシナプスネット攻略のためにコンピュータウィルスを開発したらしい。効き目は絶大だが電波ではなくプログラムなので、巨大なAIをウィルスで侵すには直接中枢に打ちこまなければならない。そうしなければシナプスネットが誇る最強のアンチウィルスプログラムに駆逐されてしまう可能性が高いのだ。
「シナプスセントラルの防衛は強固。マシン共が大量に配備されている。我々は今まで中枢に攻め込むだけの戦力が足りなかった。だがお前達が現れた」
手に持った葉巻で護達をさすカーツハイル。
「成程。僕達が派手に陽動している間に抵抗軍がウィルスプログラムを打ち込むんですね」
「物分かりが良いな。少年」
「ちょっと待て。カラクリには詳しくねーが、動力源の破壊に尽力すれば難しいプログラム? を打ちこまずに済むんじゃねーの?」
「シナプスネットは分離AIだ。一拠点を破壊したところでコンピュータAIが残っていれば他の地方拠点にAIが復帰し新たなるセントラルになるだけだ」
「だから、AIそのものを破壊しなければ意味がないと?」
メーティスの質問にカーツハイルは大きく頷いた。
「だがこの作戦にはまだ問題がある」
カーツハイルに促されてアッシュはモニター映像を変更する。そこには体の一部を変形させた金髪の少女や様々な形をした要塞が映っていた。
「目下、障害になるのはA-F19型……GKだ。コイツには数多くの同胞が殺された。バルフォニアゲリラ基地、セバタ秘密基地、ナリブ海潜水艇基地。そしてウルスタイト軍事基地、既に四つの拠点が奴に落とされている」
(あの女の子にそんな殺戮能力が……)
護は以前刺された腹部を押さえながらA-F19型との初対面を思い出していた。会議ではGKの恐怖を語る者、憎悪を剥き出しにする者で騒然となってきた。彼らの話を割る意味もあってメーティスが挙手した。
「A-F19型とは機動要塞のことなのですよね。この本部基地と同じ……。――であるならば彼女も鹵獲すればこちらの戦力にできるのでは?」
「メーティスとやら、機械軍と戦う我々がそんな基礎的なことを考えつかないとでも?」
カーツハイルはこめかみを揉みながら批判的な態度を示す。周囲を見ると他の軍人達もメーティスの意見に賛同する者はいないようだ。困惑する護達にアッシュが説明する。
「このA-F15型を鹵獲してから同系統の機動要塞の鹵獲を試みたんだ。だがシナプスネットも警戒したのだろう。鹵獲はことごとく失敗した」
より強くなったA-F 16型は鹵獲どころではなく抵抗軍に多数の犠牲者が出たため破壊するしかなかった。対抗策を持って挑んだA-F 17型は自爆機能を搭載しており、要塞内に潜入した工作兵や陽動隊を巻きこんで大爆発してしまった。そして、特殊電波で自爆機能を封じて応戦したA-F18型は鹵獲寸前で機械軍に奪還されてしまったのだ。結局その時の闘いでは大量の犠牲者が出ただけだった。
「A-F系統は鹵獲すれば便利だが鹵獲が難しすぎる。A-F18型を再プログラミングしようとした工作兵によれば独自のAIが積まれて書き換えができなくなっていたそうだ。まして後継機GKは性能が格段に上がっているだろう。速やかに破壊しなければならない」
(でも、あの子は何で退いたんだろう。それに刺されはしたけれど急所は外れていた。僕を殺すことだってできたはず……)
―その時、近くで爆発音が響いた。
監視兵がモニターを起動すると機械軍中隊が映し出された。基地外の廃墟で暮らしていた身なりがよくない人間達が機械軍に襲われている。
「指令! 機械軍襲撃です! 近くのスラムが襲われています」
「人間狩りか。ちょうどいい。まずは君達に一働きしてもらおうか」
上から目線のリーダーに嫌悪感を顕わにしたメーティスは机をバンッと叩いてリーダーに視線を戻した。
「私達は貴方の部下になったつもりはありませんので、お忘れなきよう」
「へっ! ちょうど八つ当たりの相手が欲しかったところだ。マモル、どうやら抵抗軍は俺様達全員での出陣を希望のようだが?」
「勿論行きます。強くなるには経験、でしょ?」
「ハッ! 分かってるじゃねーか」
メーティス達は転移魔法で基地外に出る。そのまま浮遊して襲撃ポイントに向かった。
ヴェイク・カーツハイルは抵抗軍総司令でアッシュの上司にあたる人ですね。
かなり性格が悪いですが組織統率力は高いです。
兵書は彼の手の中にあり協力せざるを得ませんでした。