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呪術書カドラボーグ

宿敵や現地の味方との遭遇する話ですね。


 幾何かの時間が過ぎた頃、案内人の少年が遠方を指さした。


「この先に基地があるんだ」


 その方角から煙が上がっているのが見えた。血と火薬の匂いも漂ってくる。嫌な予感がした護達はアイコンタクトを取ると、魔法で加速して現場に急行した。

 そして辿り着いたウルスタイト基地は悲惨な有様だった。軍服を着た兵士達の死体と壊れたアンドロイドが散乱している。激しい戦闘があったことは想像が付く。


「そんな……ウルスタイト基地が全滅……」


 呆然とするデッタルムの人々。護はせめて生き残りがいないか浮遊魔法で瓦礫を排除しながら探していく。しかし見つけるのは押し潰された損傷死体ばかりだった。


「くそっ! 一人も生き残りがいないのか……」


 必死に探すと、基地の壊れていない部分に無言で立っている少女を発見した。この世界の住人にしては清潔な格好で流れるような金髪が美しかった。機械軍の襲撃から身を隠していたのか、見たところ傷ついていないようだ。護は生き残りがいたことに喜んだ。


「よかったぁ……。君、怪我はない?」


「…………」


 あくまで無表情な少女。襲撃に呆然としているのだろうかと考えた護はさらに彼女に近づく。別の方から生存者を探していたデッタルム人が少女を見るなり叫んだ。


「ダメです! ソイツに近づいちゃっ!」


 なぜかと理由を尋ねようとした時、腹部が熱くなった。瞬時に激痛が襲う。手で痛む場所を押えると真っ赤な血が付いていた。そして目の前の少女に刺されたと理解した。


「野郎! よくもマモルをっ!」


 事態に気づいたベルベットが殴り掛かろうとした時、少女は体から大量の蒸気を発した。熱気のある煙に吹き飛ばされたベルベットは後方に着地する。

 煙が晴れると、少女の姿はなく代わりに黄金に輝く機械がそびえ立っていた。歪な要塞と戦車と爬虫類を混ぜ合わせたような形態で、今まで見た中で一番大きなロボットだった。

 奪取魔法で負傷した護を取り戻したメーティスは彼の傷を癒しながら敵を見つめる。目の前の機械の壮大なスケールに驚嘆した。治療を受ける護も、先程までの女の子の面影はないくらいに変貌してしまったソレを呆然と見つめる。


「これ……は……?」


「潜入型可変式機動要塞A-F19。――通称GK(ゴールドキラー)。極悪非道の殺戮兵器だ。アイツには何人も殺されたんだ!」


デッタルム人が憎悪を秘めた眼でGKを睨み付けながら吐き捨てた。

護を治療しながらメーティスが検索魔法をかけると、GKの詳細な情報が出てきた。

 GKはシナプスネットがオーバーテクノロジーの粋を結集して作り上げた最高傑作。あらゆる兵器をコンパクトに収納でき、人型にもなれるため隠密性が高い。また体内に永久機関を持ち、エネルギー切れが存在しない。そして自動修復機能付きのため傷つけても時間が経てば修復してしまうというのだ。


「そんな……これじゃあ対処のしようがない……」


 多くの者達は災難が過ぎるのをただただ待つだけだったがベルベットは違った。GKを破壊するため雷撃魔法を放ったのだ。GKは洗練されたシールドを張り巡らせてその雷撃を弾いてしまった。連射するも雷撃は全て弾かれてしまう。


「ちっ! ご丁寧に防衛機能付きかよ!」


その間に詠唱を終えたメーティスも氷系魔法で加勢するが、シールドが凍り付いただけで本体にダメージはなかった。GKは不気味な機械音を伴って形状を変化させていく。射撃に特化したようなフォルムを見たデッタルム人が叫ぶ。


「主砲が来るぞ! アンタらも逃げろ!」


「主砲だって?」


 ベルベットとメーティスが護やデッタルム人を庇うように上級防御魔法を展開する。各々自身の故郷の上級魔法を防いだ実績のある守りの切り札である。魔法のレベルの高い二人が発動すればどんな砲撃がこようとも防げると考えたのだ。

 しかし砲撃はこなかった。GKは足砲筒を地面に向けてジェット噴射し凄い速さで逃げてしまった。応急処置を終えた護は去って行くGKを眺める。


「……なんだったのでしょう?」


「さぁな。とりあえず物資補給と行こうぜ」


「そうですね。彼らにも少し休息が必要でしょう」


 三人は怯えて隠れていたデッタルム人達に目を向けた。


 基地内の人々はほとんど殺されていたが、今一度瓦礫を探してみると、辛うじて息のある抵抗軍の者がいた。貴重な情報源なのでベルベットが治療をしながら尋問を行う。


「……まだこんなに……生き残りがいたのか……? よかっ……」


「まだ話すな。傷口が開くぞ」


 一方護は使える物資回収をするデッタルム人を手伝った。貴重な食糧や武器等を仕分けしてデッタルム人に分配する。さらにはまだ生き残りがいないか捜索し始めた。


「護、あなた……」


「僕は、僕のやりたいようにやっているだけです」


視線を逸らさない護にメーティスは諭すように言った。


「そもそも世界図書を回収する目的は異世界への悪影響を取り除くことです。それは異世界からの来訪者の私達も同じ。科学世界デッタルムにとって魔術師の私達は異物そのもの。大きな影響のある行動は慎むべきなのです」


「メーティスさんだってカイムさんに襲われた人を助けてたじゃないですか」


「あの時は悪影響がないと判断できたから人命救助を優先できたにすぎません」


「じゃあ悪影響さえなければいいんじゃないですか。今やってるのも人助けですよ?」


「私が言いたいのはそういうことではないのです。善意も悲劇を生むことだってある。私は様々な世界を見てきたから分かります。中には異世界の異物を使用して災厄を招いてしまった実例も沢山あります」


「でも、マギタジアはベルさんを味方に付けてカイムさんも説得で来たじゃないですか」


 護達が去った今、魔王軍は他の種族への進行を諦め、勇者は和平に動いているはずだ。結果的にマギタジアは平和へ舵を取ったといえる。s


「これからうまくいくとは限らない!」


 あまり感情を表に出さないメーティスらしからぬ怒声だった。委縮した護の姿が別の男性の表情と重なった。困惑と悲しみに満ちた顔でメーティスを見つめる少年。かつての友人の最期の表情だった。


『メーティス……どう、して……』


「どうしてですか?」


 その人物の言葉と護の質問の言葉が重なり、再び現実世界に意識が戻る。


「結果的に異物のせいで取り返しのつかない事態になった実例を私はよく知っています」


 彼女は世界司書として数多の悲劇を見ていた。禁書を読んだ護を責めず、魔術を教えてくれた優しい彼女は当然救おうとした命があったはずだった。沢山の経験を経て「干渉しない方がいい」と結論付けたのには理由があるのだろう。

 それでも護は退かなかった。自分の想いを間違っていると認めたくはなかった。


「悲劇的な結末でも、最初の想いは間違っていなかったはずです。メーティスさん、これは僕の偽善かもしれません。でもやっぱりただ見ているだけなんてできない」


 包み隠せない本心だった。やや驚きながらもメーティスは僅かに笑った。そして物資探しを手伝いながら独り言のようにつぶやいた。


「異世界の問題に首を突っ込むべきではないと思っていますが、一人の善行を制止する気はありません。好きにしなさい」


「はいっ!」


 物資探しを続ける護達。そこでうつぶせに倒れていた人物を発見する。頭の致命傷から既にこと切れていることが分かった。彼の冥福を祈りながら、せめて生き残りのデッタルム人が使える物を持っていないかと死体を引っ繰り返すと、彼は本を持っていた。

 その本を手に取った瞬間、違和感を覚えた。以前にも二回感じたことのある感覚。この感覚を感じるということは即ち、異世界の本、世界図書であるという証である。


「メーティスさん! これ……」


「《呪術書カドラボーグ》。善行もやってみるものですね」


 護から《呪術書》を託されたメーティスは魔法で収納すると胸を撫で下ろした。


「問題が起きる前に回収できて良かった」


 ちょうどその時、ベルベットが二人を呼びに来た。


「二人とも、収穫があったぞ」


「奇遇ですね。こっちもありました」


 ベルベットの収穫とは、抵抗軍とのコンタクトだった。救いだした抵抗軍が運よく伝令係であり、彼の連絡で抵抗軍本部の使いが迎えに来てくれることになったのだ。


 物資回収を終えた護達が待っていると、宙に巨大な戦闘機がいきなり現れた。負傷した抵抗軍が「味方です」と話す。メーティスが検索魔法で調べると、「A-S03型」と出た。移動音もなく姿を消せてレーダーにも引っかからない高度なステルス性能を持つ戦闘機らしい。概要しか掴めないためそれ以上の情報はなかった。


「こんなものをどこで……?」


「機械軍から開発中のものを鹵獲したのさ」


異動機から出てきたのは顔にいくらかの傷を持つ屈強な男だった。年齢は三十代くらいだろうか。彼を見た瞬間、抵抗軍の負傷兵が目を丸くしながら言った。


「ライスター閣下、副リーダーの貴方が御自らお出でになったのですか?」


「ああ。ウルスタイト基地が壊滅したと反応があったし、GKの目撃情報も送られてたからな。それに――」


 彼は護達を見た。その衣装と醸し出す雰囲気から護達がデッタルム人ではないことを一目で見抜いたようだった。


「俺は抵抗軍副軍長アッシュ・ライスターだ。民間人と部下を助けてくれて感謝する」


 互いに軽い自己紹介を終えた護達はA-S03型に乗って抵抗軍の本部に向かうことになった。テルス機能は本物のようで近くにいる機械軍はA-S03型の存在に気づいていないようだった。その優位性を利用してアッシュが部下達の指揮を取った。A-S03型の小行路から飛び出した無数の小型機が進路の敵を排除していく。実に鮮やかな采配だった。


「おっと、あまり派手にやりすぎると敵本部に気づかれる。だがアイツらを放っておくと近くのスラムがやられるんでね」


 滞りなく敵を排除したA-S03型は、そのまま海を抜けて抵抗軍本部基地に向かう。


抵抗軍副軍長アッシュ・ライスターはこの世界の主人公的ポジションですね。

未来知識補正のないジ●ン・コ●ーみたいなもんです。


潜入型可変式機動要塞A-F19。――通称GK(ゴールドキラー)


シナプスネットの現時点での最高傑作です。

この世界の機械は質量保存の法則を完全に無視します。


潜入するときは金髪美少女の姿、戦うときは要塞形態へと変わります。

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