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デッタルム

次の世界の始まりです。


 護達は世界図書館に無事帰ってきた。メーティスは床に落ちたマギタジアの現歴書を披露と、元の本棚に戻した。初めて来たベルベットは物珍しそうに周囲をキョロキョロと見渡す。本を乱雑に手に取ってペラペラとめくる。


「へーここが世界図書館か。どんな本もあるって話だが、エロいヤツはあるのか?」


「勝手に触らないでください。いかがわしい本なんてある訳ないでしょう!」


 即答で否定するが少し目が泳いでいる。彼女がチラチラと気にする視線の先には、古びた本棚があった。そこが彼女の秘蔵の本のありかなのだろう。


(まぁこれだけ本があったらそういうのもあるよね。最近の少女漫画とかも過激だし)


 問題はそういった本を手元に置いている理由は学術的見地からか性的好奇心かなのだが、余計な波風は立てたくないのでその疑問を呑みこむことにした。

 メーティスは素早くベルベットから本を奪うと本棚に戻した。本に触ったことで災厄を起こしてしまった苦い経験を持つ護が補足する。


「不用意に触って禁書みたいな本があったら大変ですから」


「わーったよ。もう本は触らねーって。世界図書回収に協力するってだけの契約だからな。それより次はどんな世界に行くんだ?」


 心なしか目を輝かせているベルベット。異世界というのはそれだけで心躍るようだ。マモルも少し期待が合ってメーティスの言葉を待った。


「世界図書の反応があったのは〈デッタルム〉。ここもマギタジアと同じく二冊分の反応が出ました。速やかに回収します」


 メーティスは検索魔法を発動して本棚からデッタルムの現歴書を取り出した。護は時間酔いに備え、意識を集中しないようにする。三人はデッタルムの記録の海に吸い込まれるように本の世界へと入っていった。


「あったま、いってぇ~……」


「ベルベットは初めてでしたね。意識を集中しすぎると、時間酔いします」


「そういうことは早く言ってくれ……」


 気分を悪そうに唸っていたのは少しの間だけで、新しい世界を見た時、ベルベットはその光景に目を奪われた。


「なんだここは? 魔王城近辺によく似ているが……」


 確かに暗雲に支配された空に自然が見られない荒地はマギタジアの魔王城近辺によく似ているが、何と言うかこの世界は異質だった。ベルベットの故郷には魔族という生命体が住んでいたが、ここは生命の気配が薄いのだ。そして匂いも火と油の刺激臭がひどかった。


「俺の城より空気が悪いな」


「確かに私もここには住もうとは思えませんね。ピクニックでも嫌ですよ、世界図書を回収したらすぐに脱出しましょう」


「そうですね。でもまずは人を探さないと……」


 物音を立てる護達に「しっ!」とベルベットが沈黙の合図を送る。近くで金属音と誰かの足音が聞こえる、彼女が指さしたのは大きな岩丘の方だった。


 頂上まで登るとすぐに音源の正体が判明した。異質な形をした機械が人間を襲っているのだ。機械マシンはSF映画で出てくるような4足歩行の巨体だった。ガトリングやレーザーのような兵器を使って近くにいた人間達を蹂躙している。


「これは戦争ですか! 助けないとっ!」


「やれやれ、まぁ情報収集は現地人に恩を売った方が早いか」


 遅れてベルベットも飛び出した。護は身体強化魔法と〝浮天(メラス)〟で飛び上がった護は人間を襲う機械兵器に接近する。機体に飛び乗るとそのまま中枢と思しき場所に狙いを定める。


「炎魔の(アグニア)!」


 萬浪が発動するのは近距離戦闘魔法〝炎魔の(アグニア)〟である。腕に炎を纏わせた護は機械の中枢を焼き切った。同時に機械は機能を停止させた。


「炎魔の(アグニア)は攻撃力は高いけど接近戦でしか使えないんだよなぁ……」


 突如作動音が聞こえて振り返ると、戦闘機のような機械が護を狙っていた。

 まずいと思った時、メーティスの魔法弾が機体を狙撃した。煙を上げて墜落する戦闘機。メーティスは振り返らずにそのまま負傷者の介抱に向かった。

 また新手が出てこないように警戒を怠らないようにコックピットの方に向かう護。炎魔の(アグニア)で焼き切り、無理やりコックピットを開けた。


「人がいない!?」


 考えられるのは遠隔操作だが近くにそれらしい基地はない。


「どういうことだ? この銀色の使い魔を操る術者がいないぞ?」


 既に数体の機械を破壊したベルベットがコックピットを引きちぎって放り投げる。やはり彼女の方も遠隔操作の機械だったようだ。

護とベルベットは周囲を警戒しながら、襲われた人達を介抱していたメーティスに合流する。彼女は既に負傷者から情報を聞きだしている最中のようだった。


「ここは連中に見つからないようにジャミング作用を効かせた隠れ村だったのに、機械軍につき止められるなんて……くそっ!」


「機械軍?」


 聞き慣れない言葉を反復する護。答えたのはデッタルム人ではなくメーティスだった。


「そうです。――ここは機械と人間が戦争している世界なのですよ」



 メーティスが魔法でモニターを作りだし、デッタルムのどこかの光景を映し出す。そこにはアンドロイドのような銀色の兵隊と戦う人間達が映し出されていた。別のモニターでは空爆によって虐殺されている兵士の姿が見て取れる。


「私の検索魔法によると、自立したAI〝シナプスネット〟が人間を殲滅しようとしていると出てます」


 デッタルムは十年前まで科学が発展した世界だった。だが開発したAIが自我に芽生えて、人間に反逆する。人々はAIに頼りすぎた〝過ちの日〟として自分達の心に戒めた。

 そして生き残った人々は機械軍に抵抗すべく抵抗軍を組織し反撃の狼煙を上げる。初めは劣勢だったが現在は人間側が優勢らしい。


「機械と戦争なんてSFの世界じゃないか」


「そういう世界もあるということです。戦渦に巻き込まれる前に本を回収しましょう」


 メーティスの口調はあくまで冷静だった。世界図書館やマギタジアで見せてくれた優しい彼女からは想像できない冷淡さだった。映像には相変わらず人々が蹂躙される光景が映し出されている。人々の絶叫が木霊している。


「どうしてそんなに冷静でいられるんですか? 人が死んでるんですよ?」


「悲劇なんてあらゆる世界に無数に転がっているものですよ。あなたは愛着もない世界の英雄になりたいのですか? ……異世界の問題には関わらない方が身のためですよ」


 護を牽制するような物言いだった。尚も反論しようとする護の肩をベルベットが掴む。


「メーティスに分がある。俺様達はこの世界を救いに来たんじゃねー。目的を忘れるな」


「……はい」


 彼女に当たるのは筋違いなのは理解していた。魔法という力を手に入れて多少気が大きくなってしまったのかもしれない。護の故郷トレスケアでも普通は他国の戦争に介入はしない。しかしたとえ異世界人だったとしても、人々が殺されていくのを黙って見ていることに胸が締め付けられた。


 世界図書回収の目的を最優先にした護達は、情報収集を兼ねて助けた人達の話を聞く。彼らによると、ここから近い場所にある抵抗軍拠点はウルスタイトという旧軍事基地らしい。護達はまずはそこでレジスタンスとの接触を図った。世界図書を持っているかもしれないと考えたためである。


「メーティスさん、検索魔法の反応は?」


「確かに彼らの教えてくれた基地の場所から一冊分の反応があります」


 やはりレジスタンスが持っている可能性が高いようだ。目的物の場所が分かったのは収穫だが問題もあった。地理が分からない世界で大勢連れて転移魔法は使えないため、陸路で行かざるを得ないのだ。仕方なく歩いていると進行方向から少し離れた方角に荒野を埋め尽くす大量の機械軍が見えた。今から人間狩りを始めるのだろうか。そう考えると無意識に敵愾心を抱いてしまう。魔法を構える護をメーティスが制す。


「今は気配を消す魔法を使っているので気づかれませんが、戦えば戦闘音を聞きつけられてさらに援軍が来ます」


「くそっ!」


 彼女の言い分は正論だった。自分一人ならともかく非戦闘員を大勢連れて敵に注目される行為は避けるべきだった。自分の無力さと悔しさのあまり護は血が出るまで拳を握る。無理やり自分を納得させて進路に戻った。

先はまだ長い。転移魔法も地形と座標が正確に分かっていなければ発動できない上に何人もの現地人を連れている。陸路で休みながら行くしかなかった。一行は機械軍に見つからないように細心の注意を払いながらウルスタイト基地に向かった。


科学世界デッタルムでの旅が始まります。

自立したAI〝シナプスネット〟が人間を殲滅しようとしている世界ですね。

勿論モチーフは●ーミ●ーターですね。

人間は各軍閥が抵抗軍を組織して戦っています。

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