表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風恋文  作者: 村野夜市
7/18

海藻の森に怪物を封じ込める?

そんなことができるんですか?


オレは花守様に尋ねた。

すると、花守様は、いきなり言った。


妖狐族の妖力に志向性があることはご存知ですか?


しこうせい?


一瞬、なんのことか分からなかった。


むきふむき、ということですね。


志向性か。


スギナさんは、所謂、万能型、に近いですからね。

実感し辛いかもしれませんが…


花守様はちょっと考えてから続けて言った。


たとえば、ほら、楓は分かりやすいですね?

あの仔は、風と親和性が高い。

それゆえに、風由来の妖術とはとても相性がいい。

しかし、風とは違う属性を持つ妖術は、さっぱりでしょう?


確かに。

オレは即座に理解した。

いや、ごめん。

これってちょっと、お前には失礼だったか?


たとえば、狐火ひとつ灯すにしても。

楓は、火の妖術に無意識に風の要素を付け足すんです。

すると、いきなり吹き消されたり。

逆に、火柱をあげて燃え上がったりします。


なるほど。

流石、導師様だ。

お前のこと、よく分かっていらっしゃる。

オレは素直に感心した。


お前のこと見てて、よく、風みたいなやつだと思ったもんだ。

風と相性がいいからそうなのか。

そういうお前だから、風と仲良くなれるのか。

その辺りはよく分んねえけど。


わたしの妖力にも、その志向性があるんです。


花守様はにこにこと続けた。


わたしの妖力は、おそらく、植物と親和性が高い。


植物?


確かに、花守様は、郷の森を守っておられた狐だ。

花守狐という名前の由来もそこにある。

森の精霊たちも、花守様の前には姿を現すという。

それはつまり、花守様自身に植物との親和性があるから。

風と相性のいいお前のように。

花守様は、植物と相性がいい、ということか。


後になって、オレはこの話しを何度も思い出した。

あの山吹の木が枯れてしまったとき。

あの木は、郷の霊力の源だ。

あの木に、仔狐のころ花守様は命を救われたというけど。

花守様の妖力と木の霊力。

それは、互いに相乗効果があったんじゃないかな。

花守様の妖力は、植物にとても作用しやすい。

ゆえに、あの山吹は、郷のはじまりの木になったんだ。


けど、それって、陸に生えている植物に対してでしょう?

海のなかの海藻にも効果はあるんでしょうか。


それは気になった。


たとえば、オレは獣には詳しいが、陸の獣についてだけだ。

海の獣のことは、あまり分からねえ。

植物だって、海と陸とじゃ、違うじゃねえか。


その辺りは正直、やってみないと分からない、ですかねえ?


花守様はけろっとしてそう答えた。


ただ、こうして舟の上で琴を弾いていますと。

板一枚隔てた海のなかで、ざわざわと気配がするんです。

森の木々もね、そっくり、同じことをするんですよ。

それって、植物たちが、なにか応えてくれているんです。

島からじゃ、この感覚はつかめませんでしたから。

やっぱり、実際に来てこそ分かることもあるものですねえ。


うんうん、なんて、うなずいていらっしゃる。


これは、なんとかなりそう、なんじゃ、ないかな…と。


首を傾げてオレを見られても、応えられないけどな。


確かに、いろいろと検証する暇なんかなかったのは事実だ。

それにしても、思ったより、豪快な方だ。

いやもうこれは、行き当たりばったり、とか言うやつか?

まあ、この場合はそれもやむなし、か。


この先にね、岩礁があるらしいんです。

大潮のときだけ、姿を現す幻の島です。

一年のうち、ほとんどの間、海のなかに隠れていて。

草も木も生えない、岩だけの島なんですけど。

そこなら、もう少し、大がかりな術も使えないかな、と。


その岩礁のことは、オレも息長の民から聞いたことあった。

ちょうど島と陸との中間地点にあるそうだ。

島から陸へ渡るときの目印にするらしい。


その岩礁のことを、息長の民は、枯野と呼んでいた。

植物はまったく生えない枯れた岩場だからだ。

息長の民にとって、枯野は、特別な場所だった。

なんでも、枯野の下には古代の神殿があって。

辿り着けた者には、大いなる神の力が宿るらしい。


枯野から海へ飛び込む。

それが、息長の子らが大人になる大事な儀式だ。

もっとも、実際に神殿に辿り着いた者はいないらしい。

息の続く限り深く潜って戻ればいいことになっているようだ。


この季節、まっすぐ朝日にむかって行けば枯野に辿り着ける。

海の上には目印は少ないが、お日様は流石にオレでも分かる。


霧のなかにも、お日様の光は差してきていた。

うっすらと見える朝日にむかって、オレは舟を進めていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ