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風恋文  作者: 村野夜市
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正直に言う。

お前は、オレの思ってたのと、全然違っていた。


こんなにやんちゃで、暴れん坊の、向こう見ずだったとは。

オレでもぎょっとするくらい、お前ってば、無茶なやつだ。

よくよくそれで、無事に切り抜けてきたよな。

何度も何度も、冷や冷やさせられる羽目になったよ。

このオレが、だぜ?


だけど、お前の無謀って、ちょっと中毒性があるんだよな。

ついつい、面白い、って、見ていたくなるんだよ。


しかし、お前、というお嬢様に出会ってさ。

オレは、道場出のお嬢様、ってのの認識をちょっと改めた。


いや、違うか?

特殊なのは、もしかして、お前だけなのか?


オレは道場には行ってないけど。

道場ってとこは、あれだろ?

学問だの、礼儀作法だの、そういうのも仕込まれるんだろ?

なら、お前はよっぽど出来が…

あ。いや…ごめん。


お前は、仔狐はみんな道場に通うもんだと思ってるだろ?

どうにもそう思ってる節が垣間見えるからよ?

だから、オレもうっかり、お前のことお嬢かと思ったんだ。

世間知らずのお嬢様かとね。

まあ、世間知らず、ってとこは、合ってるか?


実際、それは、違うんだよな。

道場に通わされるのって、いい家柄の仔狐だけだよ。

ほとんどの仔狐は、オレみたいに身内から習うんだ。

生きていく術をね。


もっとも、お前は、習える身内がなかったからな。

それに関しては、ちょっと、気の毒には思うぜ。

事情は、藤右衛門様から、つらつらと聞かされたけどね。

あのヒト、酒には強くて、滅多に酔っ払わないんだけどさ。

ほんのときどき、酔うときもあってさ。

そういうとき、いっつも、お前のこと話すんだ。

不思議とさ、紅葉様のことじゃなくてね。

お前のこと、話すんだよ。


あの、藤右衛門様が。

喰えない狐の筆頭、みたいなヒトが。

お前にだけは、敵わないんだ、ってね。


お前さ。

自分の生い立ちを、不幸だ、って思ってるだろ?

確かに、母御のことは、お気の毒だ。

それは間違いないよ。

だけど、そんなお前を、寄ってたかって世話しよう、って。

大勢のオトナたちは、やってきたんだよ。


だいたい、不幸な仔狐は、そんなに素直には育たないよ。

それとも、本当は、自分は幸せ者だ、って。

実は、気づいているのか?


なにより、その素直さはお前の魅力だよ。

バカみたいに真っ直ぐ、一直線。

こうと思ったら、わき目もふらずに駆けていく。

ちょっと待ってくれ、って、よく思うけどさ。


だけど、お前のそういうとこに助けられたヤツ、大勢いる。

みんな、自分のこと、お前より賢いって思ってるのに。

お前のそういう真っ直ぐなところに、救われるんだ。


多分、きっと、藤右衛門様だって、そうなんだろうな。

だから、藤右衛門様は、お前にだけは、敵わない。

きっと、世界中の誰もが、敵わないよ。


だからさ。

真っ直ぐに駆けていけ。

それが、お前なんだから。

後先、心配しなくていいよ。

それをなんとかするのは、オレたちの役目だ。


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