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風恋文  作者: 村野夜市
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けど、お前とオレとじゃ、どだい、釣り合わない。

そのことに、オレも、じきに気づくんだけどね。


お前は戦師の頭領の娘。

ご初代からの由緒正しい家柄。

オレは、他所から来た妖狐の末裔。

先祖を辿っても、三代前までしかはっきりしない。


なのに、藤右衛門様は、オレをそそのかした。

オレのこと、お前の婿にちょうどいいんじゃないか、って。

そのころには、オレも多少は、身分ってものも弁えていた。

だから、そんなの、あり得ませんって即座に断った。


だけど、藤右衛門様はおっしゃった。

自分は、血筋なんてものには拘らない。

だいたい、お前の母親は、妖狐どころか普通の狐だった。

お前は純血の妖狐じゃねえ、って。


お前さんたち、年も近いし、気も合ってるじゃないか。

なかなかいい組み合わせだと思うけどねえ?


そんなこと言われたら、オレにだって、一筋くらい…

あるかな?とか、思っちまうよな…

なにせ、義父上のご推薦なんだぜ?

ほら、オレって、バカだからさ?


くそ。


まあね。

藤右衛門様みたいなお方からすればさ。

オレの気持ちなんて、お見通し、どころか。

幟立ててるくらい、よく分かったんだろうけどさ。


って、言ったら。

いやいや、アタシじゃなくったって…

って、語尾を濁して、笑われたけどさ。


ごめんね。

お前さんの嬉しそうな顔が、あまりに可愛くてさ。


だと。


おいおい。


昔、お前、藤右衛門様のこと、すっげえ嫌ってただろ?

その気持ちが、欠片くらいは分かったぜ。


オレね?

藤右衛門様って、結構、好きだぜ?

うまいもの食わせてくれるし。

オレの話しも、真剣に聞いてくれる。

ときどき、ぽろっと、弱いところを見せてくれたり。

すっげえ頭も切れるし、ときには容赦もないけど。

本当のところは、仲間思いの、あったかいヒトだよ。


だけどさ。

あのヒトって、本当、喰えない狐、だよ。


ときどき、何考えてんのか分からねえ、とか思う。

いったい、あの頭んなか、どうなってんのかねえ。


でもね。

最近、それもそれでいいっか、って思うようになった。

難しいことは分からねえ。

なら、そういうことは、分かるヤツに任しときゃいいんだ。

藤右衛門様は、本当は何考えてんのか分からねえ。

けど、分かる必要はないんだ、って。


分からなくても、オレは藤右衛門様のこと、好きだし。

多分、藤右衛門様だって、オレのこと、好きだろ。

ちょっと恨めしいことも、ないこともないけど。

それもひっくるめて、藤右衛門様は笑ってくれるんだ。


オレさ、蓮華様のこと、最初はけっこう、侮っていた。

よくもまあ、こんなヒトが、藤右衛門様の相棒やってるって。

けどさ、それも、なんか、最近じゃ、納得なんだ。


もしかしたらさ。

藤右衛門様には、蓮華様みたいなヒトが必要なんだ、って。

騙されても、化かされても、信じてついてくる。

根っからのバカを、ああいうヒトは必要としてるんだ、って。


あ。

なんか、藤右衛門様の話しになっちまった。

まあ、お前の大事な父上だからな。


まあ、そういうわけでさ。

オレは、義父上ご推薦の婿なんだ、って。

そう勝手に思い込んでた時期があったんだ。


けどさ。

あるとき、それ、藤右衛門様に言ったらさ。


バカだねえ。

あの娘の婿を、なんでアタシが決めるんだい?

それは、あの娘の決めることだよ。


って、一笑に付されたのさ。


もちろん、お前さんのこと、反対もしない。

あの娘がお前さんを選ぶ、って言うならね?って。


…それってさ?

オレが選ばれるわけねえ、って、思ってねえ?


くそ。


後になってさ。

なんでオレのこと焚きつけるようなこと言ったんです?

って、そう尋ねたらさ。


そりゃあねえ。

アタシの娘なんだもの。

モテて当たり前じゃないか。


いけしゃあしゃあと、そうのたまったよ。

つくづく喰えないお方だよ、藤右衛門様って。


お前をいつかオレの嫁にしたい。

それはオレの願望みたいなもんだった。

お前にはさっぱり相手にされなくても。

そう言い続ければ、いつか叶うかもしれない。

だから、オレは、バカみたいに、そう言い続けた。


いやもう、ほんと、バカだっただけだよ。




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