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風恋文  作者: 村野夜市
2/18

あれは、オレが目を覚ましてすぐだった。

川原へ石焼にする石を取りに行ったことがあっただろう。

あのときは、楽しかったよな。

思えば、オレの初恋は、あれが絶頂だったな。


オレはまだ、お前の本当の気持ちに気づかなくて。

ただ、お前のことが好きだって、それだけだった。

とにかく、一緒にいて、楽しくて楽しくて、楽しかった。


オレは、お前のこと驚かせたくて。

それから、オレのこと、すげえって思わせたくて。

よくよく考えたら、オレってつくづく馬鹿だよな。


久しぶりに感じた外の世界の風が、気持ちよかったなあ。

施療院のなかにも、風は吹いているけど。

あれって、妖術で作った偽物の風だからな。


調子に乗って、鹿狩りなんかもして見せたりして。

いや、あれは、ちょっとやりすぎだった。

おかげで、帰ってすぐ、寝込む羽目になったんだけどさ。


やっぱ、狩してるときって、楽しいよな、って。

つくづく思ったんだよね。

狩は、小さい頃から、じっちゃんにさんざん仕込まれたけど。

ずっと、オレは、狩師じゃなくて、戦師になるつもりだった。


でもさ。

だけどさ。

戦師に見習いについて、戦場は何度か見てきたけど。

オレ、やっぱ、戦って、本当はあんまり、むいてないな。


狩と戦は、なんか違うんだ。

どっちも、命をかけて戦ってるんだけど。

なんか、違うんだよ。


だけど、オレは、金を稼がなくちゃならなかったし。

戦師以上に稼ぐ方法もなかったから。


オレにとっては、じっちゃんはたったひとりの家族だ。

親はどっちも、顔も覚えてないんだけど。

じっちゃんは、ずっと、小さいころから傍にいてくれた。


少しでも長く、じっちゃんには生きていてほしい。

いい薬があるって聞けば、オレはそれを買いに行った。

狩の獲物を売って金を作ってたけど。

薬ってのは高くて、獲物を売った金じゃおいつかない。

だから、手っ取り早く稼げる戦師を目指してた。


けど、そのじっちゃんの病気も、花守様に治してもらって。

薬だって、ただでもらえることになって。

本当に、オレは、花守様には感謝してもしきれない。

ジジ孫揃ってお世話になってるんだからな。


花守様のおかげで、じっちゃんも元気になった。

大王との休戦以降は、戦師の仕事も激減した。

郷は退屈だ、って、出て行ってしまった戦師たちも多い。

戦場や花街に染まった狐は、もう郷の狐には戻れないんだと。

その気持ちは、あんま、よく分からねえけどな。

分からないことが、幸せなんだ、ってじっちゃんは言う。

けど、狩師の仕事はなくならない。

今はじっちゃんも張り切って狩師をしている。


そんなじっちゃんひとりを置いてよく志願したな、って?

いや。違うよ。

じっちゃんは言ったんだ。

オレは、このまま変わらずいつまでも待っててやる。

だから、お前はお前の思うようにしろ、って。


オレはさ。

そんなじっちゃんが暮らす森も護りたい。

このまま、戻れなくなる、なんて、思ってない。

きっときっと、戻ってくる。

そしてまた、じっちゃんと一緒に暮らすんだ。





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