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あれは、オレが目を覚ましてすぐだった。
川原へ石焼にする石を取りに行ったことがあっただろう。
あのときは、楽しかったよな。
思えば、オレの初恋は、あれが絶頂だったな。
オレはまだ、お前の本当の気持ちに気づかなくて。
ただ、お前のことが好きだって、それだけだった。
とにかく、一緒にいて、楽しくて楽しくて、楽しかった。
オレは、お前のこと驚かせたくて。
それから、オレのこと、すげえって思わせたくて。
よくよく考えたら、オレってつくづく馬鹿だよな。
久しぶりに感じた外の世界の風が、気持ちよかったなあ。
施療院のなかにも、風は吹いているけど。
あれって、妖術で作った偽物の風だからな。
調子に乗って、鹿狩りなんかもして見せたりして。
いや、あれは、ちょっとやりすぎだった。
おかげで、帰ってすぐ、寝込む羽目になったんだけどさ。
やっぱ、狩してるときって、楽しいよな、って。
つくづく思ったんだよね。
狩は、小さい頃から、じっちゃんにさんざん仕込まれたけど。
ずっと、オレは、狩師じゃなくて、戦師になるつもりだった。
でもさ。
だけどさ。
戦師に見習いについて、戦場は何度か見てきたけど。
オレ、やっぱ、戦って、本当はあんまり、むいてないな。
狩と戦は、なんか違うんだ。
どっちも、命をかけて戦ってるんだけど。
なんか、違うんだよ。
だけど、オレは、金を稼がなくちゃならなかったし。
戦師以上に稼ぐ方法もなかったから。
オレにとっては、じっちゃんはたったひとりの家族だ。
親はどっちも、顔も覚えてないんだけど。
じっちゃんは、ずっと、小さいころから傍にいてくれた。
少しでも長く、じっちゃんには生きていてほしい。
いい薬があるって聞けば、オレはそれを買いに行った。
狩の獲物を売って金を作ってたけど。
薬ってのは高くて、獲物を売った金じゃおいつかない。
だから、手っ取り早く稼げる戦師を目指してた。
けど、そのじっちゃんの病気も、花守様に治してもらって。
薬だって、ただでもらえることになって。
本当に、オレは、花守様には感謝してもしきれない。
ジジ孫揃ってお世話になってるんだからな。
花守様のおかげで、じっちゃんも元気になった。
大王との休戦以降は、戦師の仕事も激減した。
郷は退屈だ、って、出て行ってしまった戦師たちも多い。
戦場や花街に染まった狐は、もう郷の狐には戻れないんだと。
その気持ちは、あんま、よく分からねえけどな。
分からないことが、幸せなんだ、ってじっちゃんは言う。
けど、狩師の仕事はなくならない。
今はじっちゃんも張り切って狩師をしている。
そんなじっちゃんひとりを置いてよく志願したな、って?
いや。違うよ。
じっちゃんは言ったんだ。
オレは、このまま変わらずいつまでも待っててやる。
だから、お前はお前の思うようにしろ、って。
オレはさ。
そんなじっちゃんが暮らす森も護りたい。
このまま、戻れなくなる、なんて、思ってない。
きっときっと、戻ってくる。
そしてまた、じっちゃんと一緒に暮らすんだ。