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風恋文  作者: 村野夜市
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長くなってしまった。

いろいろと、ほら、お前にはさ。

あのときの花守様の様子とか、伝えたくて。

ってもさ。オレもさ。

結局は、肝心なところ、置いてきぼり、くらったんだけどね。

花守様ってさ。

いざってときは、結局、自分で全部背負っちまうんだ。

やっぱり、郷の始祖様なんだな。


だけど。

花守様は、もう本当、どんな場所にいても、何してても。

いっつも、お前のこと、思い出してた。

ご神木にあんなに恩を感じてたのも。

結局、そのおかげで、お前と婚姻できたからだろ。

もしかしたら、怪物を封じたのだって。

お前と郷に帰りたかったからかもしれねえ。


あれから、お前は、花守様のこと、話さなくなったけど。

それって、忘れたいからじゃないんだろ?

お前のことだから。

今はそれどころじゃないから、とか。

絶対に帰ってくるって確信してるから、とか。

そういうことなんじゃないかな、って、オレ、思ってる。


前にね。

お前がこっそり、胎の仔に歌ってるの、聞いてしまったんだ。

ほら、あの、ゆらの歌だよ。

花守様が歌ってた歌だ。


そういえばさ。

オレの息長の友だちがさ。

この間、海で、琴の音を聞いたって言うんだ。

あの、岩礁の近くでさ。


息長のやつらでも、はっきりとは分からないらしいんだけど。

あそこの海の深いところには、大昔の神殿があるらしい。

もしかしたら、花守様はそこに辿り着いたかも。

だけど、何かの理由で、そこから戻ってこられないのかも。


怪物がどこに封印されているのかも、分からないみたいだ。

ただ、神殿のある辺りは、ことの他深い森になっていてさ。

その辺なんじゃないかと考えられているようだ。


たださ。

怪物を封印したことは、あんまり大っぴらにできなくてさ。

あの怪物、どうも、大王家と関わりがあるらしくてね?

息長としては、自分たちが封印したとは言いたくないんだ。

ほら、またぞろ言いがかりをつけられたりするからさ。

攻められる口実にしたくないんだな。


本当はこの辺りも、お前とゆっくり話したかったんだけど。

もう、その余裕はなくなっちまった。

ごめんな。

けど、オレも、微力ながら、この郷を護りたいんだ。

お前と、お前の胎の仔が、これからも暮らしていくんだから。


花守様が、相棒って認めてくれた、このオレだからな。




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