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問一、何故彼女は解物を信仰するのか?  作者: らいら
Hint.1 セカイ束縛は不変の一片
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彼女の変化と適応性は褒めるべき美点だ。

『“友達を作る“”コツをせっかくだから教えておこうかな』


『大変有難いのですが、遠慮しておきます』


『いいかい?大事なことは一つだけだ。一度しか言わないからちゃんと聞いておくんだよ、リーレ』


『……』


『大事なのはマシンガントーク!

 日本人は外国人とは大元違ってお節介で気を遣ってばかりで空気を読むことに長けているのだよ。


 故に僕がおすすめするのはそれなんだ。空気に流されやすい川のように生きてる日本人なら!流されやすいその場の雰囲気で生きてるって人には最適な距離の詰め方だ!!』


 もはやそれは距離の詰めすぎでは、と思ったり思わなかったり。



『でも八割型の人には引かれるってのが性だから、その点は覚えておくことだね』



 あの役に立たない胡散臭く絶対失敗のもはやコツとも言えないコツとやらを試してみますかね。


 探偵様が推奨……してましたかね?

 してました、よね?


 ともあれやってみます。

 なるようにはなります。ええ、きっと。


 やればできる、という言葉は嫌いというか苦手なので、今回はなるようにはなれば良いのです。



「……え?」



 私は仰向け状態の木蓮様のマフラーで半分隠れた顔に、ずいと顔を近づけました。それはもう息のかかるほどの距離です。

 丁度いい機会ですし木蓮様をついでにじっくり観察してみましょう。


 初対面の敵意を込めた虚構を見つめた瞳は綺麗でした。黒く堕ちてしまう、そういう傾向にあるその視線を虚飾なのかと思うほどに浅く何処までも澄んでいました。


 淀みなき純白。


 清廉を証明するとともにそれはすべてを見限ってしまった虚構だとも見破れました。


 男性であるはずですが、そばかすやニキビ一つない白い肌は保湿も抜群です。整っています。マフラーで隠さなければきっとクラスで人気者だったことでしょう。


 マフラーをつけている理由もいずれ聞く予定としまして、マシンガントークの始まりです。要はお手本として抑水様をイメージしましょう。


「木蓮様の好きな食べ物はなんですか?」


「……え?」


「趣味なども教えていただけると幸いです。私は給餌をすることを得意としていますが、それを一貫し続けていると特技が趣味へと移り変わっていました。


 勿論料理も含まれるので今度お弁当を作ってあげましょうか?


 もしくは木蓮様の趣味も共通しているのなら共に料理をしてみますかね。仮にかけ離れていても私自身も木蓮様の趣味を知り、挑戦してみますから。


 他にも誕生日、血液型、身長体重などが一般的な質問にも挑みたいです。木蓮様が答えてくださったら私も答えますので安心してどんと来い、というやつです。


 女性に抵抗のある体重の質問も私ならすんなりと答えられますので、その点もご安心を。学校関係ですと、好きな教科や苦手な教科、好き嫌いのものとして生徒や先生も含め全部教えてもらいたいです」


 ふぅ、どうにか言い切りました。勢いだけあります。文の構成は崩れてしまった気も少々いたしますが反応で分かりますので。木蓮様は……。


「……何でそんなことを知りたいんだ?」


 驚いた顔は継続ですが、面白い顔です。

 マフラーがずれ、口元を隠さなくなった分よくその表情は読み取れました。 


「私が木蓮様を知りたいからです」


「そこに特別な感情はないよな?」


「ありません。その特別な感情を木蓮様が恋心などというものだというのなら絶対に。下心はありますが」


「ん?」


「誤解しないでいただきたいのは下心と言っても、木蓮様のことを知りたがる、知識欲とも言える探究心です。こうして顔を急接近して一方的に質問した行為には一切の好意がなく、同情に近いものですから」 


 その答えに納得ではない明らかに複雑な表情をした木蓮様。


 それは照れたような怒ったような、表情。

 度々私の視線から逃げ、数十秒の沈黙の後に口を開いた。 


「……分かった、とりあえず離れてくれ」


 素直に従います。正座で背筋をピンと伸ばして答えを待ちます。


 木蓮様はゆっくりと体を起こし、私の方へと体を正面に持ってきました。

 真似をするように(とは言ってもあぐらです)それでいて対象的に前のめりになってしまわれます。そして私の目を見て言うのです。


「…………俺なんかのことを知りたいのか?」


「先程からそう言っています。それでも補足するなら私は嘘が嫌いです」


 木蓮様は首元のマフラーで口を隠します。


 これはもしや照れ隠しというやつですか?

 今度は表情をうまく読み取れませんから明確には分かりませんけど。

 


「……趣味は寝ることだ。残念だが俺はあまり食事を摂らない、から料理とかはまるっきり分からない。他にもこの力を制御する特訓は日課みたいな感じで好きだ」


「……ならば私もお供します、夢の世界に。武芸も多少心得があるので簡単なお手合わせもぜひ」


「誕生日は三月九日」


「木蓮様のお名前の花の名前の時期ですね。素敵です。私は本来の誕生日は曖昧ですが、ちゃんと理解できている誕生日は二月二日です」


 *


「血液型はB型だ」 


「確かにマイペースな傾向にあると耳に挟んだことがあります。木蓮様もそうなんですか?」


「多分、な。人からどう見られてるかとかあまり気にしてことはない」


「同感です。お揃いさまで私もB型ですよ」


 *


「身体測定サボってたから曖昧でいいなら」


「ならば今度一緒に図りに行きましょう。今回のように授業をサボって保健室に行きましょう」


「絶対あいつがついてくると思うけどな」


「その時はカムバックです。ノーウェルカムです」


 *


「授業はほとんど寝てるからよく分からん」


「出る意義を唱えたいです」


「卒業する為だよ」


「それで頭には入ってるんですか?睡眠学習法」


「ある程度は器用にできるタイプだ。赤点取らなきゃ別にいい」


「それもそうですね」


 *


「好き嫌い以前にあまりクラスメイトとか先生と関わらないな」 


「その力のせいですか?」


「俺の性格と反抗期中だから」


「ですがクラスの男子あたりは木蓮様の力自体に怯えて逃げたんですよね」


「よく分かったな。俺が教室に入るなり、動物園だったのがお通夜みたいに静まり返って、そそくさ逃げたんだ」


「木蓮様は不良ですからね。問題児、ですか?ともあれ、いちゃもんつける人皆に私のように攻撃したのでしょう?」 


「別に何かと構わず攻撃はしねぇよ。ただ生存本能にも近いんだろうな。この容姿も相まって、俺の存在自体が他と違うことを察して避けられてるって感じだ。それに俺は目は悪いんだ」


「なるほど。だから睨んでいるように見えるのですね」


 *


 終礼の鐘がなっても木蓮様と私は初々しく辿々しく、言葉を紡ぎました。


 お互いを知る。

 それが友達への道第一歩です。


 ですが結局マシンガントークの結果これならば日本人が流されやすいのも納得ですけど。木蓮様は引いた様子は……ありませんでした。むしろ勢いにおされて弱腰でしたし。

 終わりよければ全てよし、というやつですかね。


「そういえば木蓮様と抑水様は幼馴染ですよね?」


「小さい頃からずっと一緒だ。俺が一人になろうとしても一人にはしてもらえなかったな」


「絡まれてウザかったですか?」


「ストレート。お前のそういうとこ好きだけどよ……その答えは違う」


「なら……」 



「ボクもいーれーてーっ!!!」



 突如ドタドタと騒がしい足音と共に私達のは以後に近づいてくる物体がありました。それは噂をした人物で桃色の瞳を輝かせた体育の後なのに元気溌剌な抑水様でした。


 私と木蓮様の間に割って入り、スライディングで滑り込み座りをしました。危険です。更に両脇に私と木蓮様の腕を無理やり組み込みました。


「えへへー、びっくりした?したよね!?絶対!」

「気づいてました」「バレバレだよ」


「嘘!?ドッキリ失敗……ま、そうだとは思ってたから結果おーらい!」


 何が結果おーらいなのかは知りませんけど、木蓮様との静かな空気感ですとこのハイテンションは一気に疲れが来ます。

 


 ですが胸の奥が、じんわりと温かい気がしました。



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