実に愚かで無垢らしい糸口だ。
●第三部 事件の真相
「つーか、連続通り魔事件の犯人こいつなんだろ?憤怒?だっけ?なんでここまで長々と…」
「全ては繋がっているんだよ。だからちゃんと轍を踏んで理解しやすくをモットーとしたらこの形式なんだ。だから、果燐。気になること何でも質問していいよ」
「うっし。じゃあ質問させてもらうぜお前ら」
「骨を鳴らさないでよ。なんで君はそう喧嘩腰なんだか……」
「で、事件のきっかけはなんだ?」
「原体の、感情暴走。
感情のバランス著しく変動、憤怒達から最もその感情に近しい激情の人格になる」
「その感情暴走のトリガーが今回はリーレ=シャルラタンの旅立ちだったというわけだ。リーレは余程気に入られてたんだね」
「……そもそも、なんて人格が変わるんだ?別に変わる必要性があるように思えん……」
「そこは私がーーー仮に、そこにはヌルちゃんの心の中に世界がもう一つあると思ってください。
先程ヌルちゃんの感情欠如の話がありましたよね?
欠如、つまりは穴です。
その世界には治りかけの、怪我にガーゼを貼っただけの中途半端に塞がれた穴があります。
暴走するということは、その穴が開かれること。
傷口が開かれることです」
「その傷口からここの自我が強い感情が溢れ出る、ってことかい?それで一度に複数の意識が脳に集中するから混乱状態になるみたいな解釈でいいかな?」
「百点満点です綴ちゃん。
憤怒ちゃん達は穴を守るでも治す為にいるのでなく、自然にそこに在るだけの存在なわけです。だって一感情でしかないものですしね。
私達がするのはヌルちゃんが感情の爆発で壊れないよう、その爆発感情に適した感情を一つ選択すること。ヌルちゃんは大事な住処ですから爆発したまま、穴を空けたままにはしないんてす。
感情処理。
それをするために人格を変えて、根本の感情を発散させます。これが答えです。理解してもらえたでしょうか?」
「………感情処理。それを僕は追求したいんだけど。素直に答えてもらえると嬉しい」
「私達に答えられることなら」
「その感情処理、えらく時間がかかっていないかい?」
「………?まぁ確かに長髪の野郎が出てきたときは
あー……多分半日くらいだったよな」
「それに君等はたった一つの激情。
その処理とやらに当たっては感情の反動みたいなものがあるはずで、七つの大罪となるとその衝動とも言うべき行動がバラバラや切り刻みに現れてるなら、処理として一理の行動だと思う。だが今はそれが全く見受けられない。
激情としてあるまじき行為をしている。
憤怒は憤怒なんだからその感情処理を終えるまでは静かに怒り続けなければならない。
だけど君にはそれ以外の感情が見える。
焦燥、安堵……君らにとっては不必要なものなのに。
最も君等が言う現状況の打開の為の使命感から生まれたんだろうけど。とっくにその感情処理はなくなっているんじゃないかな?」
「…………何が、聞きたいんですか?」
「君等、ヌル=エルのーーー無垢の体を乗っ取ろうとしてないか?」
●第三部 事件の真相(続)
「てめぇっら!ヌルに何するつも」
「そんなつもりはない。断固として。絶対」
食い気味。
寡黙で必要最低限しか話さなかった憤怒がいち早く反応したことをみれば、鎌をかけた甲斐があったというものだ。安心していい、無垢は健在できるはずだ。
できるのに、できていない。
その謎を解き明かすのが三部だ。
「……このことは私達にも詳細にはわからないのです。これこそ、ほんとにどうやって話せばいいのか……」
「じゃあまず、何故憤怒なんだ?」
「他の感情のほうが相応しい、と言いたいのですか?」
「だってお気に入りの子を僕に盗られたようなものだろ?例えリーレ自身で選んだとはいっても、ね。リーレと無垢の間に愛やら恋やらあったのかは知らないけど、リーレは信仰心だと言っていた。
ならば無垢は?
ーーー愛しさを持っていたとしたら?
その場合は嫉妬、つまりは君が出てくるべきじゃないのかい?」
「……ん?それだとおかしいじゃねぇか。だってこいつ、嫉妬はヌルの中にいるはずなのに……!?なんでてめぇがリーレ=シャルラタンの方にいるんだ!?」
「今更かい、君……」
「うるせぇな。あんま考えてなかったんだよ」
「ふふっ、説明しますよ。勿論」
いたずらっぽく嫉妬は微笑んだ。
「まずは綴ちゃんからの方ですね。
理由は単純明快です」
「原体の体に嫉妬は居なかった。それだけ」
「何故居なかったのか、ですが。簡単に話すと、ヌルちゃんがリーレちゃんに肩入れしている理由に繋がります」
「リーレ=シャルラタンは原体に助けられた際、既に瀕死状態だった。
治療に当たる頃には死の縁にいた。
そこで、原体は思いつく。
血液と共に欠けていた臓器諸々、原体自身の適応性を持った脳を適合すること。
その脳にリーレ=シヤルラタンの全てを適応させ、馴染ませ、再生させること。
その脳の中で選ばれたのが、
凶暴性危険性ともにゼロに近い嫉妬」
「実際にそれは成功しました。今の私を見れば当然のことでしょう。ですがヌルちゃんには不安がありました。
自身が混乱状態に陥った時にリーレちゃんに影響は出るのか、後遺症や後から体内に影響が出たら、なんて思いがあったみたいです。
だからリーレちゃんがヌルちゃんの側にいることを許されたのは初めこそ贖罪だったんです。
自身の身勝手な自己満足の為に許可も取らずに生き長らせた異端な自身の脳の一部を譲ったことに、責任を感じてたんだと思いますよ」
「んー、それじゃあ足りない。補足がほしいね。
何故嫉妬がいなかったら憤怒なんだい?それと、感情処理が終わっているのに無垢が戻らない理由を明確に教えてくれ」
「今の原体の体に無垢は居ない」
「単純明快でしょう?」
「……はぁ!?」「やはりか」
第三部終了。
余談なしに次へ進む。