無垢は僕らが大好きだ。
●第二部、七つの激情について
ヌル=エルの本質とも言ってもいい部分だ。
感情欠如を補うための激情の存在についての疑問を解消していこう。
「そもそもお前らってどう生まれたんだ?ん?
てか、感情の人格ってなら芽生えたのかーとかの方が合ってんのか?」
「別にどちらでもいいと思いますが……突然振りましたね」
「だって俺、すげーでっけーあの長髪の片目隠したやつしか知らなかったぜ」
「それ、強欲」
「あいんす?なんだそりゃ」
「えーと、なんと言えばいいのでしょう。説明するにはまず轍を踏まないといけませんけど。
まず果燐ちゃんの初めの問に答えることからになります。」
「果燐ちゃんだと!?」
「……っ!くくっ……あはははっ!果燐ちゃっ……果燐ちゃんって……アハハハハハ!」
「………おいっ、笑い過ぎだっつーの!!!」
「絶対適応能力の一つの特性、激情の人格化は突然変異ではなく、必然的な出来事があって起こるものなんです」
「一気に、はない。一つずつ、順番」
「だからアインスっていうのは強欲のことであってドイツ語の数え方の一を表すんです。ヌルちゃんが初めて得た激情は幸福な感情以外は強欲だったってここになるんです」
「くくっ……果燐ちゃん……ふふっ」
「ったくもうしつけーぞお前!
はぁ……とはいえ強欲、か。
………なぁ綴。そのあいんすって奴と会った時ってどんな時だったか覚えてるか?」
「え?まさか、覚えてないのかい?」
「だから聞いてんだろ」
「……まあ、そうか。(馬鹿で阿呆な)君なら忘れてても仕方ないか。うん、じゃあ教えてあげるよ」
「なんかムカつくな」
「僕らがまだ箱庭にとらわれていた、最終課程に辿り着く二段階前くらい……春が始まったばかりの頃かな。あの頃……何かペットか何かを飼い始めたのか……ん?」
「曖昧だな。頼りねー」
「何故だろう?僕でも不思議なんだ。そこだけが何か、忘れているような……」
「お前に限ってそれはないはずだぜ。あんま考え過ぎんな。坩堝にハマられるよりも少々端折ってくれたほうが俺にはわかりやすい」
「うぅむ……それもそうだね。続けるよ。
まぁわかりやすく言えば、おそらくはペットであろう存在に僕らは皆懐されていて、可愛がっていたんだよ。そんな日が続いたある日、僕が冗談交じりにがこんな質問をした。
一番好きなのは誰だい?
とね。
それでその存在だけが言うのは不平等だからといって僕らも言うことになった。それで答えていたら無垢が突然頭を抱えて数秒の気絶。
その後の無垢に近づこうとすると骨格や髪の毛を急激に成長させ、果燐の言っていた姿になっていた」
「あー思い出してきたぞ。でもそれがなんで必然的な出来事が……段階がふまれてたんだ?」
「それはーーー嫉妬と憤怒に聞いたほうが早いだろうね」
「強欲の感情。それはヌルちゃんにとっては当然だと私は思いますよ。
ヌルちゃんは幼い頃の残酷な息も詰まる環境で生きてきて、箱庭と言う場所に来てから幸せを、素を曝け出し純心から悩みに苦しみ楽しみ笑いに人間のように生活していました」
「天使だと言われていた」
「憤怒ちゃんの言うとおり。だからこそ愛というものに飢えていたんです。そこの二人、そしてその曖昧な存在に愛し愛されるだけで満足であるはずなんです。
ですが何故か感情は疑問に思ってしまったんです」
「多分、心の奥底。思ってた。
一番がいい。
全部が欲しいって」
「思えば、納得はするよ果燐。ヌルは箱庭では一人を妙に嫌悪し懸念していたからね。僕と果燐が一緒に話してたりすると必死に息を切らすほど走り回って探してたしね。
無知であること、無関心であることを望まれてきた無垢がそれを恐れ、一人になることを恐れて欲しがっていた」
「それで俺らが欲しいってか?それも一番に」
「見た目に削ぐわず憎らしく愛しいほどに僕らが大好きで全部が欲しかったんだろうね」
「でもこの話から関連付けるってなるならよぉ、お前らは何番目に芽生えた激情なんだ?」
「私はツヴァイ。嫉妬です。強欲の次、二番目です」
「ドライ、は憤怒。三番目」
「強欲に嫉妬、憤怒と来て……七つの大罪の塩梅で考えていいのかい?」
「はい。それと後補足をすれば、私達はあくまでも感情欠如を補うのが役割であるだけ、絶対適応能力の本質は私達ではなく、適応ということです」
「それってどういうことなんだ?」
「七つの大罪は人間の本性に誰しも存在するものです。それがヌルちゃんにはない。だから極度に人間性として色濃く顕現します。
だからこうして人格として個々に精神意識として存在してます」
「その人間性こそ、七つの大罪」
「七つの大罪、良いなれば人間としての根源だよね。
適応っていうのはその場に応じて即興に合わせることじゃない。過去の根源を断片を起因から派生し、進化させて合わせるものなんだよ。
うんうん。改めて聞くと興味深いよね」
「………わかんねぇ」
第二部終了。