勘違いしてはいけない。あくまで色を付けた新キャラ回だ。
何を今更って後悔しても遅いだろうけど、言い訳とでも思ってくれてもいいから僕の話を聞いてくれはしないかい?
僕は交戦する気なんて無かったんだ。
だって向こうが先に手を出してきたんだし。
先手必勝って勝負を申し込んだ覚えもない。待ってるよとは言ったけど、タイマンなんて僕も誰も望んじゃいないし。
日本語って難しいね。
まあ、この行動が答えの後押しになっているのも事実。
新たに浮上する疑問が一つ。
なんとも言えまい。
謎を繰り返さないだけマシだ。
謎を繰り返して同じことをする。
そういう行為は嫌いではない。
でなければこうして『不変なる者』ーーー『不変者』であり続けるのに理由はないからね。
それに【探偵】で居続ける事もままならなくなる。それだけは回避したい。
現在、コイツの猛攻を回避続けているように。
コイツは今は暴発した一つの激情でしかない。
いずれは消える。
そういう定めのものだ。
探偵たるものの教示を胸においては、このまま回避だけというのは最善だが、効率は最悪だ。第三者からみれば押されていると誰しも思うだろう。僕も今客観的に見たらと考えたらそうだ。
だが回避するのにもコツが有る。
体力面を無視すれば、一生続けられるとも。
だから、彼がくるまでは僕はここを耐えれは良いだけ。
これが僕の最悪だが最高の策。
伏兵というのが役に立つ。
待つことが嫌いなのに、待たざる得ない状況にまで追い込まれた急展開。これだから飽きないのだ、僕の生き様は。
僕は余裕そうに鼻を鳴らしてやる。
コイツ如きの動きは百切ってるさ。
「ーーーー痛っ!?」
そこで僕の体のあちらこちらに、コイツの刃の如く鋭い手が掠り始めた。ひらりと、一度も乱れ散らなかったスカートの裾が大幅にナイフで裁断されたような切れ端が舞った。
それにあちこちに裂け目のように切り傷を入れられる。
血液が僕の動きに遅れて宙に舞い、それをはっきりと視認した。
そして片隅で浮かんだ。
『被害者は全員死なない程度に裂傷を過多に負わせた』
そういう状況になるのか?僕も?
このまま現状維持となれば、僕は出血多量でピンチになる。
それで倒れて、貧血で。彼女が危うくなる。
あれ、これ。
詰んだ?
いや、でもまだ彼の努力次第で……ってそんなわけにもいかないね。彼のことは信用も信頼もしてるけど、一番信用信頼たる人物は自分なんだ。
でも。今はちょっとそれができなさそうだ。
「何か一言でも喋ってみてよっ!それともっ、その余裕が無いくらいに僕に苦戦してるって感じかい?」
クソッたれ。この僕が余裕無い上に、打つ手一択。
せめてもの挑発……なんて情けない。
不味い。
このままでは不味い状況になってしまう。
不覚だ。盲点だった。
恋は盲目、愛も盲目なんて唱えておいて僕までもが盲目になってしまったようだ。盲点なだけにね。
「裾も散らすなよっ!特注なんだよ、それ。賠償でもしてくれるのかいっ!」
「…………」
コイツ、本領を発揮し始めたのか?
橙を背にするコイツを自然に誘導して表情を汲み取ろうとする僕の企みが見事成功して、その途端から僕の回避行動が鈍くなった。
なんだこれは。僕に何が起こった?
コイツが速くなった訳でもない。
それは理解出来る。出来るが故の、答えは。
僕の動きが鈍くなった。一択だ。
連日の疲労の残り、もあるが最もな理由は僕がコイツを腐れ縁と同等に見ているからだろう。しかも今回は風貌は全く違えども、背丈や顔立ち、雰囲気は結局類似してしまうわけで。
僕は無垢とコイツを重ねている。
何故こうなったかは理由は分かる。
その理由の根本的な要因も分かる。
だからこのような事態になる前に、対策を取れなかった。助けになれなかった僕自身を責め立てているのだ。
困ったな。ここまで僕の精神は軟じゃない筈なのにね。
やはり僕にだって出来ないことがあって。
それを痛感して。
それを彼女ができることにも焼いているのかとしれない。情けない嫉妬だ。
「ーーーリーレ?」
気配の動きを感じた僕は横目に背後を見る。その時の僕の表情はどんなのだったのだろう。僕はきっと、混沌に拐かされた多々の人間が苦しむような顔だったのだったのだろう。
嫉妬、遺憾。
その先の意識、興味。
紅に映した彼女は弱った子猫みたいに縮こまって頭を抱えて崩れていた。
何か、呟いてる?
今はコイツに集中しなくてはいけないのに、どうしても興味が完全に彼女に向いてしまった。僕のこの渦巻く混沌の陥れる場所のヒントがきっと、彼女に全部ーーーー
「余所見すんなよ、馬鹿野郎っ!!!!」
好機到来、時期到来。
とうとう彼を紹介する時が来たようだ。満を持してとは当にこのこと。
現在保身基推理に全身全霊を注いでしまい、不覚を取った(今回ばかりは素直に認めてやる、今回だけはこの低能くんに花を持たせてやる為にね)僕こと推晶綴は、コイツからのうなじを狙った手刀を躱してくれた彼に腰に抱えられて宙を舞っている。
よく、彼にはこうして助けられたし、遊んだ。
懐かしいなぁ、昔もこうしてよく抱えられたものだよ。
彼は僕よりも頭三つ四つ分ほどの背丈の差があるほどの低身長だ。成長がかなり過去から止まっている。それなのにこうして僕を軽々と片脇で担げる程の馬鹿力を持っている。
それは我々の『不変者』たる理由の根幹でもあるので、ここでは割愛しよう。僕の話は長いのに、この話をすればもっと長く長くなってしまうからね。
だからここで語るべきことは、彼の詳細だ。
彼の名は竜胆果燐。
僕の腐れ縁二人目にして、つまりは同僚で幼馴染と言える立場。