心の臓物はどちら?(+0)
「本当にすみません!!!ご迷惑をおかけしました……」
目が覚めたら知らない天井で、意識が完全に覚醒した時には探偵様が隣にいて……全く状況が把握できませんでした。
できませんでしたけどこれだけは理解できました。
探偵様に迷惑を被ってしまった。
私の予想通り探偵様は疲労困憊で倒れてしまった跡があります。ベットの皺のより具合といい、備え付けの洗面台の横に濡れたタオルと私の衣類がありました。
わざわざ私の面倒まで見させてしまい、顔面蒼白です。ベットから勢いよく腰を上げ、精一杯頭を下げました。
「別に気にしてないって言ってるだろ?しつこい奴とうるさい奴、僕は大嫌いだ。もう謝るんじゃないよ」
「ですがっ……!」と訴えるものの、完全無視されています。
小さなソファを私のベットの横に置き座り、鼻歌交じりに読書を嗜んでいます。本を膝にゆっくりと置き、焦る私の肩に手を添えられました。
その時の私の肩は凄く、震えてたと思います。私がその優しさに甘えたくなくて、必死に顔を上げ言葉を伝えようとするもののそれは静止されました。
「何度も言わせない。君が甘えたくないってなら、僕は放っておくけどでも君はきっと罪悪感を抱き、僕に気を遣い続ける。恩を返そうとお節介に走る。それだけは辞めてくれ。それこそ迷惑だよ」
「……っ!」
探偵様の吐く言葉は至って真剣です。呆れてもその発言には冷たいと取れる。
ですが裏を汲み取れば、探偵様は私を絶対に見捨ててやらない、そう言っています。捻くれてます。
すべて見透かされ、図星。
口をつむぐしかできません。
追尾、その紅の瞳は私に釘を刺します。
「いいか、よく覚えておくんだ。僕は人の好意を無下にする用な輩は好かない。大嫌いだ」
「……はい、分かりました」
「うむ、よろしい。素直な子は好ましいよ」
対比で、探偵様は優しく微笑まれました。
和やか、ですけど逆に怖く思います。
迷惑をかけた矢先で失礼だと思いますが踏み込んで良いものなのか、悩みます。肩から離れた温もりをなぞりそのモノクル越しの紅を見、真意を探ろうとしますが………不躾ですかね。
いつも何にか企みや試すような嗤いではなく、爽やかな慈悲からくるほほえみであるという認識は間違いではないみたいです。
この短時間で何があったのでしょうか。
「一応汗は拭いて着替えさせたけど、シャワーは浴びなよ。まぁ、リーレのことだから当然するとは思うけどね」
「探偵様とは、違いますから……」
踏み込み、ますか?
さり気なく聞いて、躱されたら躱されたでこの際はいいので。
「言うじゃないか。そこまで言えるってことは体調は回復したようだね。君がシャワーを浴びたら夕食にしようじゃないか」
「あの、探偵様」
「なんだい?」
「私には探偵様が上機嫌に見えます。捜査中や日本で向けた笑顔とはまた違った……清々しい、爽やかな感じでした。私が不肖をしている間に何かありましたか?」
ホテルの部屋、扉の取手に手をかける探偵様を追い、ベットから完全に立ち上がりその背が見える位置へと早足で向かい立ち止まりました。
ベレー帽もどきのルビーをはめたリボンを揺らし、夕食へと向かおうとする体とは別に、顔は鷹揚に私の方へと向きます。
「謎が解けたからだよ」
いつも、そうです。
探偵様の言葉は私の心を揺らし続けます。
探偵様のあの嗤いは、言葉は。
そうして唖然としている間に扉は閉められます。
…………私は今どこのホテルに泊まっているのでしょうか。こうして一人取り残されると不安にもなります。
取り敢えず、カーテンを開けました。
広がるは、街灯と各々の薄窓明かりが混じり、闇夜の月や星に負けない灯を発す荘厳な光景でした。高層なホテルというわけではなく、一般のもので部屋の備え付けから高価な場ではないことは確かです。
階層は五階くらいでしょうか。
このホテル自体が高所に設置されているようなのでこうも綺麗な夜景が見えるのですね。
「……探偵様には迷惑をかけてしまいましたが、挽回までは難しいかもしれませんが貰った恩の半分は返せるくらいには働きましょう。私らしく、やれることを」
カーテンを締めて、洗面室へと向かいました。まずはシャワーを浴びて清潔な状態で探偵様との夕食を望みましょう。動悸はまだ、少し収まらないですけど言い聞かせるしかありません。
机に置かれた蒼のブローチを横目に、胸を抑えるばかりでした。