心の臓物はどちら?
瞼を開き、知らない天井を確認した。
素早く上半身を起こし、部屋の構造や自身の荷物が置いてあることも、そして彼女ーーーリーレ=シャルラタンが向かいのベットに居ることを視認した。
案外僕は寝起きは良い。
状況把握には数秒も至らなかった。
早速、体重を預けていたベットの温もりから離れる。その温もりからある程度の時間は見なくとも大幅は把握できた。
二時間位……だろうね。
カーテンはあの男の親切か、従業員さんの気遣いかで閉られていたが僅かな隙間から日がとっくに暮れていることが分かるし。
まぁ、取り敢えずフロアに電話をしようじゃないか。
男がちゃんと報酬を受け取ったか否かと夕食の注文だ。
報酬は受け取っていなかったら後日自宅輸送をすればいい、と思っていたけど、申し訳ながらも受け取ってくれたとのこと。僕はそのカウンターの人にお礼を言った。
治安がもっと悪いのかと思っていたけど、案外平気だったね。
出会った人間が皆親切であったことが幸運だったんだろう。
このホテルを立ち去る際にはチップを払っておこう。形で返せるせめてもの御礼としてね。
「一仕事終えたって気分だね」
軽く背伸びをすると猫のように喉を鳴らした声が出てしまう。まだ疲労は残っているみたいだ。
また僕が倒れないうちに早急に用を済ませないとだ。
僕は意識を彼女へ向ける。
彼女の動悸はだいぶ落ち着いたようだが、まだ収まってはいないようだった。服の上からでも肺が活発に運動している。
荒い呼吸音と汗を静かにかいている。輸送済みの彼女の荷物からタオルと着替えを物色し、手に入れる。
「まさかこの僕が病人紛いの看病をする、なんてねぇ……」
少々昔に酔い痴れながら、服を脱がして濡れタオルで汗を拭いてやる。前々から華奢であるとは思っていたが、腰辺りの骨が触れるほどまで痩せていた。
元々太りにくい体質なのだろう。
あの腐れ縁が彼女にはたらふく食べさせてやっている、美味しそうに笑顔を見せる彼女に安心していると笑顔で話していたからね。
それでもまだまだ成長途中だね。
「………ああ、しまったしまった。僕としていたことが忘れていたよ」
そういえば少し確認したいことがあったんだった。
この違和感にを実際に証明しなければ。
謎は暴くためにあるのだから、
その為の手段は選ばない。
僕は肌着共に下着を脱がし、肌一枚の状態で幼い凹凸に耳をあてた。
もちろん帽子をとっているとも。でなければ飾りの宝石が当たってしまうからね。それにくすぐったいだろうし。
「…………………うん」
視覚を閉ざすことで聴覚のみに全身全霊で意識を集中させる。こうすれば僕の疑念は解消される。
僕のこの行為にはちゃんと意味はある。
人間誰しもが持つ生命維持装置。
全身に血液を巡らせ必要物質を届け運ぶ心臓の音を聞いているのだ。
一度彼女の心臓の音を聞いた時、違和感を覚えた。
何かがズレていた。
動いている、生きている。
だが、心拍数入っていでありながらも二つの違う音を拾ったのだ。
例えば、四拍子に刻まれる音楽に一拍子の間に少しズレてもう一音が入る。パンパンパンパンパンがパパパパパパパパとなるような、僕でもうまくいえない。八拍子に刻まれているような感じだ。
一定でありながらも極小の差異が生じている。それは生を急かすように感じた。
「まぁ、いいか。謎は解くべき為にあるが、謎を謎にしたまま答えだけ知るというのも罪業ではないのだからね………とはいっても、気になるなぁっーっ!!」
看病、着替えと汗拭きを終わらせたところで僕はシャワーでも浴びるかな。この衝動で体を今すぐにでも動かしたい所だけど、今にも倒れそうだ。
シャワーを浴びたら脳だけを働かせて体だけでも休めよう。彼女が起きたら早速夕食だ。
それまでは我慢だ。
「あぁー、クソっ!気になるなー!!!」
やけになる僕の姿は彼女には見られたくないが、今だけは。彼女に見られていないことを良いことに鬱憤は発散できる範囲でしておこう。
まぁ、彼女の前ではカッコつけではいたいからね。
チビで低能とからかった彼のことを言えないなと自身でも思うばかりだよ。
空いたベットに頭から埋まり、バタバタと足をさせる。
沈黙と静止、冷えた頭がまずすべきと伝えたのはお風呂だ。
そうだシャワーを浴びて頭を冷やしてもう一度初めから考えてみよう。不確かな足取りでお風呂場までゆき、雑に服を脱ぎ散らかした。モノクルだけは台に丁寧に置き、開けた扉をそのままにシャワーを浴びた。
あえての冷水。
うん、気持ちいい。頭も冴えてきた。
「……」
考える。
絶え間ない水の音だけが耳に響く。
「………」
考える。考える。
絶え間ない水の音だけが耳に響く。
僕自身にも地球にも優しくない。
「…………………」
考える。考える。考える。
絶え間ない水の音だけが耳に響く。
僕自身にも地球にも優しくない。
だから止めたりしない。
「………………………………」
思考も、水も。
「………………………………………………………あ」
素っ頓狂な声は水音よりも小さかった。
ただ水よりも軽い、思いつきの声だった。