彼女を導く者の存在とは?
ロンドン。
イギリスとイングランドの首都、シティ・オブ・ロンドンと三十ニのロンドン特別区からなる世界一革新的な都市と呼ばれるほど。
最高水準の最高都市として、芸術や商業、美術や娯楽、教育やファッション、金融や専門サービス等といった広範囲に渡る分野において強い影響力を持っています。
現日本とは真反対の発展し続ける国。
決して、ロンドンだけが発展し続けている訳ではなく、他の都市も同様に躍進の一歩です。
が、ロンドン程ではない。
ロンドン近郊との技術、貧困の差が天地ほどあります。それがこのイギリスの唯一の欠点と考えます。
表裏一体。
光が照らす先には必ず影がある。
スラムは当然存在する。
かくゆう私も両親にその貧困さ故に売買され、奴隷となってしまった身。それを助けてくれたのが主様で私は満足な生活が出来ていました。
ここでこの話をしたのも、私は一生奴隷のままスラムに居たら死も間近だったといえことを伝えたかったのです。
主様曰く助けた直後の私の状態というのは酷いものだったと聞きました。
彼方此方の裂傷や火傷、冷気のせいで床と皮膚が貼り付いて今の私の顔に戻すのには手間がかかっただとか。
知り合いに頼み、数度手術により私の治療は完了したのだと。
死にかけのたった一人の少女の為に莫大な資金を費やして、私には返しきれない恩でした。
私が唯一返せるものは忠義と誠意、感謝でした。
だから給餌係という立場に立つことを許してくださった主様には感謝しかありません。ですが、先の探偵様の言葉が気がかりで仕方ありません。
思えば私は主様に対して疑問を持ったことがあっても、解決しようとはしてませんでした。
その必要性がなかったからでしょうか?
単にどうでもいいことであったからですか?
主様に盲目で浸水していたかったからですか?
答えは簡単です。
探偵様の言うとおり、私は恐れていたのです。
知るという事を。
無知でいることがいかに楽か理解していたからこそ、知ることで主様との心地の良い関係に一ミリでも亀裂を入れたくなかった。それだけだったのです。
リスクに伴う幸福を捕まえなければならない時。
勝負時が今、来ているのです。
それなのに探偵様は、何をしていらっしゃるのでしょう。
「んー、美味しいね。本場のシェパーズパイもいいけどやっぱり僕は君の手作りの方の味が好みだ。紅茶も……んっ、これは何という茶葉だい?!このお茶は僕のドツボだよ。よし、これを今から買いに行こう!茶葉の店はどこにあるのかね、リーレ。今すぐ案内してくれ」
「あの、探偵様」
「ほら、何をしてるのだ。会計は僕が持つから、早く行くよ」
「………」
「どうしたんだい?そんなに不満げな顔をして。もしかして僕とのエンジョイ観光タイムが苦痛で苦痛で仕方がないって様かい?そうかいそうかい、それは良かったね」
「……良くはありません」
ロンドン空港についてから、アクセルのみの車に乗っているように探偵様は観光に勤しんています。いえ、きっと、探偵様のことですから意図はあるんでしょうけど、連れ回されるこちらの身としては体力を削るばかりです。
「それに……不満げな顔で良かったって趣味が悪いですし、会計は探偵様が払うと言っておりましたが私は一口も食事をとっていないので不要ですし、探偵様の質疑に私の有無を云わさずの行動は控えていただけると嬉しいです。既に疲労困憊の私にさらなる疲労を重ねれば私は倒れますよ。それに探偵様今の立場上依頼主と探偵、主従はありえませんが、故郷のことなら必ず答えますので待つことを覚えてください。それと褒めてくださりありがとうございますつ!!」
「おおー、言い切ったね」
「はぁはぁ……了承は?」
「待つことを覚えることかい?それは無理だね」
「何でですか……」
「いいからいいから。ほらー、肩の力を抜きなって。そんなに気張ってちゃあ、見つかるもんも見つからないし、救えるものも救えなくなるよ?」
大人の余裕ってやつかな?と自慢げに鼻歌を歌う探偵様ですが、真反対に私は絶賛絶不調中です。
呼吸がすぐ荒くなる上、心臓音が脳まで届いています。
おかしいです。
私はそこまで体力が無いというわけではありませんし(寧ろ運動神経抜群です)フライトの旅に慣れていませんけど。
日本行きの際は元気でした。
それに……いえ、気を張っていたのでしょう。探偵様の言うとおり、なのかもしれません。
「……ですが、探偵様。私達は何をしているのか、それを教えて下さい。ただ観光タイムをしている訳では無いのでしょう?探偵様のことですから」
「そんなに見つめられてもお金しか出てこないよ?」
「お金?というか、探偵様換金したんですか?一切そのような素振りは、というか行き場はありませんでしたし」
探偵様が空港を出て一番に向かったのは、バッキンガム宮殿でした。
次に世界三大ミュージアムと名高い大英博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館と美術館巡り。途中、露店によっては小腹を満たしロンドン・アイにも寄り本当に名所しか巡らない一貫してました。
「というか、タワーブリッジは見てないですね。王道は行き尽くしたとは思ってましたが」
「一応通りかかっては居たから、チラッとは見たよ」
「近くでご覧なさっては?目前で見ると迫力がありますし、ここからすぐですよ?」
「そういうものなのかねー?」
名所巡り。
私とてこの不安や期待を紛らわすのにも観光タイムというのは一安心なのか、自然と口は本題とは別方向に行ってしまいます。それを情けなくも胸をなでおろしてしまう自分が腹立たしいです。
探偵様は会計を済ませたカフェを去ったと思えば、すぐ歩いた先の喫茶店へと入りました。テラス席に座り紅茶を頼まれます。
「それじゃあ、今日一日はのんびりしようじゃないか。ついでに僕と君でここ周辺の調査をしよう。君の言うとおり、僕だってお気楽に観光しているわけにはいかないし」
「……それは先程巡った名所周辺で次の事件か起きてしまう可能性があると推測されたという認識でいいですか?」
「そうなるね」
そう言ってずっと引きずっていた用済みだと思われたキャリーバッグをとうとう開かれました。側面のポケット、そこから取り出されたのは地図でした。
二箇所赤丸で囲まれ、リーレが調べたよりも警察に聞かねば分からないような詳細な情報が付箋で示されていました。
「これ、僕の情報収集の賜物なんだけど……ほら見てご覧。ここの二箇所はさほど離れていないだろう?重症者が出たのがこの二箇所というだけで、他の青の三角で囲っているのが軽症者って訳なんだけど」
「すごく無作為です。規則性がないですね」
「そうつまりは!僕の第六感でここら周辺に犯人は再び現れると判断した。
だから人が集まりやすい名所の路地裏とかの人気のないところを探す。静寂だったら叫ばれたら一巻の終わりだからね。夜でも賑やかな場所なら人気のない所でやっておーわりってね?」
「ならスラムとかの方が多そうな気もしますけど」
「それも一節あるね。
でもここは僕を一つ信じてみないかい?
僕の第六感は当たるんだ。先程並べた推理というには愚かで稚拙な言葉は実を言うと適当にきみを納得させる為のものだったからね」
信じて欲しい、僕は勘を外したことはないんだと。
そう言いたいので探偵様は。私は依頼してる立場ですし、恩になっていて心から感謝してますし。はい、いいでしょう。
今までここまで導いてくださったのに信頼しないという下賤な行為は絶対にしません。
「わかりました」
「おっ、えらく聞き分けがいいじゃないか。素直になってきたか、このツンデレは」
「………信頼はしてますけど信用はやっぱりしません」
「出たなデレだね」
「どちらかというとツンの方ですけど」
会計を持ったのは探偵様でした。
というか、探偵様は頻繁にロンドンに訪れているようで、換金するまでもなくロンドンの通貨は揃っていたようです。
その後、買い食いしては名所巡りの繰り返しです。到着したのがこちらの時間で、朝の九時でしたのでおそらく七時間ほどその調査をしてました。
イギリスは元々王族貴族が納めていた土地ですから、町並みは歴然としていて、統一感があります。日本とは一風違った、というか本場の西洋ですからね。
どこを切り取っても写真として見栄えしますし、見ていて飽きません。
「赤の電話ボックスかわいいねー、赤のバスも。白主体の建物が多いおかげで見栄えも良い」
ですが問題は疲労の方です。
何ですか、この底なしの体力は……探偵様は自身で運動神経が悪いと言ってましたよね?
何故若者の私が振り回されて息を切らしているんでしょう。探偵様は私の予想ですと、ハイテンション故の疲労低減があるのでしょう。
ハイ、というやつです。
なのでこの後きっとホテルのベッドで倒れ尽きることとなるでしょう。
はい、ざまぁで……いえ、私がおかしいわけじゃありませんよ。
きつく、はないです。
体力にはまぁ自信はありますので。
だけれども本当に今日は、私は何処かおかしいのです。
精神的な面はの克服したつもりです。
ですが、何なんですかこの異様なうるさい胸騒ぎは。
嫌な予感がする?
そんな生ぬるいものではない気がします。
もっと、もっと。深い、運命のような。
「ーーーーっ!!!!!」
何処か、
「ところで他の名所はないのかね?いくらこの僕の知識にも限界はあるんだ。ここは君の故郷なのだろう。いっそ、名所でなくてもいい。君のお気に入りの場所など一つ教えてく、れ……………リーレ?」
自然と私の足は明日へとは真逆に、遠きをいく為の近道へと駆けていました。