僕こそが天下の【探偵】だ。
「イギリスで起きてる連続通り魔事件は知ってるか?」
「勿論だ。僕もその程度なら軽く調べたからね」
現在進行中。
イギリスの首都ロンドンで起きている、言葉の通り殺傷事件だ。
通り魔、というだけあり被害者に共通点はない。
その場の監視カメラは破壊、監視カメラのデータごと破壊している為、二次災害のようにどんどん被害は拡大しているのだ。
他にも被害者体を目撃した警察も殺害はされていないものの、舌を抜かれたり手首を切断されていたり、精神的な拷問として口外させないようにしていたりと犯人は用意周到というか残虐性が丸見えなのだ。
醜悪性とも言える。
殺して無い分、まだ後者が近いのかもしれないがね。
「その通り魔は殺しはしないくせに、被害者を執拗に傷つけては立ち去り証拠隠滅を図るが毎度の流れらしいぜ。後は路地裏とか人通りが少ないところが多い、時間帯に一貫性はないことくらいだぜ」
人気がない所が多いのは典型的な例なのは確か。
だが時間に一貫性が無いとなると犯人は白昼でも夜中でも逃亡できる手段があるわけで、顔バレがしづらい薄暗い路地裏というのも納得だ。
被害者関係者の捜索も、目撃者を誰ひとり見逃さない警戒心の高さも、妙に頭も根も回っている。
情報網だけじゃない。
相手を壊す行為を徹底的なまでに知り得ている。
「その他詳細は丁度この事件と同時期に“L”の企業の奴らが裏で動きがあったらしい」
“L”は世界的大半の経済力を持つ、大規模な企業だ。
若者層に人気のエンタメを届けるインフルエンサーを育てる会社であり、奇抜かつ便利な製品を生み出し続ける大手である。全国網に会社や工場はあるものの、本社はロンドンである。
そのロンドンの本社で動きがあったとなれば、偶然ではなくなにか大きなことを動かしたと予測できるのだ。
「“L”に関しては警察で探るのにも限界があったからな」
「いや、十分だ。ありがとう」
“L”の外部への情報提供は一切なく、漏洩の警備も非常に強力たと聞く。仕方のないことだ。故に動きがあった、というだけの情報は大いに重要なのだ。
ここで、“L”に関連付けて無垢を結びつけるものが一つ。
無垢は“L”と契約し、慈善活動を行っている。
“L”の名義を使うことにより、双方の世間体に良い影響となる。その礎となった人は数百にも及ぶ。
彼女、リーレ=シャルラタンの一人だ。
そうして助けた人々からの御礼金を“L”に。
無垢自身の職でも儲かっているのもあるが。こうして、無垢は慈善活動を続けられているのだ。莫大な資金とそれに釣り合う謝意。
無垢の場合は謝意の方を重要視している傾向にある。
これでは単なる慈善に聞こえるが、僕から言えるのは無垢が救おうとしているのは無垢自身であるということだ。
そこを履き違えてはいけない。
そして僕は、つい最近はその活動から外れた、職に専念していると最後の定期報告で聞いた。
重なる事象を述べるのなら、彼女ーーーリーレを助けてからだ。
無垢は無垢であり、僕や彼と同じ【不変者】だ。
どんな些細なことでも、僕らにとっては変化となる。常人にとっての変化は僕らにとっての大きな変化であるように、だ。朝ごはんを今朝は食べなかった、だとかの小さなことでもだ。
故にリーレ=シャルラタンは鍵なのだ。
そう。関連付けたい話題。
通り魔事件が起こった時期に彼女は無垢と別れている。
必ず繋がっている。
根拠はない。だが確信はある。
それに“L”が動いたのにも重なる。職に専念しているとなれば補助はしていたのだろうか。そこさえわかればきっと……根拠は見つかる。
「おい。この俺が喋ってんのにボケーッとしてんじゃねぇよ、この馬鹿」
「………」
「………この馬鹿。へっぽこクソボケ探偵」
「………」
「ばーか!!!!!!!」
「うるさいなぁっ!この僕が考えてるんだから黙ることくらいしてよ、この低能!」
お互い火花を散らし、威嚇し合う。
傍から見ればくだらないガキの口論。だがこんなくだらない、ガキの真似事で喧嘩に多発することが多いのが僕らの関係だ。しょうもないと思うだろう。
僕も思う。
仕方ないだろう、【不変者】として童心忘れてはいけないからね。
まあ今回ばかりは、TPOを弁えたこの僕が態々引いてやる。
僕はこいつと違って馬鹿じゃない。大人だからね。
「……それでそれで低脳君は他にどんな情報を仕入れてきたのかな?」
彼は顔を顰めるものの、この僕と対応して大人な態度を見様見真似でしてやがってる。
やーい、やっぱり見た目通りまだまだ子供だね。
僕と同い年なのにー。
「まぁ、警察の方で全部の情報は集めたからな。次に俺は現場に向かった。今まで事件が起きた場所、その場所から百メートル以内の区域を全部な」
確か今のところ被害者の数は二次被害を含めて四十四名。
明確な被害者は三人のみ。
残りの被害は警備会社とか身内や目撃者となる。そう考えるとかなり証拠隠滅に手間取っているように思えるね。
「それと被害者の病院にも行ったが、あれはもう駄目だ。人として壊されてたぜ」
「人として壊されていた、か。実際僕は見たわけじゃあないけど酷かった?」
「そこ聞くあたりお前の性格の悪さを感じるぜ、俺は」
「探偵の性分だよ」
彼は僕の返答に呆れを見せつつも、ここで語るには不味いレベルまで詳細にその有様を教えてくれた。僕の脳には当然配慮という言葉があるので、ここでは割愛しよう。
そしてここで種明かし、というか彼の本音が漏れただけだけれど、事の顛末の核心を突く。
「やっぱ壊れかけ、壊れた人間どもを救ってりゃ、人の壊し方なんて知り過ぎてるのかもな」
「あーやっぱり君も分かったのか、犯人」
「まぁな。俺にも他の情報網で伝わってたからな。それを確信に変えるための調査をやってきたんだよ」
他の情報網?
なんだか引っかかる言い回しをした彼を言及することも間もなく、彼は続けた。
「結果的に言うとばったり遭遇しちまったのも確信の一つだぜ。やっぱ俺は最強だからな、返り討ちにしてやったぜ」
こうして背負投げをしてな、とそこらに刺さっていた壊れた傘を投げた。見事に十メートル先の飲みかけのペットボトルを貫いた。当の本人も小さく感嘆の声を上げる。
「呑気にピースしないで。それで、どうだったの?」
「軽かったぜ、もとのヌル=エルより」
ああ、なるほど。より高みへと確信へと変わったよ。
だけど同時に認めたくもないことでもあった。
「あーあ、最悪だ。でも彼女を学園に通わせておいて良かったよ」
「ん?ああ、あいつの給餌係の餓鬼か」
「うん、そうさ。だけど一つ修正。僕の助手になる予定だから、あの子。名前はどうしよっかなー」
「お前こそ呑気じゃねぇーか。それに名前あるんじゃないのか?」
「だってあれは無垢の給餌係として、無垢が名付けたんだよ?僕の助手として、また。だから少しだけ壊してあげないと。名前はその証」
怖い怖いとわざとらしく怯えた動作をする彼は報告終了の証として立ち去ろうとする。僕も背を向けていたから音でしか判断してないけど、空気を読めばそうだと思った。
が、踏みとどまった。
何事だよ。猪突猛進な低脳君は。
おっとなにか投げてきた……ってこれは。
「腐れ縁の手助けだ。お金はいらねぇよ」
そう吐き捨てて振り向けば、もうその小さな背中は見当たらなかった。そんな腐れ縁の彼に僕はいつものように、朗らかに笑ってやった。
「かっこつけて、だっさーい!!!」
もう居ないだろう彼に僕は皮肉を言う。同時に僕も真似をしようと思った。格好つけて、英雄みたいに助けてやる。
さすれば無垢も、この僕に称賛せざる得ないだろうね!
無垢は心からの称賛を滅多にしないからね。土下座をして信仰してしまいたくなるほどの感謝を、称賛を勝ち取ろうではないか。
「あとは天下の探偵様に任せろ、だ!」