暴君チビは僕と無垢の腐れ縁だ。
始まりあれば終わりがある。終わりあれば始まりがある。
この言葉はこの問いに極限まで相俟った主題でもあるとも言える。
無垢のような矛盾に表裏に伴った存在、言葉のとおりに示しているのだ。
分かりやすい例を上げるならば物質の三態だ。
固体が『溶解』すれば液体に。
液体が『蒸発』すれば気体に。
気体が『凝縮』すれば液体に。
液体が『凝固』すれば個体に。
『昇華』すれば固体は気体に。
気体は固体になるように。
前事象に伴う結果、結果より逆算される事象。
それは必然的かつ断定的な、既に決められた紛れもないことであるのだ。
それと同じ。
冒頭一文はそういうことなのだ。
そしてこの事態に当てはめるのなら、後者に近しいだろう。
そもそもこの哲学というべき、常識を。
世間体に当てはまる普通の人間は誰しも知っているはずで、ここで態々話すことでもないのかもしれない。だがあくまでもこの論題というべき哲学を、常識を、話題に上げたことは僕なりに考えはある。
理解していても自覚するのは違う為、一概にも口外すべきことでもあるけれども。
それこそ、礼儀に親しいのかもしれないね。
なのでここで、もう一例を上げておこう。
例えば相手の着ている服に値段のタグがついている。
それに気づかないふりをして相手に恥をかかせるか、さり気なく取ってあげるか。
ここでその人物の人間性が見えるわけだ。
そこに多種多様な感情は見え隠れするわけだし、それが嘲笑や優しさや無心か、必ず当事者の正確に該当するはずだ。
世間体には優しさを選ぶ。
それも当然、だが僕は常識の範疇を常人より超越しなければならない。
超越、というよりも変質だろうか。
変質。
特異とも言えるがそこはどうでもいいのだ。
要は僕らは捻くれ者故に、曲がりに曲がった決断をするということだ。
言い訳に聞こえるかもしれない。
だが僕は、あくまでも確信のつかないことを言いたくなかっただけであって、真実は明瞭明快で実に簡単だとを今の彼女にわからないままでいて欲しかっただけだ。
そもそもこの事態は、始まる前から終わっていたようなものなのだし。
◆
おっと自論ばかり長々の話してしまった。
すまないね、話を戻すよ。
彼女を送り出しての、伝を辿り辿りの情報収集。一週間ほど、とは言ったものの調査は三日程で済んでいたのだ。下手したら一日で終わっていたかもしれないがね。
僕の親愛なる腐れ縁、無垢に続いて二人目。
警官という職に就いていながら、日に日にサボりに暴君を繰り返し。
(事件は解決している。
ただしその場に居合わせた場所や人は必ず流血沙汰)
この時代ならではの連絡手段、よりも便利な僕の第六感でコンタクトがとれたわけだ。
自由人である彼は野生の獣のように、奇想な場所を転々とするのだ。予想はしづらいが僕の百発百中の勘で見事遭遇。そして何故か体慣らしに一日戯れてやったのだ。
とは言っても僕には探偵の掟があるので暴力は禁じられているのだ。
彼の猛攻を回避し続ける体力勝負に近いものだった。
その後気が済んだのか颯爽と去ってしまい、引き止められなかった。
僕の落ち度だがもう一度捜索すること一日。
見つたものの、またもや他愛もないことに丸一日、減らず口で無駄話をペラペラとしてくれた。
これで三日だ。
なんと彼は山奥の廃棄場にいたのだ。
積み重なる廃棄物に紛れたアンテナテレビの上に膝を立てて座り、空を見上げていた。周囲は全て廃棄物の山、彼以外に人気は一切ない。
ただ僕でなければ彼の気配に気づかなかっただろうし、どちらにせよ一般人からすればこの場に人っ子一人いないと勘違いする程度には僕らの気配の消し方のうまさは対等というわけだ。
ここで補足情報。
彼には妙な威圧感覚える人が多いと聞くが、あんなちびに何を感じるのかよく理解できないのが僕でもある。
「あ?報告ってなんのことだ?」
間抜けなことに彼は、僕との約束をすっかり忘れてしまっていたらしい。
出会い頭に殴ってきた。
(もちろん避けたよ?彼は弱々だからね。僕最強)
迷惑に重ね重ね、これ以上の時間を浪費させるつもりだろうか。
「僕との約束、まさか忘れたっていうんじゃないだろうね。この僕との!!」
「思い出してほしいってなら、ヒントを寄越せ。俺との付き合いの長さから分かるだろ?俺の物覚えの悪さ」
「君のモノ続きの悪さなら痛いほど知ってるけど……まあいいよ」
彼との付き合いは長いからね。それも承知の上だ。
それにモノ続きのモノは、物であるし、者でもあることも説明しておこう。
彼の相棒になったやつは一ヶ月は保たない。
彼の方向性や品行性についていけないだったり、単に彼が暴力系の事件を好む為そこでの負傷(犯人に受けた+彼の暴力の二次被害も含む)での引退だったりだ。
「ヒント。五日前、僕と君との腐れ縁の一大事」
「あーもういいもういい。分かった分かった」
「聞いといてその態度はやな感じだ。僕は今すごく不快だ」
あしらう様に目を瞑り、手で払う仕草をする彼は、一瞬だけなにかボソリと呟いた。僕でも聞き取れない、最小の声で。
首を傾げるものの、興味が無い為この際はどうでもいい。
どうせ彼のことだ。ウザイだとか面倒だとか、いつもの文句だ。
「あれだろ?あれ。ヌルの現状調査」
「そう。君に態々資金まで出して、イギリスに飛んでってもらった件だ」
元々無垢ことヌル=エルの行方不明は、彼女に依頼される前から把握していた。
彼女が日本に来る数日前、毎度恒例の定期連絡が来ないことからまたもや僕の第六感が働いたのだ。捜査に乗り出した動機は悪い予感と興味としておこう。
「調査報告なー、あんま期待すんなよ。概ねお前の予想通りだからな」
「報・連・相はいつの世も大事だ」
「へいへい。わかりやしたよー」
気だるそうにする彼。
前回の件がある為、逃亡行為の言い訳や方法が無い分にえらく素直だった。
そうそう。
彼、と先程から呼称しているが後に名前を本編で出すので乞うご期待に。真紅の髪で少年らしい容姿に獣以上の目つきの悪さが有名な、無垢同様に僕の同期である。それくらいに今は留めておくよ。
「イギリスで起きてる連続通り魔事件は知ってるか?」