Hint.? 脳裏賛否家(脳裏賛美歌)
「どうしてーじゃまするの?ねえさま、にいさま」
無邪気に甘えた声。
駄々をこねる子供のように幼い声。
それは欲への誘惑。
あるいは単なる我儘。
後者であることは明確で、だからなのか。
それに誰も答えてはくれない。
ただただ食事の邪魔をしようとしてくる。
何時もそうだった。
何時も暴食は抑制し続けられてきた。
飢えて、飢えて、仕方がなかった。
我儘でなければ、この欲は満たされないというのに。
暴食以外もそうであろうはすなのに、
そんな身振り素振りを見せやしない。
我慢しているのだろうか?
抑止しているのだろうか?
そんなことしてたら永遠の苦痛に苛まれるだけなのに。
その苦痛が大嫌いだから、我儘になっているのに。
とうして大嫌いなものから逃げたらだめなのだろう。
どうして我慢なんてしなければならないのだろう。
飢えを莫大にするだけだ。
そんなのはもっと駄目なのに。
飢えは増え続けて、もっともっと巨大に巨悪に育つ。
そうなったら、暴食を余計に抑止できないのに。
それなのに、何故。
無謀にも無茶にも、
自身の欲を呈してまで抑止させようとするのか。
欲はきっと原体の成長に繋がるはずなのに。
慕うべき原体を救けなければならないのに。
抑止、我慢。
そんな言葉がより一層大嫌いになってくる。
「ぜくすはーかあさまをたすけるの。だからぁ、あきらめて?」
原体は今困っている。
命の危機に立たされている。
救うには暴食以外にだってできる。
でもそれをしないのだ。
だから突出しようとしているのに、何故止めるのだ。
今からする行動は我儘でも何でもない。
原体を救出するためだけなのに。
別に暴食を抑止する必要なんてない。
むしろ暴食が最も戦闘に優れているのに。
「ぜくすはさいきょーなんだから、いくらねぇさまやにぃさまがたばになっても、たおせないよー?」
こんなにも原体を想っているのに、助けに行かせてくれないなんて。
身を焦がすように、
身が悶えるほどに、
こんなにも、懐っているのに。
「いじきたなーい、ずるー!ねぇさまやにぃさまきらいになるよ!ころすよー!」
瞬間、にぃさまと呼ぶそれは容赦なく足蹴をした。
暴食は腹に迫る足にしがみつく。
受けるわけでもなく、
緩和するわけでもなく、
避けるわけでもない。
幼子が宝物のぬいぐるみを抱くように、それよりも強く、強く離さないようにしがみついた。
死。噛み、ついた。
食い千切らんとする勢いで、それの脹脛を。
肉を、骨を噛み砕く。
それには血液は存在せず、
それでも当然の事象に逆らうことはない為、
ドス黒い液体を流し、飛び散らかした。
「にぃさまのあし、おいしぃーね。つぎはなにをくれるのー?」
それは無反応。
ただ摂られた右足を気にするわけではなく、器用にバラスを崩さず片足で立っていた。
そして、それ以外に三つの影があった。
背丈も服も、髪も骨格も、違う割には。
雰囲気や全体の色は類似していて。
矛盾、していた。
それら三つは、体のどこかに黒の液体を流して、
欠けて、獲られて
歯型がついていて、
喰われていた。
犯行人は目前、口周りを黒で汚した。
愉悦に満ちた無邪鬼な笑顔を見せる暴食の権化。
「なぁに?ずるっこ、さんね、にぃさまねぇさま。いもぅともなかまにいれてー、ずるっこさん。ぜくすもいーれーて?」
それとそれらは暴食の権化を睨む。
口合わせをし、妙に目配せをし、あからさまに誘っている。
ずる、と言うにはそうかもしれない。
暴食の権化対それとそれらの一方的な暴力であった。
最も圧倒していたのは暴食の権化であったが。
それとそれらもそれに相対するダメージを入れていた。
それでも相手は暴食の権化で、死滅には難しかった。
だからまだまだ長引くだろう。
でも安心だ。
此処に時間や死の概念は無い。
死と言っても、いずれは再生する。
そういうものなのだ。
そう云う処なのだ。
真っ白な空間にドス黒い液体が散らかる。
まだまだ、続く。