今日も今日とて彼女は振り回し回される。
やることは授業に昼食、部活と典型的なものです。
一日目の初々しく波乱万丈で濃密なものと比較すれば楽なものでした。しつこく絡まれるというよりは、隣をキープし続ける執念を抑水様からは感じられましたね。移動や席も一緒に居られました。
もともとあの自己紹介でしたし、人が寄らなれないわけなので気は楽でした。
大勢の人に囲まれると少し昔のことを思い出してしまいますから。主様のことも連動して。その都度、靄が一瞬で生まれ、消えていきます。そうして私は、リーレ=シャルラタン《私》になったのです。
「そういえば、本日は木蓮様はいらっしゃられないのですか?」
不意に自分の席で頬杖をついていると思い至りました。教室に入り、席に座ってからは抑水様の話を適当に受け答えしつつ、時間を気にしていました。
ですが登校時間になっても後ろの席の木蓮様は見かけになりませんでしたので、言葉に溢してみました。
「喰那はサボり魔だからねー、基本的に朝は教室にいないんだよリーレちゃん」
「登校してるだけ偉いんじゃないんですか?」
「全然!登校に関しては五分五分だからね。来てたときは屋上で寝てるかもだけど、昼から来るケースのほうが集計的には多いんだよ?」
その後牡丹学園に入学してからの日数分、そして中学の時の具体的な数まで出していました。本当に集計的に見て分析は正しいんですけど……恐ろしいです。
「え?本当に数えてるんですか?」
「うん、そうだけど……?何なら本学園全生徒の出席日数成績全部言えるよ?」
「………」
「……え、なんかおかしかった?」
おかしいですよ。でも納得……しますけどし難いです。
仮にも一介の生徒会長ですから、そのくらい当然!と言いたいところですが高難易度です。それに記憶力がいいという次元を超えてる気もします。
人よりずれている、だから他が突出している。
そうゆうことなんでしょうか。
盲目の人が聴覚や嗅覚に優れているように、運動能力に優れた人が馬鹿なように、凡人変人には全てをこよなく平等に振り当てることは難しいものですから。
凡人は平均的なケースが多いですけど、不得意があったりと、突出した部分や得意や趣味がそれらの個性に当たるんですって(探偵様のお話で聞きました)。
そう思えば私はそのどちらにも当てはまらないです。凡人といえばやれば大抵のことはできますけど、突出した部分といえば主様への思いです。
ですがそれを個性と呼ぶにはおかしく、趣味と呼ぶには失礼です。
更に変人に当てはめれば、一人に固執し執着し離れた今も尚、信仰し続けています。人より感覚が少々ずれていたり、主様以外はどうでもいい、と思っています。
はい。事実です。
それでも常識は持っているつもりですし……これじゃあ、只の言い訳になってしまってますね。
「いえ、尊敬の畏怖すら覚えます。伊達にも生徒会長なんですね。今まではただの変態だと思っていました」
「えへへー、リーレちゃんが褒めてくれた!」
見事に切り抜きされた毒の行き場はなくなりました。
「……あ、手振られております。抑水様にかと思われます」
窓際が私の席ですから、嫌でも見えてしまいます。
いえ、嫌ではありませんが。
今、抑水様は私の前の席で私と夢中で話していましたので気づかなかったみたいです。恐らく先輩方でしょうか。親しげに笑顔で手を大きく振っています。
それに応じるように立ち上がり、同じような動作をします。その際に机で手をぶつけていましたが、表情は一切曇りませんでした。
「先輩方ですけど、いいんですか?」
「フランクでいいって言われちゃったから。それに私も、ほらっ。こんな性格だから」
それでもきちんと先輩の姿が見えなくなるまで果を振り最後にはお辞儀をしていました。常識はあります。抑水様は高校生なんですから。
「さて、リーレちやん次は体育だよ。私先に着替えてくるねー!今日も外だからグラウンドで待ってるから!!」
と、昨日の件から気を遣ってもくれています。
私に対しても先輩にも同級生にも変わらぬ態度を取れる。それ生徒会長になることができたカリスマ性、人を引き付ける力に直結するのでしょう。
ですが何故抑水様は生徒会長になったのでしょう。
トイレで着替えている間に不意に疑問に思いました。別に個人の意志ならいいんですが、周囲に囃し立てられてノリでいったとかはないですよね?
抑水様のことなら可能性が一文にないとは言えません。
「はて、リーレちゃんが私を見つめている?いつもは全然スルーなのに……はっ!もしや私の魅力に気づき始めた?!」
「絶対ありません」
「あ、やっぱり?まぁであってまだ二日目だもんねー、きっともっと先だよね」
おそらく一生理解できないかと、そう言おうと思いましたが胸のうちに留めておきました。明日も見えない私が未来を語ろう、ましては予測しようだなんて無理難題が過ぎますから。
「あーあー、肥満だなー」
「肥満?」
「失敬失敬、暇の間違いだった」
どう間違えるんですか、暇と肥満を。
というか肥満ってほど太ってないですよ、抑水様は。
体育の二人組の体操。お互いに背を向け、交互に背中と体重を預け、伸ばす運動の最中に抑水様はそんなことを言いました。伸ばしている途中なので喉からくる少しだけ変な声でした。
「あ、暇言ってもリーレちゃんが隣にいる限りは暇じゃないよ!」
「なんのフォローですか……というかフォローされる程落ち込んでませんよ。いえ、落ち込んでもないですけど」
ならなんで暇とか言ったんですか。先程からこんな調子の中身のない会話ばかりです。対談で利を考えるなんて浅はかだとは思いますが、折角なので学園のことなど聞いてみましょうか。
というか思いつきました。
昨日の多忙の日のせいで順序を飛ばしてしまっていましたが、日本の書物で読むにはやるべき転入イベントを飛ばしていたようなので、丁度いい機会です。
「抑水様、今日の放課後時間を取ってくださいませんか?」
「デートのお誘い!?」
「違います」
情緒が激しい人です。
私が伸ばされる番となっています。伸ばし終えるという段階で切り出したというのに、更に背中を伸ばされてしまいます。体が柔軟な方ではないので少しばかり痛みが走りますが、我慢をしておろしていただきます。
「可能であれば牡丹学園を案内していただけると嬉しいと思いまして」
しばらく考え込むような動作をして、通常運転の笑顔を向けました。
「うん!多分大丈夫、任せといて!!!」
半信半疑に、いざ学園案内へ続きます。
ですがその前に、抑水様のお尻を蹴っておきました。