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問一、何故彼女は解物を信仰するのか?  作者: らいら
Hint.2 ひとりじゃない
12/41

彼女は世界を知らない。

 

 一つ余談といたしまして。


 私はこんな反応をしていましたがゴキブリに嫌悪心を抱いているわけではありません。

 むしろ尊敬心や同情すらしています。昔の私のように意地汚く、いくら罵られようと闇の中でしか生きられなかったーーー嫌悪だけの生き方。


 それに共通しますから。


 相違点を述べるなら生命力ですね。

 私にはゴキブリのような生命力はありません。


 あのころこ闇の中の私は瀕死でした。生きたいとすら思えない、生きる気概もない。ゴキブリのほうがまだ必死に生きながらえようとしてましたから、尊敬。



 まあともかく、事の顛末をつけるのなら。



 この一つ目の質問を聞かなければ、二つ目の情報収集の結果が聞けたのにと後悔しています。この後、結局私が唖然としている一瞬で意識を夢の中へと委ねてしまったんです。

 説明、というか回想ですけど情報収集の成果が聞けなかったのはそういうことです。


 私の一つ目のくだらない質問が不要でした。

 反省です。


 と、諸々内心独りをしていますと事務所につきました。まだ見慣れぬ扉に手を掛けます。周囲を見渡し、違和感を覚えます。人の気配がしません。

 もしかしてと思い探偵様の寝ていたソファの背もたれを見かけ、覗き込みました。


「あれ?蛻の、殻です」


 就寝なさった痕跡であるシワが残っていますし、触ってみれ仄かにば温もりがあります。先に出掛けられてしまったのでしょう。

 別に探偵様の行動を制限するわけではありませんけど、情報云々での後悔が強まるばかりです。


 それに、主人より遅く起きる従者は居てはいけませんし。


 探偵様より早く起床し、朝食を取っていただくという義務があります。私をここに受け入れてくださった上に我儘を聞いてくださった(主様の捜索の件です)探偵様へのせめてもの恩返しでしたのに……。 


 仕方がありません。


 私は学園に行くまでの時間を事務所の掃除と喫茶店のお手伝いをして埋めました。そこで耳を挟むには喫茶店で探偵様は朝食を取られたようなので少し安心しました。それと伝言を承りました。



ーーー二日程帰れなくなるかもしれないらしいです。



 おそらく、情報収集であると予測できます。ならば二日後、探偵様が帰宅した際には素敵なご馳走を作ることにしましょう。依頼解決に一歩近づいたことを祝すと言う名目です。


 探偵様の好みは把握していませんが、私の故郷ロンドンもといイギリスの伝統料理シェパーズパイを振る舞ってみましょうか。他にもワイン等は嗜まれるのなら有名な白のスティルワインを準備しましょう。 


 入手手段は内密にですけどね。


 ……そういえば主様はワインなどは口にしませんでしたね。

 酒浸りの意地汚い大人が私を虐げていたので、それを気にしてかと思っていましたけど。


 主様は。

 それを口にした際にはまたいつもの笑みを返すだけでした。



『お酒やワインですか。一般的な理由ですよ。あたしが苦手なだけです。何より知っていると思いますが、シャル。お酒やワインは人間を駄目にするんです。

 それ以前に体に毒ですから。

 己の欲望や渇望を全て飲み込むのではなく吐き出す為にその行為をするんです。あたしがその行為をして落ちぶれる姿はみたいですか、シャル』



 子供にやってはいけないよと優しく諭すようにし、主様は私に唱えられました。その言葉に納得したのは当然です。それに勿論その問いには首を縦に振りました。



『でしょう?』



 主様は微笑みました。


 そう答えると承知していたと言わんばかりに。私はそれを愛しく思ったことを深く覚えています。

 そして私を安心させる為か、それとも自責か。

 意味深に言っていました。



『あたしの場合は溢れてしまって暴走してしまいますから自粛しています。絶対厳守の掟として、ですから。』



 あの言葉はお酒やワインに物凄く弱いとう自白だったんでしょうか?

 それとも………。


「リーレちゃん!!!!!!おーはよっ!!」


 だとしたら下心として、酔いつぶれた主様の愛らしい姿も見てみたい気がします。


「あれっ?聞こえてない感じですかー?おーいです?こっち向いてです!」


 私が理想とする主様の姿としては相応しくないですが、一度信じてしまえば、たとえ嘘も現実も境がなくなってしまうものです。

 それに一度愛してしまえば、全て愛おしく感じるのは公然の事実です。


 そうです。ロンドンの酒屋さんの店主さんにオススメされたワインでも準備してみましょうか。


「あっちなみに今のはリーレちゃんの真似っ子さん!どう似てた?」


 ですが私は今主様とは離れ離れ、年は十六です。日本では四年後、向こうでしたらもう飲める年です。戸籍はまだイギリスの方ですが、現在は日本在住です。法律を破るなんてことはありません。


「……リーレちゃん!!!!」


「あ、おはよう御座います抑水様」


 はて、いつから隣を歩いていたんでしょうか?

 というのは冗談で。


 はい。気づいてましたとも。

 むしろあんな大声で周囲をちょこまかと騒いでいれば嫌でも意識してしまいます。無理やり介入してくると言いますか、なんとも厄介です。

 大抵の人が折れるところでなかなか折れない抑水様です。


「ーーっ!おはようっ!」


 むしろ私が挨拶して名前を呼んでくれたことに感激し、目を輝かせています。本当に嬉しそうに笑っていらっしゃられます。何だか胸が苦しい気がしますね。こうも単純で純粋な笑顔は眩しすぎます。


 けれども気分を害するものではない、寧ろ心温まるもののはずでしょうから。

 そんな笑顔から始まる一日も悪くない、と思いました。 



 主様の微笑から始まる一日のほうが断然いいですけどね。


 

 少しだけ、思っただけです。


 思ってしまった、だけです。





 大丈夫です。私にとっての一番は、世界は。主様だけです。





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