終わりは突然に
「うおおおおおお!!」
漕げ!
足を回せ!
風になるのだ!
そう、俺は疾風の如くーー
くっそ、信号だ。
ポケットからスマホを取り出し、時刻を確認する。
7:18
電車が出発する7:20まであと2分。
かなりギリギリだな。
よし、信号が青になった!
いっけぇー!!
歩道前方にゆっくり歩く禿げたサラリーマンがいるので、車道側に出て避ける手間を省く。
そしてサラリーマンを追い抜いた!
よし、後はもう一度歩道に戻ってーーーー
ギャリ、ギャリリリリリリリリ!
「お、と、ちょーー」
ドシャ。
グチャ。
ーーーーー
お。
あ、優太だ。
おーい、親友よ!俺はここだ!
違う、それじゃない!
おい、傘落としたぞ。びしゃびしゃじゃねーか。良い男が台無しだ。
あー、何崩れ落ちてんだよ。さらに泥まみれになるつもりか?
ほら、とっととーー?これ、何だ?
顔を覆って泣き崩れる優太の前には、俺があった。
正確には、俺だったものがあった。
ーーーーー
何が起きたか整理しよう。
俺は登校しようとして、雨の中で自転車に乗り、サラリーマンを避けて、、
あー、そっか。
自転車のタイヤと歩道の段差が擦れて進行方向がズレて、トラックに轢かれたんだ。
死ぬ時はめっちゃ痛いって思ってたけど、思ったより一瞬なのか。
そっかぁ。
俺、死んだんだ。
「気をつけて」って、言われてたのにな。
「お気持ちの整理はつきましたか?」
「どわぁ!?」
「ごめんなさい、そんなに驚かせる意図はなかったんです」
そう言って、コロコロと笑う女性。
「いつからそこに?」
「ずっと居ましたよ?でも、全く気づいていないようでしたので、少し意地悪してしまいました」
そう言ってまた笑う女性。
可愛い。
年齢は見た感じ20代前半くらいか?
どちらかというと少しふくよかな体型で、身長は低め。
若そうな見た目なのになぜか、優しく包み込んでくれそうな母性を感じる。
「あなたは誰ですか?」
「死者の案内役を勤めております、アミューと申します」
死者の案内役、か。
死んだ自覚はあったが、やっぱ実際に言われると凹むな。
理由もちょっとダサいし。
「なるほど、それでアミューさんは俺をどこに案内してくれるんで?」
「順応が早いんですのね、もっと慌てふためくかと思ったましたのに」
「内心パニックでしたが、親友が泣いてくれてるの見て、なんか、思っちゃったんすよ。俺の人生悪くなかったかも、って。」
「...」
「つっても、まだまだやりたいこともたくさんありましたし、全然未練がないわけじゃないっすけど...悔いはなかったっす。」
「そう、ですか。そう言って頂けると私も...いえ、何でもありません」
「そう言われると気にな「田中月さん。」
おっと、ダル絡みキャンセルか。
意外と対人慣れしてやがるな。
まぁ死者の案内役なら今までたくさんの死者と触れ合ってきただろうし、当たり前か。
「あなたには、2つの選択肢があります。1つは、今世を捨て、再び輪廻の流れに戻るというもの。月さんの徳ですと、虫からでしょうか」
「それって良い方なんですか?」
「中には無に還される方もいらっしゃいます」
ひええ、それは怖い。
「そして、もう1つの選択肢。記憶を保持し、肉体を再構築し、こことは別の世界へと転生するというものです」