01 剣士・多々良
ああ、愛していた。
こいつとなら一生を共にしてもよいとも思ったよ。彼女も俺のことを心から愛してくれたしな。
「なぜ、夫婦にならなかったのじゃ?」
お前にそんなことを聞かれるとはな。
まあいい。
簡単なことだ。旅をやめられなかっただけだ。
旅をやめ、地に根を下ろし暮らそうと思うたびに――十年前に見た、あの光景を思い出すんだ。
宵闇に沈む戦場で、美しく優しく舞う一人の巫女。
巫女の舞に慰められ、光となって空へ昇っていった死者の魂。
この世で最も美しいと思った光景。それを思い出すと、旅に出ねばと急き立てられる。俺の魂は、あの光景を生み出した巫女に縛られてしまったのだろう。
その巫女は、まだ乙女と言っていい年頃だった。
大ケガをして倒れている俺に気づき、手当てをしてくれた命の恩人。戦の原因は自分だと涙を流し、一人で戦場の向こうへと去ってしまった。
あの巫女に、もう一度会わねばらならない。
あの夜、君が助けた命は無事生き永らえたと伝え、安心させるために。
そして。
命を救ってくれた恩を、必ず返しに行く。
その誓いを果たすために。
「その巫女、もうこの世を去ったとは思わなんだのか?」
思わなかった。
必ず生きていると信じていた。
だから俺は、旅をやめられなかった。
愛してくれた女と別れ、立ち止まることなく旅を続け――気づけば、十年もの月日が流れていたよ。