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単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?  作者: 甘寧


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第16話

一世一代の告白で私は頭から湯気が出そうなほど全身が熱い。


ヴェルナーは黙って聞いていてくれたが反応がない。

顔を見たくても今見れる状態じゃなく、私は内心焦りが募った。


──やばいやばいやばい!!ヴェルナーの気持ちも考えずに勢いだけで告白しちゃったよ!!


後悔あとに立たず。まったくその通り。

そもそもヴェルナーが私の事を好きだと言う確信はない。

色んな憶測が頭の中を駆け巡っていてる中、ヴェルナーが動いた。


「アリア、こっち向いて?」

「いや、それは無理」

「なんで?」

「無理なものは無理!!」


何で向けないか分かってる癖に本当性格が悪い。


頑なに顔を背ける私に痺れを切らしたヴェルナーが「しょんないなぁ」と身体を反転させた。

そうすると先程とは体勢が逆になり、ヴェルナーが私に覆い被さる形になった。


「いい眺めやねぇ」

「こ、こんなの、ひ、卑怯よ!!」


目の前にはヴェルナーがいい笑顔で私を見下ろしていた。

そして「ふっ」と微笑むとヴェルナーの顔が近づいてきて、唇に柔らかい感触が……


──あっ……


リュディガーの時とは全然違う。

嫌な気もしないし怖くもない。むしろ心が暖かくなるような感覚だった。


触れていたのは数秒だったが、その数秒がもっと続けばと願ってしまうほどに。


「……なんや?まだ物欲しそうやな?」

「なっ!?そ、そんな訳!!ば、馬鹿じゃないの!?」


心の声が聞こえたのかと思ってしまって慌てて取り繕った。


「……(ここ)リュディガー(あいつ)に取られてもうたが、()()初めては全部僕が貰うで?」


私の唇を優しくなぞりながら艶っぽく言うもんだから、何も言い返すことが出来ず口をパクパクするだけだった。


「アリア、愛しとる」


ゾクッとしてしまうほど優しく熱を帯びた目で言われた。

私はこの人から逃げることは出来ない。そう感じた。



❊❊❊❊❊



改めてちゃんとした婚約者となり、恋人と言う関係になった私とヴェルナーだが、私にはどうしても聞かなきゃいけないことがあった。


それは、例の媚薬の件。


あの令嬢とはどうなったのだろうか。もしかして、この期に及んであの令嬢がしゃしゃり出てくる可能性があるんでは無いかと気が気ではなかった。


まあ、そんな気持ちも杞憂に終わったんだけどね。


「あぁ、あの令嬢か?なんや?見てたんか?……へぇ~、僕の後尾くぐらい心配やった?」


──ヤバい、聞いたのが間違いだったかも。


ニヤニヤしながら私に迫ってきた。

確かに心配には心配した。けど……この顔は腹立つ!!


照れ隠しと腹立たしさで思わず手が出てしまったが「おっと」と交わして、その手を掴まれた。


「相変わらずじゃじゃ馬やなぁ?まあ、そないとこも可愛いんやけど」

「──ばっ!!」


掴まれた手の甲にキスをしながら言ってくるんだからタチが悪い。


「あの令嬢とはなんも無い。部屋に入る前から媚薬のこんは僕の耳に入っとったからな。騙されたフリしとっただけや」


どうやらあの夜会の時点でリュディガーが犯人なのは分かっていたらしいが証拠が薄く、あの場で捕縛してもリュディガーが大人しく罪を吐くはずないと踏んだらしい。


「その考えが甘かった……」


ヴェルナーは思い詰めたように言ってきた。


「あの時アイツを捕まえとったらアリアに危害が加えられるこんはなかった……僕のミスや」

「ヴェルナー……」


目の前には普段からは到底想像つかないほど弱々しいヴェルナーがいた。


──こういう時なんて声をかけたらいいの?


明るく「そんな事ないよ」なんて言ってみる?

それとも「なんで捕まえなかったの」と責めてみる?


そんな事、どっちも言えない。


確かに私は傷付いたけど、ヴェルナーだってそれは同じだ。

それなら目の前の人をどう救う?

そんなの一択しかない。


私はヴェルナーを優しく抱きしめた。


「もういいよ。もう大丈夫。私にはヴェルナーがいるから」


優しく言うと一瞬ヴェルナーの肩がビクッと震えた気がしたが、すぐに力強く抱きしめ返された。


「そうやね。これはずっと一緒やね。二度と離さんから覚悟しいや?」


いつもの笑顔で言われれば、自然と顔が綻んだ。


「じゃあ、二度と離れないように精々頑張ってもらうかしらね?」

「姫の仰せのままに」


騎士らしく忠誠を誓うように胸に手を当て頭を下げた。

その姿が不覚にもかっこいいと思ってしまう自分が憎い。


ヴェルナーの事を好きだと認識してしまったら、ヴェルナーの仕草一つ一つが気になって仕方がない。


──まあ、こんなこと口が裂けても言えないけど。


今ならヴェルナーを囲んでいた令嬢達の気持ちが分かる気がする。

もし、ヴェルナーに私以外の女がいたら……嫉妬もしたくなるよね……


リュディガーは許し難いが、気持ちを気付かせてくれた面では感謝している。


──あの一件がなければ、私はまだ婚約破棄を望んでいたと思う。


そう思いながらヴェルナーを見ると、優しく微笑み返してくれた。

その笑顔につい、顔が熱くなる。


「なんや?そないに僕の顔見て。……あっ、もしかしてまたキスしたくなったん?」

「ばっ!!違っ!!」


悪戯っぽく微笑んでくるもんだから、慌てて否定した。


「僕はいつでもいいんやで?なんなら、その先も……な?」


ペロッと艶っぽく舌なめずりをしながら言ってくるもんだからこっちは心臓が止まりそうになるが、ここで弱い所を見せるのはまずい。


「こ、こんっっっのクソエロ糸目がぁぁぁぁ!!!!」

「それが助けてもろうた人に対する態度ですかぁ?」


顔を真っ赤にして文句を言う私に、いつものように軽くあしらうヴェルナー。


こんな言い争っているのがとても心地よいなんて言ったらおかしい?

人の恋愛事情なんて他人が決めることじゃないもの。

私達の恋愛は今から、こうして始まっていくのよ。


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