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単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?  作者: 甘寧


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第1話

「こんっっっのクソエロ糸目がぁぁぁぁ!!!!」

「それが助けてもろうた人に対する態度ですかぁ?」


いつものように言い争う()()を使用人達は「またか……」と呆れたような目で眺めていた。



❊❊❊❊❊



私アリア・レーベルはレーベル男爵家の一人娘として生まれ、大切に育てられてきた。

そんな私の目の前にいる糸目のいけ好かない男は二つ年上で()()婚約者のヴェルナー・アウセム。こう見えて侯爵家の嫡男だと言うんだから信じられない。


ヴェルナーの両親とウチの両親が級友で、お互いの子供が異性だからと生まれてすぐに婚約者になった。

初めての顔合わせは私がまだハイハイしたての頃だったらしく、その頃はまだ仲良く遊んでいて微笑ましかったとお母様が言っていた。

私が物心がついた頃には既にいけ好かない奴に育っていたがね。

顔を見れば嫌味を言われるから嫌味で返す。そうこうしているうちに言い争いに発展すると言うのがお決まりだった。


更にタチの悪い事にこの男……結構モテる。

元々アウセム家は騎士家系で、ヴェルナーのお父様も現役で団長を務めるほどの腕前で、ヴェルナーもスラッとしているのに筋肉はしっかり付いている。剣の腕前も言うことなし。まあ、糸目だけど。

そして、見た目も()()()()()()そこそこいい男。まあ、糸目だけど。

銀髪の髪を靡かせながら剣を振るう姿に何人もの令嬢が黄色い声援を送っているのを何度も見た。まあ、糸目だけど。

この男は基本笑顔で令嬢達を相手にするので、勘違いする令嬢が多数いるのだ。まあ、糸目だけどね!!


そんなヴェルナーだから婚約者である私が令嬢達の恨み妬みの根源になることは必然である。


現に今日も月に何度かの顔合わせと称したお茶会だったのだが、何処で聞きつけたのかヴェルナーの取り巻き達までやって来た。


「申し訳ありません、アリア様。まさか本日がヴェルナー様とお会いする日だとは露知らず……」

「本当ですわね。まさかヴェルナー様がおられるなんて……」


白々しく口ばかりの謝罪を言ってはいるが、ちゃっかりヴェルナーの腕を組んでいるんだから矛盾してるのに気づけよ。


「いいえ。人数は多い方が楽しいですし、是非ご一緒にいかがですか?」


引き攣る顔を抑えながら令嬢達にお茶をすすめると「待ってました」とばかりに席に着いた。当然、ヴェルナーの隣に。


「ヴェルナー様、わたくし演劇のチケットを頂いたの。今度ご一緒にいかがですか?」

「へぇ~、それは面白そうやね」

「ちょっと!!抜けがけしないでよ!!ヴェルナー様~?わたくしの父は商人でして、各国の珍しい物品を扱っておりますの。ヴェルナー様が欲しいものがあれば何なりと仰ってください」

「それは嬉しいなぁ」


お互いヴェルナーの腕にそのたわわな胸を押し当てて全力でアピールしている。

ヴェルナーも嫌がる素振りを見せず、笑顔で対応している。


──私は何を見せられているんだ?


()()()ウチの屋敷の庭で、()()婚約者という肩書きがあるんだが、目の前の奴らは私の事なんて全くの無視。空気とでも思っているのか、元よりいないものだと思われているのか……


どちらにせよ、私がここにいる理由にはならない。


「……ちょっと席を外します」

「あら、そうなの?ヴェルナー様のお相手はわたくし達に任せてく()()()()用事を済ませてきてくださいませ」


私が席を立つなり、クスクスと挑発するかのように言ってくる令嬢を無視して屋敷へと戻り、自室のドアを開けた。


「はぁぁぁ~~~………」


ドサッとベッドに寝転がり、大きな溜息を吐いた。


「……婚約……やめたいな……」


誰も聞いていないことをいい事にポソッと本音が零れた。


これでも初めのうちは婚約者だからと仲良くしようと努力はした。

だけど、その努力は毎度ヴェルナーに踏みにじられた。

私が面白い本があると言えば「子供騙しの小説がおもろいの?」と言うし、一緒に遊ぼうと言えば「僕は今忙しいねん。一人で遊んどき」と相手にもされない。

その内ヴェルナーに人気が出始め、私は令嬢達の目の敵にされる始末。


──何で親同士が決めた事なのに私が敵視されなきゃいけないの?


別に私はヴェルナーの事をどうとも思っていない。むしろこんな厄介な婚約者なんて要らない。

出来ることなら婚約を破棄して、当たり障りのない平凡な子息と結婚したい。


コンコン


「お嬢様……皆様お帰りになられるそうですが……」

「……そう。もうそんな時間なのね。今行くわ」


侍女が私の部屋のドアを開き、恐る恐る伝えて来た。

仕方なく重い体を起こし、エントランスに出ると相変わらず両腕に令嬢がくっついていた。


「アリア何で戻ってこんかった?」

「……別にあんたには関係ない」


私の姿を見たヴェルナーは不機嫌そうに言ってきたから自分のせいだとは思っていないようだ。


「ヴェルナー様、アリア様は具合が宜しくないようですわ」

「そうですわよ。さあ、わたくし達と参りましょう?」


両腕の令嬢はこれ見よがしに勝ち誇った顔をしながらヴェルナーを連れて屋敷を出て行こうとしていた。


……が、ヴェルナーがその腕を解いた。


「ごめんなぁ、婚約者様の機嫌が悪いみたいやから今日はここまでな?」


婚約者という言葉を出した瞬間、令嬢達の顔色が明らかに変わった。


「で、でも、アリア様は具合が悪い様ですし……」

「そうですわ、あまり無理をさせては……」


しぶとくまた腕を絡ませようとしたら、今度は手を振り払われていた。


「君らはアリアの何を知ってるん?僕はアリアが赤ん坊の頃から一緒やから何を考えているのか手に取るように分かるんよ?」


顔は笑っているが、ゾクッと背筋が凍りそうな笑顔だった。

流石の令嬢達も分が悪いと思ったのか、一目散に屋敷を後にした。

その際にしっかり私を睨むことを忘れずに……


「──さてと、僕の婚約者様は何でそんなにご機嫌ななめななんやろね?」

「……別に、機嫌なんて悪くないし。それより彼女達を追いかけなくていいの?」

「嘘つくんが下手やねぇ。それに彼女らは婚約者ちゃうし」


ヴェルナーはそう言いながら私に近寄ってきた。

婚約者婚約者って、私だって好きであんたの婚約者になったわけじゃないっての。


「……婚約者なんてやめたいわよ」


思わず口にしてまい「はっ!!」と口を噤んだ。

誰も聞いていないと思っていたが、ヴェルナーの顔を見た瞬間うなじがゾッと粟立った。

いつも笑顔のヴェルナーの表情が一変して、無表情で私を見下ろしていたのだ。


「アリア。今の言葉は聞き捨てならんなぁ」



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