飛鳥、踊る。
「ついに、この学校の制服が着れる!」
飛鳥は飛び上がって、はしゃいでいる。
両手に新品の制服を抱えて。
「ちょっと。あんまり引っ張ると制服が痛むぞ」
「あ、そうだ。もう一度ちゃんとアイロンかけよ」
「お前、わざわざそれ着るために、ウチの高校受けたの?」
「そうよー、ずっと決めてたんだから」
「似合うでしょー」
飛鳥は、自分の体に制服をあてて鏡の前でくるくる回っている。
俺の家のリビングだが、おふくろが飛鳥を娘として扱っているため
こんな振る舞いも問題はない。
「へへ、新1年生か」
「俺は、2年でセンパイなんだぞ。忘れんなよ」
「はいはい、いろいろ教えてね。センパイ」
飛鳥が小さく笑うと、俺はドキッと体がしびれた。
やがて飛鳥がおふくろの部屋に消えると、俺は体の緊張が解けるのがわかった。
ー俺はふっと思った。
いつの間に、あんな大人っぽい表情をするようになったのか。
ついこの前まで、まだ子供だと思っていたのに。
知っている。
飛鳥は、小さい頃に母親をなくし、飛鳥の父がよく家を空け他の女性と遊びほうけては、いつも金がないと怒鳴っていたのを。
それを見ている内に隣の家の俺は、自然に兄として飛鳥と接するようになった。
そう、それだけのはずだ。
でも、飛鳥は寂しいとか泣き出したりせず、いつもまわりへの笑顔を
絶やさず、同級生からもまわりの大人からも慕われていた。
中学に入るときも、近所の卒業生の子が着ていた制服をおふくろが手直しして
飛鳥にプレゼントしていた。