ワンチャンない悪役令嬢がねこちゃんになったら
「ステファニー。君との婚約を解消しようと思っているんだが」
ある日、ステファニーは屋敷に遊びに来た婚約者から婚約の破棄を言い渡された。
「あら、何のご冗談ですか?」
ステファニーはきょとんとした。自分と彼は深く愛し合っているので、ただの戯れにすぎないだろうと思ったのだ。だが、青年は深刻そうに返す。
「僕は本気だ」
青年は眉間に皺を寄せていた。
「実は前から言おうと思っていた。君はワガママだし、空気も読めないし、人の話も聞いていないし、思い込みも激しいし、その上容姿もあまり……」
「い、いやあああぁぁっ!」
滑らかな口調で欠点をツラツラと挙げられ、ステファニーは部屋中に絶叫を轟かせる。
「他に好きな女性がいらっしゃるのですね!? ですから、そんなことを言うのでしょう!?」
青年が言った通り、ステファニーは思い込みが激しかった。婚約者の言葉の裏の裏まで勝手に読んで、すでに好き勝手な妄想をしてしまっている。婚約者は弱り切った顔になった。
「いや、そういう女性はいないが……」
「まあ、お相手は男性ですか!」
ステファニーの想像はさらに飛躍した。
「わたくしよりもその男性がいいのですね……! そんなのあんまりですわ!」
ステファニーは泣きながら部屋を出て行った。
少し離れ気味の目から流れ落ちる大量の涙が、彼女の団子鼻や真ん丸の顔にテラテラと光る跡をつける。まるで水に濡れてひしゃげたパンのようだ。
青年はステファニーを呼び止めようとしたが、ぐしゃぐしゃになった彼女の顔が悲惨なことになっているのを見て、それを思いとどまった。
「お父様!」
ステファニーが太った体をドスドスと揺らしながら辿り着いたのは、父の書斎だった。
父は、ちょうど来客の相手をしているところだった。油断ならない目つきの男だ。部屋のテーブルには、ピラミッド型に積み重ねられた札束が置いてある。
何となく穏やかならざる光景だ。事実、ステファニーの父は先日行ったある不正行為を見逃がしてくれるように、この男に頼んでいるところだったのである。
「お父様! わたくし、婚約破棄を言い渡されましたのよ!」
だがそんなことはステファニーにとってはどうでもよかった。父の贈賄など、自分が婚約を解消されたことに比べれば些細な問題だ。
しかし、父はそうは感じなかったようだ。
「それがどうした!」
父は真っ赤になって怒る。
「早くそのみっともない顔を拭いて出て行け!」
「……どうやらこの話はこれまでのようですな」
乱入してきたステファニーを見て、来客が冷めた声で言った。
「密談を盗み聞きするとは、いいお嬢さんをお持ちのようだ。そんな方とこれ以上関わるなど、とてもではないが……」
「……ま、待ってくれ!」
立ち上がりかける来客を止めようと、父は必死で彼の服の裾にしがみついた。
「うちの娘は少しおかしいだけだ! 私はまともだ! だからどうか……」
「いいえ、私は帰らせてもらいます」
「そこを何とか!」
父は来客との押し問答を始めてしまった。すでにステファニーのことなど眼中にない。
ステファニーは無視されたことに腹を立てながら書斎を後にした。
次にステファニーが向かったのは母の部屋だった。相変わらず、ノックもせずに入室する。
「ス、ステファニー!」
母は娘が勝手に入ってきても怒りはしなかった。ただ、ひどく取り乱した様子だ。
室内にいたのは母だけではなかった。それまで彼女が座っていたであろうソファーの上に、最近雇われた若い庭師がいたのだ。母のドレスの胸元は乱れており、口元が妖しく濡れていた。
「お母様、わたくし、婚約を解消しようと言われましたわ!」
しかし、ステファニーにとっては母の不貞も今はどうでもよかった。ステファニーが涙ながらに訴えると、母は「それは大変でしたね」と気もそぞろに言う。庭師の青年は、その光景を気まずそうに見ていた。
「きっと、何かの冗談でしょう。真に受けてはいけませんよ」
「いいえ。あの方は本気だと……」
「あらあら、困りましたね」
上の空で答えながら、母はあらん限りの力で娘の背中を押した。
「また新しい婚約者を探しましょうね。さあ、もうお行きなさい。お母様は忙しいの」
ステファニーは部屋から閉め出された。
「何なのですか! 皆揃って!」
ステファニーは荒々しい足取りで廊下を進んだ。
「これは一大事ですのよ! なのに、どうして誰もまともに取り合ってくださらないのかしら!?」
「あら、どうしたの、ステファニー」
ステファニーが大声で罵っていると、背中に声をかけられた。振り返ると、姉が立っている。
「わたくし、婚約を解消されかけていますの!」
「ええっ、そんな!」
姉は眉根を寄せた。やっとまともな反応が返ってきて、ステファニーは少し機嫌がよくなる。
「ひどいですわよね? 他に好きな人ができたんですって! しかもそれは男性で……」
「まあ! 男性!」
それまで気の毒そうに話を聞いていた姉の目が、爛々と輝きだした。
「婚約者がいるにもかかわらず、他の男に恋い焦がれてしまう。なんておいしいシチュエーション……! 禁断ゆえに燃え上がる愛! 握る手と手! 越えてしまった一線! ああ……たまらない……!」
家族には秘密にしていたが、姉は貴腐人であった。つまり、男性同士の恋愛が何よりも好物なのである。
普段は大人しい姉が隠された本性を剥き出しにして、鼻息も荒く妄想を逞しくしている。何が起こっているのか分からず、ステファニーはポカンとした。
「お姉様……?」
「……だめよ、ステファニー」
姉は生き生きとした口調だ。
「愛し合う二人の邪魔をしてはいけないわ。あなたは身を引くべきよ。……こうしてはいられないわ! 新刊のネタが降りてきた……!」
姉は同好の士と時折集まって本を作っているのだ。今はちょうど、次回作の構想を練っているところだった。
素晴らしいアイデアが浮かんだ姉は、あっという間にステファニーの前からいなくなってしまう。
取り残されたステファニーは、憤慨しながら近くの扉を開けた。そこは弟の部屋だった。この際誰でもいいから自分の話を聞いて欲しい。しかし、弟もまた取り込み中であった。
「坊ちゃま! この程度の問題も解けなければ、立派な紳士になれませんよ!」
「嫌だ! 勉強なんてしたくない! 遊びに行きたい、行きたい! きいいぃぃぃ!」
弟は奇声を上げながら床でジタバタしている。それを家庭教師が叱っていた。
「ねえ、わたくし、婚約を……」
「きいいぃぃぃ!」
「坊ちゃま!」
「きいいぃぃぃ!」
死にかけのセミのように体を痙攣させている弟は、誰の話も聞いていない。これなら本物のセミに話しかける方が余程ましだと思って、ステファニーは自室へ帰った。
しかし、立腹が収まった訳ではない。「皆大嫌いですわ!」と癇癪を起しながらドアを力任せに閉めると、ステファニーは辺りのものを壁に向かって投げつけ始めた。
「この! わたくしが! こんなに! 困って! いるのに! 信じられませんわ!」
クッションだの小物入れだのが宙を舞う。その時、カシャンと乾いた音が響いた。
陶器でできた古びた置物が粉々になっている。そこから一筋の煙が立ち上り、人の形を取った。
だが、荒れ狂っていたステファニーはすぐには気付かない。「もし、お嬢さん」と声をかけられて、やっと異変を察知した。
「ど、どなたですの……?」
いつの間にか現われた見知らぬ人物にステファニーは目を丸くした。その人は、「ワシは魔神じゃ」と自己紹介する。
「実は、訳あってこの置物の中に封印されていたのじゃ。置物が壊れぬ限り、外には出られないようになっていてのお」
魔神は困り顔で首を振った。
「その置物は、紆余曲折あって露店のセール品にされてしまっての。で、それをある青年が買って、お嬢さんに渡したのじゃ」
この置物は婚約者が旅行の土産としてくれたものだ。その時の彼は、「これはとても貴重な骨董品だ。飾るだけで美しくなれる品らしい。きっと君の容姿もまともにしてくれるよ」と言っていた。
「何がまともですか!」
ステファニーは眦を吊り上げた。
「あの方だって、ペリカンとヒトデとバッタを混ぜたような顔のくせに!」
「ヒトデに顔なんてあったかのお……?」
不思議がる魔神を尻目に、ステファニーは目を血走らせる。
「あなた、魔神でしょう? 何とかできませんか?」
「ヒトデに顔を作るのか?」
「作りません!」
ステファニーは歯ぎしりした。
「あの方をギャフンと言わせて……いいえ」
ステファニーは顔を歪めた。
「あの方だけではありませんわ。皆、わたくしに冷たいんですの!」
「なるほど、つまりお嬢さんは、皆から愛されるキュートでラブリーな存在になりたいんじゃな? それくらいならお安い御用じゃ。お嬢さんには助けてもらった恩もあるしな。その願い、叶えてやろう!」
白い煙がステファニーの体を包む。突然目線が低くなり、ステファニーは戸惑った。先ほどまで自分が着ていたドレスが床に落ちている。
「大成功じゃ!」
魔神の嬉しそうな声が聞こえてきた。どうやらよっぽど小柄になってしまったようだが、それでも絶世の美女に変身できたに違いないと思い、ステファニーはワクワクしながら鏡の前に立つ。
が、その途端に悲鳴を上げてしまう。その口から出たのは、「にゃあっ!」という鳴き声だった。
「にゃー! にゃ、にゃー!」
何ですの、これは! とステファニーは言ったつもりだった。だが、またしても人間の声は出ない。
それもそのはず。鏡に写っていたのは猫……ステファニーは猫になっていたのだ。
「どうじゃ? 世界で一番愛くるしい姿になった気分は」
「シャーッ!」
ステファニーは毛を逆立てた。
(これのどこが愛くるしいんですの!)
鏡に写っていたのは、毛足の長い太り肉の白猫だ。ペチャンコの鼻に間隔の開いた目。首にはチョーカーが食い込んで首輪のようになっている。
ステファニーが猫だったらこんな姿だろう、というような見た目だ。全く可愛くない。ブサイクすぎる。
「にゃー!」
(これなら人間のわたくしの方がずっと美しいですわ! 元に戻しなさい!)
「これこれ、引っ掻いても無駄じゃぞ」
魔神はじゃれついてくるペットをあやすように言った。
「怒るよりも、お嬢さんの本来の目的を果たしたらどうかの?」
「にゃ?」
「ほれ、皆をギャフンと言わせる……とか言っておったろう」
「にゃー……」
ステファニーのヒゲがしゅんと下がる。
(こんなブサイクな猫……誰も見向きもしませんわ……)
目にもの見せてやるどころか、すぐにつまみ出されてしまうかもしれない。なにせ、この家の住人たちは揃いも揃って冷酷なのだ。
「にゃー……」
ステファニーは部屋の隅で拗ねたように丸まってしまった。その時、ドアが勢いよく開け放たれる。
「きいいぃぃぃ!」
入ってきたのは弟だった。閉めたドアに背中を預け、肩で息をしている。
「坊ちゃま! お待ちください!」
外からは家庭教師の声が聞こえてきた。弟は「やーだよ!」と舌を出す。
どうやら彼は勉強から逃げたい一心でステファニーの部屋に立てこもることにしたらしい。冗談じゃありませんわ! とステファニーは憤然とした。
「にゃー! にゃー!」
「……うん?」
ステファニーは尻尾をピンと立てながら弟の足にまとわりついて抗議する。それに気付いた弟が下を向いた。
途端に、その目が見開かれる。
「ねこちゃん!」
弟が飛びかかってきた。突然のことに驚いたステファニーは、あっさりと彼の腕の中に収まってしまう。
「ひゃー! 可愛いっ!」
弟はステファニーの頭をこれでもかというほどに撫で回した。ステファニーは唖然とする。
(可愛い……? わたくしが……?)
生まれて初めてそんなことを言われた気がする。固まるステファニーを、弟はさらに褒め続けた。
「この潰れた鼻! 離れた目! ブサカワイイってこのことだね!」
弟の顔が華やぐ。
「皆にも見せてあげないと!」
弟は立てこもっていたのも忘れ、外に出た。
「坊ちゃま!」
待ち構えていた家庭教師が怒鳴り声を上げる。
「早くお部屋へ戻りますよ! 後三十冊は問題集を解いて……」
家庭教師は言葉を切った。その目がステファニーに釘付けになっている。
「か、可愛い……!」
家庭教師は一瞬で相好を崩した。弟から嬉しそうにステファニーを受け取る。
(い、一体、何が起きているんですの……?)
家庭教師に顎の下を撫でられながら、ステファニーは困惑していた。
何故皆、自分のことを褒めまくっているのだろう。こんなにブサイクなのに……。
「ちょっと、うるさいわよ!」
外があまりにも騒がしくなったためか、手近な部屋の扉が開いて姉が出てきた。
「せっかく素敵な妄想をしていたのに……ねこちゃん!」
姉は飛び上がって喜んだ。家庭教師からステファニーを引ったくると、そのぷくぷくとした体に顔を埋めて匂いを嗅ぎ出す。
「はあ……素敵。次は恋人の片割れが猫化するお話にしましょう。……えっ、皆にも見せてあげたい? いいわね、それ!」
一行は廊下を駆ける。そのまま母の部屋に突入した。
慌てふためく母と庭師を余所に、姉はステファニーを差し出す。
「まあ、とってもチャーミングだわ……!」
服を着込みながら母が破顔した。庭師も「最高じゃないですか!」と頬を上気させる。
「少しは静かにせんか!」
続いて登場したのは部屋の前を通りかかった父だ。
「来客中だぞ! 声を落とせ!」
「結構ですよ。もう済みましたので」
客人が言う。だが、その目がステファニーを捕らえた途端に、彼の冷淡な態度は一変した。
「な、なんと愛らしいねこちゃんなんだ……! こんな子を飼っていらしたとは……!」
「いや、私は知らないが……。……だが、確かに可愛らしい猫だ」
客人と父に体のあちこちを触られる。ステファニーは身をよじって逃げようとしたが、二人の目にはその反抗的な態度がかえって眩しく見えるらしい。客人が感嘆のため息を吐いた。
「こんな可愛らしいねこちゃんを触らせていただいたお礼です。例の件は、こちらで上手く処理いたしましょう」
「何と! ありがとうございます! これもねこちゃん様々ですなぁ……」
父は慈愛のこもった目でステファニーを見る。
もうこの頃になると、ステファニーも当惑するだけではなくなっていた。
(皆がわたくしを可愛いと言う……。そして、こんなにも好意的に接してくれる。ブサイクは猫になれば長所に変わるんですのね。皆わたくしの虜ですわ!)
ステファニーは愉快な気持ちになって高笑いした。喉から漏れ出た「にゃーにゃー」という声を、集まった者たちはうっとりと聞いている。
ステファニーは上機嫌になって姉の腕からするんと抜け出ると、応接室へ向かう。
そこにはまだステファニーの婚約者がいた。
「ね、ねこちゃん……?」
ちょうど帰り支度をしていた婚約者は、室内に入ってきた白猫の姿を見て口元を押さえた。そして、ワナワナと震えだす。
「可愛い……! 可愛すぎる! は、早く連れて帰ってうちの子に……」
「ダメだ!」
「その子は僕のだぞ!」
ステファニーの後を追ってきた父たちが婚約者の前に立ち塞がった。彼らは火花を散らし始める。
「こんな可愛い子を諦めろと言うのですか! 無理にでも持ち帰りますからね!」
「そんなことしてみなさいよ! ただじゃおかないわよ!」
「そーだそーだ!」
室内は一触即発の雰囲気だ。自分のために皆が争っている。ステファニーはこれ以上ないくらいの快感を覚えていた。
「にゃー?」
試しにその場に寝転んで首を傾げて見せる。たったそれだけのことで、皆は「可愛い!」と叫び、争いを止めてしまった。
「こんな愛らしいねこちゃんを前にして、醜い言い合いは止めましょう」
「そうですね。でも……この子を誰のものにするのかは、きちんと決めませんこと?」
母の言葉に皆が頷いた。そして、全員が膝を折ってステファニーに手を差し出してくる。
「可愛いねこちゃん、こっちへおいで!」
「お魚、いくらでも食べさせてあげるよ!」
「おもちゃを買ってあげましょう。素敵なお家もプレゼントするわ!」
皆ステファニーの気を惹こうと必死だった。ステファニーは彼らの顔をじっくりと見つめ、その手の間をスルスルと移動しながら、皆を弄ぶ。
しかし、彼女の心はすでに決まっていた。
「シャッー!」
それまで全員に気のあるそぶりをしていたステファニーは、もう充分だろうと判断して皆に爪を立てた。
手や顔、服を切り裂き、頭の上に乗って髪をボサボサにしてやる。
そうしながら、ステファニーは爽快な気持ちになっていた。
(今さらわたくしの魅力に気付いたってどうにもなりませんわよ! 誰があなたたちなんかに飼われてあげるものですか!)
ステファニーは悲鳴を上げる人々の脇をすり抜け、廊下に出た。そこに、壁を通り抜けてきた魔神が現われる。
「にゃ!」
(あなたの術、素晴らしいですわ!)
ステファニーは弾んだ声で礼を言った。
「にゃ、にゃにゃにゃ!」
(わたくし、やっと気が付きましたの。きっとわたくしは人間には向いていないのですわ。だって猫になった途端に、こんなにモテモテになれたんですもの!)
「おお、それはよかったのお」
「にゃん!」
(ですからわたくし、もう人間には戻りません。これからは第二の人生……いいえ、にゃん生を謳歌しますわ! そして、新しい恋を見つけて楽しく暮らしますの!)
「そうかそうか。ワシも術をかけたかいがあったというものじゃ。ではお嬢さん、またどこかでお会いしましょうぞ」
魔神はすぅっと消えていく。ステファニーは鼻歌を歌いながら、開いていた窓から外に出た。
塀の上に立ったステファニーは伸びをする。雲一つない晴れた空が、ブサカワ猫ステファニーの門出を祝福しているかのようだ。
そして嬉しいことに、向かいの家の屋根の上に猫の一団を発見した。全員オスのようだ。
耳に切れ込みが入ったワイルドな野生猫から、上品そうな飼い猫まで様々である。早速逆ハーレムを作る機会に恵まれたことに、ステファニーは歓喜した。
『ねえ、皆さん』
ステファニーは猫の言葉で彼らに話しかけた。オス猫たちがステファニーの方を見る。
『わたくし、今日からここで暮らそうと思いますの。どうぞよろしくお願いしますね。名前は……』
『はあ!? ここで暮らす!?』
『冗談きついぜ!』
胸を高鳴らせて自己紹介をしていたステファニーは硬直した。オス猫たちは顔を引きつらせている。
『こんなブスと同じ縄張りに住めるかよ!』
『ワガママそうな顔だな! 空気も読めなさそうだし、人の話も聞いてなさそうだし、思い込みも……』
文句を言って散っていくオス猫たちを見ながら、ステファニーは呆然となる。ブサイクな猫を可愛がるのは人間だけ。猫には猫の価値観がある。そして、容姿が全てなのは猫の世界でも同じだったのかと思いながら。