八話 家族のために人々のために
アレクという男はイアンを攻撃し、連れである仲間たちとその場を去っていった。その後、リックとイアンの前にある人達が現れた。彼らはリックが所属する本部の者だった。リックの帰還が遅く、何かあったのではと勘づいた。案の定、リックは奴らに襲われていた。嘗ての仲間であるイアンを見つけて。
リックはイアンが倒れたことで、何も出来ずにいた。仲間が来たことで少し安心した。だが、イアンは十時間以上眠り続けていた。
「んで、どうするよ? この人が目を覚めたら、本部に連れて行くのか?」
「いや、一度話を訊く。まさか、兄さんが生きているとは思っていなかった」
「そりゃそうだよな。あの時、」
そう会話をするのは本部の部隊に所属しているサンとランス。二人は同期でもあり、同じ所属にいる。サンが疑問を投げかけると、ランスは怪訝な表情を見せた。言葉通り、ランスはイアンの実の弟。リックがまだ幼かった頃、イアンは街の異変に気付き人々を守ろうとした。その時、行方を晦まし死んだと誰もが思った。だが、ランスの目の前にはあの頃と変わらないイアンが眠っている。この状況に困惑していた。
「私、本部に連れて帰りたい。イアンだってきっと内心では帰りたいと思っているよ」
二人の会話を訊き、リックは視線をイアンに向けたまま言葉を口にした。イアンは云わないが、リックがそう思うのはきっと、幼い頃一緒にいる事が多かったからだろう。二人は納得した。
「けどな、為っちまったんだろ。どうすればいいんだ?」
「兄さんはどう思っているんだろうな」
ふと呟いたランスはサンの言葉を掻き消した。一気に雰囲気は重く、三人はイアンが目を覚ますのを待つことにした。
イアンが目を覚ましたのは三日後。その日はサンとリックは出掛けていた。ランスは目を開けるイアンに気付くと、焦ることなくただ身守るように様子を伺った。
「久しぶり。俺の事分かる?」
ランスが躊躇うことなく声を掛けると、イアンは驚いた表情を見せた。予想外の事に混乱し、咄嗟にイアンは無理に起き上がり、弟のランスから離れた。
「大丈夫だ。俺は兄さんに何もしない。本部にも兄さんの事は報告していない」
ランスは溜め息を吐きながら口にした。リックから訊いた話によると、兄が例の半ヴァンパイアだと知らされた。内心は出来れば信じたくはなかった。だが、あの時行方を晦ました。それを思い出せば、目の前にいるのは不思議でならなかった。半ヴァンパイアは必ず倒さなければならないとされている。兄が殺されるかもしれないと思うと報告は出来なかった。たった一人の家族のことを。
「違う、そうじゃない。訊いたなら分かるはずだ。俺がアレに為ってしまった以上、御前に何をするか分からない。時々、我を忘れる事があるんだ。もう、あの頃の俺じゃない」
「だからなんだ! 俺は兄さんに会いたかった。久しぶりに会えて嬉しかった。それなのに、兄さんは……」
イアンの言葉に感情的になっていたランスは言葉をぶつけるように大声を上げた。たとえ、人を傷つける存在だとしても兄に会えた事は心から喜びを感じていた。必死に抑えていた涙も感情的になっていた所為で溢れていた。
「有難う、ランス」
弟の気持ちを訊いたイアンは感謝の言葉を述べた。だが、距離は離れたままで。直後、イアンは二人が戻っている事に気付いた。二人は立ち止まって様子を見ていた。
「サンも来てたのか。元気だったかい?」
リックと並ぶサンに平然と声を掛けるイアンに反応したのはランスだった。ランスは咄嗟に涙を拭った。サンの目の前まで近づき睨みつけた。サンは苦笑いするも恐怖を覚えた。
「イアン、もう大丈夫なの?」
「心配掛けて悪かった。リック有難う」
イアンが云うと、リックは泣きそうになりながらも小さく笑った。