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少女リックと月夜より現れし者  作者: はなさき
第二章 大切な人のために
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七話 攻防戦

 大きな地響きを聞いたイアンとリックは屋内から外に移動していた。念の為、パンプは人々に見つからないように姿を消していた。外に出ると、二人は思わぬ光景を目にした。近くの大きな木は薙ぎ倒され、大きい穴が幾つも有った。その側に人影が三つあった。一人はあの時の男だった。

「よう、来たか。来るの待ってたぜ」

 男は待ち侘びていたかのような口ぶりだ。というのも二人の格好から追うのは容易だった。それに男と会った場所からそう遠くはない距離にあった。普通じゃない人間ならば、追うことなど苦労しない。そう、人じゃなければ。

「何故、こんなことをするんだ。目立てば、御前もただじゃ済まない。分かってるのか、アレク」

 イアンはリックを庇うように立ち、男の名を呼んだ。どうやら、男の名はアレクらしい。イアンの後ろで訊いていたリックはアレクという名の男とイアンを交互に見ながら怪訝な表情を浮かべる。アレクはイアンのほうを向き、一歩、二歩と歩み寄った。アレクの動きに何かを察知し、イアンは片腕を横に伸ばし、リックを守る体勢に入った。

「俺らは人にバレちゃいけねえ存在なんだよ。それが、御前が逃げ出したことにより、存在を知られる。それがどういう意味か分かるか? 分からねえよな? 半ヴァンパイアの御前がな」

「え?」

 アレクはリックの存在を無視し、平然と説明をした。その言葉を訊いてリックは思わず声に出してしまった。薄々気付いていたとはいえ、信じたくなかった真実でもあった。イアンは後ろのリックを一瞥する。リックと一瞬目が合い、目を伏せてしまう。

「それは悪い。だが、俺にもやらなきゃいけないんだ」

「は? やることなんざ、俺らと一緒だろ。普通に暮らす。それが俺たちのやることだ」

「いや、御前たちがやってることは普通の暮らしじゃない。人間を襲うことが普通とはいえない」

「んだと? 何も分からねえくせに勝手なことを云うな!」

 イアンとアレクは言い争い始めた。だが、イアンの言葉に頭に来たアレクは瞬間移動するかのように姿を消した。直後、イアンの眼前に現れ、腕を振り下ろした。イアンは防ごうと咄嗟に片腕で防御した。だが、アレクの鋭い爪が服の袖を切り裂いた。切り裂かれた袖の隙間から血が流れた。

「イアン!」

 不意にリックが叫んだ。それでもイアンはアレクから目を逸らさない。逸らせば、更に攻撃が当たると察していた。腕から血が流れようとリックを守る為に腕を下ろそうとしなかった。アレクは再びイアンに向かって鋭い爪を振り下ろした。今度はイアンの頬から血が垂れた。

「おい、何故攻撃しない? 御前の力はこんなもんじゃねえだろ!」

 イアンは口を閉ざしたまま、守り体勢を崩さない。守り体勢といっても守りには限界がある。ただただ、腕から血が流れるばかり。

「もういいよ。私、戦うから」

 リックがイアンを押し退いて、前を出ようとした瞬間、素早くイアンが立ちはだかった。

「駄目だ。下がっていてくれ。頼む、絶対に動かないでくれ」

 直後、リックの脳裏にはあの時のイアンの姿が映った。リックがまだ幼い頃、リックの身を、街の人たちを、守る為に消えていってしまったイアン。イアンの姿がリックの記憶を蘇らせた。

「イアン、お願い攻撃して……」

 反撃をせず、攻撃を受け続けるイアンを見て、リックは咄嗟に言葉が出て、涙目になっていた。イアンの行動にアレクは違和感を感じて攻撃を止めた。イアンはアレクが攻撃を止めたのを機に、しゃがみ込んだ。

「お前の本気が見てえのによ。一方的じゃつまんねえ。どうしたんだよ!」

 アレクはイアンを蹴りつけた。イアンは腕の負傷で痛みに耐えきれず、バランスを崩してしまった。リックはイアンに駆け寄った。イアンに声を掛け、心配の言葉を掛ける。大丈夫だと訊くと、アレクをきつく睨みつけた。今度はこっちの番、と言いながら、攻撃体勢に入った。だが、次の瞬間、目の前からアレクの姿が消えた。二人は警戒したが、何も起こらなかった。

「逃げたか……」

 イアンは呟くと、その場に倒れ込んだ。

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