四話 身を忍ばせるように目的地へ
リックがイアンにミアと出会った経緯を話した後、三人は料理店を後にした。
「本当にリックを知っていったのかい。昨日はすまなかった」
突然、イアンは頭を下げた。イアンの言葉にリックはびくっと驚くと、ミアを見て表情を変えた。
「えー、二人とも知ってたの? どうして教えてくれなかったの!」
大きな声を上げたリックに二人は苦笑いをした。知っているとしても、昨日初めて会ったばかりだった。然も、良い出会い方とはいえなかった。
「折角、会えたんだしさ。ミアも本部に来てよ。いつか、案内するって言ったの覚えてる? それが今ってことなんじゃないかな」
ふと、リックはミアをちらっと見て提案する。突然の提案だったが、言葉の通り、以前から考えていた。ミアはきょとんとするものの、不意に俯く。直ぐに顔を上げた。
「此処を離れるわけにはいかない。リックも知ってるだろ? あの噂を聞いたことがあるはず」
「行方不明者が増えてるっていう噂でしょ」
「そう。それも最近の話じゃないらしいんだけど、」
ミアとリックはイアンを他所に話し始めた。イアンは二人に背を向け、その場を去ろうとしたが、それに気付いたリックが振り向いた。
「イアン、何処に行くの? 此処を出たら奴らが来るかもしれないんだよ」
リックはイアンを呼び止めるように声を掛けると、イアンは背を向けたまま立ち止まった。
「奴ら?」
リックの言葉にミアが怪訝な顔を浮かべる。そんなミアを無視してリックはイアンを気に掛けた。イアンは再び歩き出した。
「イアン、待ってよ。奴らに見つかってもいいの?」
「気にしないでくれ。リックは本部に報告しに行くといい。いや、報告してくれ」
リックは構わずイアンの後を追う。その姿をミアは黙って見ていた。
「イアンは何処に行くの? 私もついていく」
イアンはリックを止めなかった。ついてくると予想していた。ただついてきた場合、責任を持って彼女を守らなければとも思っていた。命に代えても。
そんな事も知らず、リックはイアンについていくばかり。不意にリックは振り返った。後ろにはミアが佇んでいる。難しい顔をして。
「ミア、御免。私、行くね。また何処かで会えたらその時は宜しくね!」
少し大きな声でミアに向かって声を掛けると、ミアは笑みが零れるように頬を緩めた。
「気を付けて! 無理しないで頑張れ!」
ミアも大きな声で応えると、リックに向かって拳を向けた。彼女なりの頑張れの合図だ。リックは手を振ってイアンとともに歩き出した。
「本当にいいのかい? 奴に見つかれば、攻撃を受けるかもしれない」
「その時はイアンが守ってくれるんでしょ。それに私、強くなったんだよ。私の力を見てきっと驚くよ」
真剣な表情のイアンに対してリックは落ち着いた表情で笑っている。何も知らない彼女だからこそ笑っていられるのだろう。彼らは次の目的地までの準備をし、街を後にした。
二人が街を出て少し経った頃、二人は人目を避けるように路地裏を歩いていた。其処には今まで姿を隠していたパンプもいた。隠していた理由は普通の人間にとって、南瓜のお化けが動いているのを知ると驚かせてしまうからだ。人気が無い路地裏では少しばかり安心していられるのだろう、二人と並んでいる。ふと、リックは足を止めた。
「そういえば、聞いてなかったけど、何処に向かってるの? 本部では無さそうだけど」
イアンは黙って答えない。その姿にリックは何も言えなかった。あの事を思い出してしまったのだ。だが、今度はイアンが足を止めてリックに向き直った。
「今は言えないんだ。ただ、彼奴らが恐れる場所とだけ言っておこう」
リックは残念そうに下を向いた。隠しているのにはやっぱり何かあるんだと思うしかなかったリックは前を向いていない所為で建物の壁にぶつかった。ただでさえ、狭い路地裏なのに前を向いていなかったリックは盛大にぶつかった為、痛みが倍に増した。
「痛ーい! イアン、もう狭いの嫌」
当然、声を上げる。おまけに不満も口にした。次の瞬間、リックは宙に浮いた。正確にはイアンがリックを抱えたのだ。
「降ろして! 一人で歩けるもん!」
暴れ出したリックにイアンは静かにするように人差し指を口に当てた。直後、リックは声が出せなくなり、口をもごもごさせた。
「大きな声を出すと、奴の仲間にバレてしまう。もう少しだけ耐えてくれないか。もう、誰も喪いたくないんだ」
イアンの意味深な言葉と表情は何処か哀しさが物語っているような、リックにはそう思えた。リックは黙ってイアンに従い、知らない場所に着くのを待つことにした。