二話 一瞬の変化
一人の男の前に対峙するイアンとリック。それと、南瓜のモンスターのパンプ。それぞれが固唾を飲んでいたとき、男は顔を強張らせた。
「おいおい、イアンどういうつもりだ? まさか、こいつを庇うつもりか? あ?」
男は状況を把握すると、イアンを威嚇するように強く睨みつけた。一方、イアンは眉をハの字に変え、リックを守るように男に立ちはだかっている。
「おい、聞いてんのか? こいつを庇うつもりだったら、見逃せねえな!」
黙るイアンに男は怒りを露わにした。イアンたちに襲いかかろうとした時、とても強い光が射し込んできて、男は怯んだ。イアンは余裕があるのかにこっと笑っている。直後、咄嗟にリックを再び抱えてその場を去った。
「待て! 逃げるってことは分かってんのか? 上に報告するぞ!」
男の声を背に受けながら、イアンは構わず進んだ。見つからないよう、なるべく遠くに。背後の男は大声で叫んでいるが、イアンたちに届くことはなかった。
「ちょっと! どういうことなの! 降ろして! あの場所に敵がいるの!」
イアンに抱えられているリックは再び暴れ出した。久々のイアンとの再会のはずが、先の読めない行動で混乱するばかり。敵を討伐するという目的も果たせたくなってしまう焦りもあった。
「見ただろう。アイツは危険だ。リックには倒せないだろう。見つからないようになるべく遠くに移動する。だから、もう少し耐えてくれないか」
暴れていたリックが静かになった。直後、不意にリックは顎に手を当てて考える仕草をする。数秒後、ポンっと手を鳴らして何かを思いついた様子を見せた。
「私にいい考えがある。イアン、久々にあの人に会いたくない? 本部なら見つからないでしょ」
イアンは俯いてしまった。その様子にリックが心配そうに見つめる。どうしたのと声を掛けると、イアンは顔を上げた。
「今は本部に戻れない」とだけイアンは答えた。イアンの姿を見てリックは何かを察し、それ以上何も聞かなかった。聞いてはいけないような気がしたのだ。暫く二人の間には沈黙が流れた。
何分か経った頃、それは起きた。突然、イアンに変化が顕れた。リックを抱えたまま片目を抑え、何かに耐え始めた。その変化にリックは気付いた。
「イアン?」
次の瞬間、イアンは悲鳴をあげるように大きな声を上げた。かと思えば、正気に戻り、先を急ぐスピードを速めた。リックが問い掛けてもイアンは答えない。それどころか、問い掛ける度にイアンのスピードは上がっていった。何度目かの問い掛けにイアンの動きは止まった。二人の視界には街の灯りが映った。
「今夜はこの街で過ごそう。野宿は危険だ」
リックは悩んだ。本当ならば、本部に戻ってイアンが生きていたと伝えたい気持ちを抱いていた。でも、彼には何か事情があるのだと知った。敵に見つからないためにはこの街で泊まることは仕方ないことなのか、と。
「リック?」
街に入ろうとしたイアンは動かないリックを不思議に思った。イアンが呼び掛けてもリックは依然としてその場から動こうとしない。
「野宿が嫌ならここで別れよう。アイツは俺を追っているはずだ。リックには、」
「分かった。今だけ此処で泊まる。けど、いずれは本部に戻ってほしい」
突然、イアンの言葉を遮ってリックは言葉を発した。リックの表情はイアンを突き刺すように真剣で決して離さまいとイアンから視線を外そうとしなかった。イアンは圧倒されるが、応えない。返事の代わりに街の中へと歩を進め、立ち止まっているリックを促した。
「必ず、本部に連れて帰るんだから」
イアンは後ろでリックが小声で呟くのを訊くと、リックのほうを振り返った。リックは視線に気付くと、睨みつけるように強い視線を送った。
「置いていきますよ」
リックはイアンの言葉を合図に一歩先を行くイアンに追いつこうと駆け出した。
「あの子、もしかして」
近隣の家屋の窓から二人を眺めている人物がいた。