一話 午前零時の合図とともに
『今宵、貴方の血を頂きます』
それだけ書かれてあった紙切れが落ちていた。一人の少女はその紙切れを拾った。少女の名前は、リック・ウィン。ある種族を討伐する事を任務とする。その傍らには南瓜のモンスターがいた。
少女は魔女が被る帽子を被っており、おまけに橙色のマント、杖を装備していた。そんな怪しい格好、謂わゆるコスプレをしたような衣装を身にまとっているウィンは噂を聞きつけた。
普通ならば、狭い路地裏は少女一人で居ていいところではない。だが、ウィンは堂々と歩いている。そんなところに偶々通り掛かって、ちょうど紙切れを見つけたというわけだ。
辺りは真っ暗。黒い空に月の光が輝く。その月の光を頼りに奴を探していた。
数分後、零時を知らせる鐘がどこからともなく聞こえてきた。その合図とともに何かが羽ばたくような音がした。
「この近くね」
その音を聞いていたウィンが小さく呟いた。側にいるモンスターに目をやる。
「パンプちゃん、目標はどこにいるの?」
「すぐ近くでっす。三、二、一」
カウントされた直後だった。とても大きな衝撃音がした。
「見つけましたよ。おやおや、可愛い少女とはこれはまた、フフフ」
突然、目の前に男が不敵な笑みを浮かべながらリック達の前に現れた。その男は顔を隠すようにフードを深く被っており、身長がウィンより大きく百八十センチくらいの背丈だ。紅色の目、口元には鋭く尖った牙が露わになった。
「お前が噂の、出たなあああ!」
突如、リックは大きな声を出して、目の前の男に飛びかかった。しかし、男は動揺することなく簡単に避けてしまう。男は冷静な判断が出来るほど落ち着いていた。
「その声はまさか。落ち着きなさい。私は貴方には牙を向けません」
男はそう言うと、深く被っていたフードを外し、目の前にいるリックに顔を晒した。
「まさか、イアン? 生きていたの⁉︎」
リックは男の顔を見ると、とても驚いた。目の前の男の名前を口に出し、ぽかんと大きな口を開けて硬直していた。男の名前はイアンというらしい。リックの反応を見ると、どうやらイアンは死んでいた事になっていた。
「勝手に殺さないでおくれ……。また、会えたんだ」
久々の再会で嬉しく微笑むイアン。一方、リックは再会したというのに微笑んでいない。
「あの時、突然居なくなるから心配したんだよ!」
リックは少しばかり涙目になって大きな声でイアンを怒鳴りつけた。
「すまない。あれは奴らが現れたから守るために仕方なかったんだ」
イアンはもの悲しげな顔で謝ると、頭を下げ数秒間止まった。顔を上げた時、イアンを見るリックはある事に気付いた。先程は敵が現れた動揺で気付けなかったのだろう。
「その右眼、」
イアンの右眼は充血しているかのように真っ赤だった。
「これか……。気にしないでくれ」
イアンはリックの言葉に反応して、すぐ右眼を手で覆った。だが、イアンを見るリックの目からは誤魔化せていない。
「気にしないでくれってね。大丈夫なの?」
リックが心配そうにイアンを見つめながら声を発した直後、どこからともなく大きな衝撃音が聞こえてきた。
「詳しくはあとだ。奴が近づいている。ここを離れよう」
イアンが異変を察知し、フードを被ると、不意にリックの手を取った。次の瞬間、瞬間移動するように勢いよく高く飛びその場から離れた。
リックは突然の出来事に口をぽかんと開けたまま固まっていたが、我に返った。イアンがリックを抱えて走り出したからだ。
「ちょっと、いきなりどうしたの! 今すぐ降ろして! パンプちゃんが!」
じだばたと暴れるリック。リックの相棒であるパンプが置き去りにされたままだ。イアンは困った表情をしたまま走り続けている。
「アイツなら瞬間移動で追いついてくるだろう。お願いだ。奴の動きが収まるまで待ってくれ」
イアンの言葉を聞いたリックは暴れるのを止めた。ある言葉がリックの頭の中で引っかかった。
「奴って誰のこと?」
「それは、また後で」
イアンは答えると、立ち止まって抱えていたリックをそっと降ろした。降ろした場所はある城の前だった。その城の周りには不気味さを漂わせるかのようにコウモリだろうか、動物が数羽、空を旋回していた。
城はどこか古びたような建物のようだった。城らしい三角屋根だが、黒色に染められていた。真ん中に丸い時計が設置されて、今の時刻を示していた。
「ここは?」
降ろされた地の目の前に城が映し出されたリックは、自分より背が高いイアンを見上げて訪ねた。
「それも後で案内するからついて来てくれないかい?」
リックの質問を後回しにし、頭を下げるイアン。リックの表情は頬が膨らんでいき、機嫌を損ねた。
「久々の再会だと思ったのに、損をしたわ。どこかも分からない場所に連れられて、都合良くついて来てくれないか? 冗談じゃないわ」
リックは背を向けてイアンから離れていく。その後ろには南瓜のお化けのモンスターであるパンプがリックの後を追いかけるようについていった。
「いいんですかい、リック」
パンプが不安な表情を浮かべて、背後を気にしながら言葉にした。少し後ろには顔を顰めてリックたちを見送るように眺めているイアンが立っていた。
「いいのよ。久々の再会で喜んだのが間違いだったみたい」
リックは笑いながら答えるが、表情は笑っていなかった。背後ではイアンが二人を、正しくは一人と一匹の後ろ姿を黙って見続けている。イアンは何かの違和感を察知し、表情を変えた。
次の瞬間だった。衝撃音と共にリックの近くに知らない人影が現れた。
「おいおい。何故、こんなとこに人間の少女が居るんだよ! だが、ラッキーだぜ! 血を頂くぜ」
現れたのは男だった。男の容姿をよく見ると、赤い目に鋭い牙、どうやらイアンと同じヴァンパイアらしい格好をしていた。
「きゃあああ」
リックは驚いて思わず大きな声で叫んだ。リックの叫びにイアンは直ぐにリックの元へと駆けつけた。
お久しぶりです。
短期連載の予定です。
週2回の月曜と金曜に更新予定です。
何かアドバイスがあれば、喜びます。
短い期間ですが、お付き合いいただければと思います。
タイトル考えても他のと被りまくりで凄く悩んだ結果、パッとしないタイトルになりましたとさ。