反芻
敵が来た。最も親しく優しい敵が。
花火の音が鳴り響く賑やかで美しい夜。胸を打つ様な激しい花火の音と共に、父の悲鳴が私にだけ届いた。
私の胸の鼓動も、花火の音に混じって早くなる。
こつこつと足音が近付く音がする。
何か叫びながら私の部屋へ入って来た青年何か叫んで身を縮めた私彼は顔を歪めて微笑んで、私に剣を突き付けた。
サッ――
切っ先は私の胸を貫き、私をこの世の者ではないモノとした。
私の魂は何度も反芻した。あの夜のことを。
私の魂は何度も反省した。あの世へ逝く今になって気付いたことを。
あの楽園は、死と涙の上に築かれた幻想だということに。
反芻するにつれ、速度は速まり、城は遠ざかる。
反芻と反省を繰り返して私は気付いた。
――「やぁっ!」
あの時、私に突き付けられた切っ先は、剣の舞いとなって…私の魂ではなく、私の服を切り裂いたのだ。
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連なる悲しみと、恋の物語。
守り神への祈りの音は少女と青年を巡りあわせ、草原を駆ける音が青年の築いた平和を壊す。少年は青年になってなお、復讐を誓う音を奏で、美しくも激しき音に惑わされた無垢な姫君は逃走と追想の音に身を任せる。
物語は形を変え、やがて鼓動となって人々の胸に響くだろう。
今、行こう――平和の下へ