憎しみの楽園
馬車の音が近付いて来た。
「姫様か……」
草原の中心にあるこの国は、音がよく響く。
風の音、動物の駆ける音、戦のおと、馬車の音。
戦を逃れて邑を出た俺は、平和を求めて暫く草原を彷徨った。
戦の音を走り抜け、戻って来たのは元の場所。義姉が眠り、兄が散ったこの場所に、俺は新たな国を見た。
王宮は戦場のようだ。姫の帰りを迎える大太鼓は爆発音ににているし、小太鼓のロールは馬の駆ける音や弓を射る音に似ている。
王の重い足取りは重装歩兵の様で、絶対の防御力に溢れていた。
俺の仕える姫君は、欲にまみれた者が手を伸ばす、宝石のような女性だった。転がる様に俺に駆け寄り、透き通る目であれこれせがんで来る。
重と軽、鈍と速が絡み合い戦場を成す。
俺はこの国が憎かった。
罪のない兄を殺し、兄夫婦の上に築かれたこの王宮が……。
転がるように駆けて来る姫の前で俺は馬術を身に着けた。王宮を滅ぼし、また草原を駆けるために。
転がるように駆けて来る姫の前で、俺は大砲の操作を学んだ。王宮を故郷と同じ破壊へ導くために。
転がるように駆けて来る姫の前で、俺は弓を極めた。鎧の隙をつき王を打ち取るために。
転がるように駆けて来る姫の前で、俺は剣の舞いを舞った。この手で愛くるしい姫を斬るために。
パレードは繰り返され、いずれこの手によってフィナーレとなるだろう。