走る
和太鼓同好会顧問の先生の作った曲より。
平原を駆ける馬は何処までも軽やかだ。
だが、時としてその音は争いの音となる。
草原の中心に僕の邑はあった。
「戦かのぉ……」
年寄り達が囁くのは戦の“音”が響いているからだろう。
走る騎馬の音は絶え間なく、重装歩兵の重い音がその後へ続く。耳に残る爆発音が幾度と無く響き、赤子にさえ安らかな眠りを与えない。
この邑には多くの兵士が尋ねてきた。
ある時は食料、ある時は薬、ある時は武器を求めて。
皆戦に必要な物だったが、訪れた兵士達はこの邑では穏やかな気持ちになるようだった。
敵同士がはち会わせても、テンポよく会話は紡がれ、笑い合う。
――――焦っているようにも見えた。翌日になれば、彼等はまた戦へもどる。
会話の通じぬ世界。
やられた事をやり返し、戦は続いてゆく。
「悪いなぁ……守り手さん。戦は迷惑だろう?」
兵士に謝られる事も少なくない。いつも僕は笑って返した。
いずれこの邑も戦に巻き込まれる事になるだろう。
走る馬の音に呑まれ、爆発音と共に散るだろう。
「走りなさい。此所は危ない。走って遠くへ逃げなさい」
「兄ちゃんは?逃げないの?」
「僕は……」
守り手として、この邑とともに果てまで走り続けよう。
遠ざかる小さな背。力強い馬の音。
――どうか弟よ、遠くまで逃げてくれ。人と争わない世界まで……。