沈んだ夜の明ける日に
平穏とは遠い、このミニスターの世界で最も重要視されるのは、実力ではない。
そんなものは訓練を積めばどうにでもなる、それ以外では何か?
シンプル、約束を守ること。
人として普通のことだが守れるミニスターは決して多くはない。兎にも角にもどの業界でも時間を守るのは大切なのだ、守れない人がいるとするなら彼のような人であろう。
「まあ、そのとおりなんだが…僕はCランクだぞ?時間なんて守ったって実力には変わりがないんだよ」
途中から彼女から目を背け、拗ねたように言い訳をする彼の名は、「秋城 緋和」前はこの学校でも五指に入るほどの実力者だった。
今ではCランク。どちらかと言えば下位のミニスター。
「そんなこと言ったって社会人になれば実力よりも信頼が勝るのよ、少しくらいは真面目にしなさい」
一瞬だが緋和は、何かを言おうとしたが止めた。
見方によっては、うんざりしているのか、項垂れているか。見分けがつかないが反省の弁は持っていたようだった。
「分かった。気をつけるよ」
「分かればいいのよ、分かれば」とリヴェラは腕を組み、それほどあるわけではない、控えめな胸を張って言った。
綺麗な顔立ち、整った目鼻、すらりとした体はか弱く見えてどこか強靭そうな肉体。大人びて幼さの抜けた顔は美少女と言うより美女。
ややつり上がった青い瞳から一瞬で怒りの色は消え去り、ただ普通の少女のように明るく優しい日向のような声をかけて立ち去る。
「それじゃあ、後でね!」
曇った表情を一変させたのは緋和が不機嫌にさせただけのこと。
嵐が過ぎ去った後、静かな静寂に包まれた。
ただひとり、ため息をつきながら出て行った。
・・・
同年同月同日。午前、8:40時。
北校舎2階のとある教室にて。
1階から、2階までは少し古めの学校風、その2階のとある教室、2年3組の教室。
2時間目の授業開始の予鈴が鳴る中、よろよろと入ってくる人影がいた。
髪は黒、身長は170cm以上、顔は特筆すべき点は無く、可もなく不可もなしと言ったところ。
ワイシャツを肘が見えるくらいまくっていて、黙っていればそれなりにイケメン。そう、黙っていれば。
「緋和くぅぅん……キミィ、実の兄にどんな恨みがあってあんな暴挙に出たのかなぁ?」
顔は務めて明るくしているが、軽薄そうな笑みは遊び人のような気がする。声は男子の中ではどちらかと言えば低い方、いつもよりドスが効いていたが。
「……それなりにはな」
彼らの顔は非常によく似ており、髪色も真逆ではあるが、写し鏡をそのまま現実に持ってきたのではと勘違いしそうになる。
「そもそも、アンタが僕の恨みを買ってるから起きるんじゃないのか?」
「ひどいっ!君はお兄ちゃんをなんだと思ってるの!?」
顔を一瞬で青ざめて見せた、反応こそ女子のそれと変わりないが。
僕の兄が脚に携帯する銃、H&K MARK 23 と上着で隠れて見えないが僅かな膨らみのある脇腹。そこには、S&W M27(6インチ ニッケルメッキモデル)
そのことを思い出すと恐ろしさが僅かに勝る。緋和はもちろん、そんなものがこの兄と弟の間に出るのは良くあること。
ややあって、緋和が返事をしないことが答えだと悟り、自分の席へと戻る兄。
もちろんその背中姿が悲惨なオーラを醸し出しているのは気のせいではない。
緋和としては、何故もみじに話したのか、それは単なる妹への罪悪感故で、そこに兄への罪悪感はあまり無い。
それでもあの兄のしょぼくれた後ろ姿は罪悪感が湧いてくるものだった。あとで謝るか、そう思ったのも束の間、担任の「一条 深月」がそろそろと入室し、今日の授業が始まるのであった。
40分後。
「一条 深月」その為人は実に優しく穏やかな人だ、彼女は怒らない。とされている。しかしそれは勝手なイメージ、実際は怒る時もあるし怒った時は基本手がつけられない。
というのも、恐ろしいことに華奢な先生の体格では考えられない、大男を投げ飛ばす力があるのだ。
だが、間違っていけないのは、穏和で怒ることなど稀、非常に稀。
そんな彼女も機嫌の悪いサインはある。
「えー…それでは早く終わりましたがこれまで…… はぁ……」
深月は毎回5分程度余裕を持って授業を終わらせる、それも毎回予定していたところまで授業をやる。それが、機嫌が悪いと授業時間をきっかり10分を余らせる。
そして退出時にため息をつくこと、深月が機嫌が悪い時は必ず、以上二つをやる。
退出を気配で確認し、緋和の元へ兄の深夜がやって来る。
この時その他の生徒たちは、それぞれの仲間グループと色々なことを話し合っていた、日常会話から愚痴まで様々。
「さて…っと、深月ちゃん今日機嫌悪かったねぇ…」
何事のようにヘラヘラした態度は、生まれた時からいる弟の緋和にすら、未だ分かりにくいものだった。
鼻血を止めるために詰め物を入れられていた兄を見つつ緋和は、
「それは自分の教え子が鼻血出して詰め物入れられればね…」
苦笑よりも自嘲の色が強い笑みを浮かべる緋和を見て、深夜は、
「ま、さっきはああ言ったけど、お前ががそこまで落ち込む必要は無いと思うぜ?俺にも非があったしな、…つーわけで今日はお友達呼ぶからリビング使うねー」
緋和は目を見開き、表情を凍らせたまま、
「えっと、僕の任務の後のブレイクタイムは…」
「それとご飯…」と弱く言った、その頃にはクラス内男子(深夜の友人たち)が目を爛々と光らせ会話を見守る。
「あ、今日任務なの?ならちょう…じゃなかった…頑張って来なよ!俺も成功を祈ってるからさ、はっはっは!」
陽気に、はたまた嬉しそうに言った兄を見て、微かな怒りを感じざるを得ない緋和。周りもまた、そんなふたりを見ていた、兄の生存を願うものが大半だった。
「おい待てっ!クソ兄貴が!話を聞け!」
「お、い、ま、てっ、く、そ、あ、に、き、がは、な、し、を、き、け。うーん、字足らずに字余り、まだまだ川柳は下手だねぇ」
指を丁寧丁寧に折り曲げながら、俺の文句を川柳に無理やり捉え、回答した。
もちろん文句を言うが俺はこんな言葉しか浮かばなかった。
「どう考えたって違うだろ!?」
哀れみすら湧くような嘆きに、多くの生徒は、ふたりを見て苦笑するのであった。
それでも誰も兄弟の喧嘩を止めようとはしなかった、この学校でも数えるほどしかいない、"元"日本学生上位ランカーの弟と、"現"日本学生上位ランカーの兄。
そのふたりの妹である、もみじすら、学生中位ランカー、誰もその時だけとは言え、敵には回したくないのだ。
その後、緋和が諦めてこの一件は決着した。
・・・
少年は機嫌が悪そうに歩いていた、顔は見る者に虚しさが襲いそうな、死んだ顔に目は死んだ魚。
さしずめ、後始末が面倒なことに巻き込まれたのだろう。事実、兄の友人達にリヴェラとの作戦。
これだけで表情筋が死んでいる、それと別に今学期、自分の成績が悪くこのままでは留年コース。
避けるには課外学習、つまり、リヴェラと"学生ミニスター"ではなく、"ミニスター"として仕事をしなくてはならない。これらが緋和の心を殺すに至った原因である。
死んだ顔もこの時は便利(?)で道の真ん中を歩いていても自然と人が避けていく、ノーマルに辛い日常生活を終えたら次には、ハードで、辛い任務。
緋和は「嗚呼、消えぬ悪き予感、其れ即ち現実に成る。嗚呼、思うことはただひとつ、薬莢になりたい」などと訳のわからない物思いに耽りつつ、約束の場所へ着くのだった。
なんとドラグナーの方も、こちらも、どちらも約2ヶ月です…それだけ更新していないことになるのです()
これからも投稿頻度詐欺があるかと思われますが…その時は「こいつ忙しいんだな」と思ってください更新急ぎますので()
ひとまず、ここまで読んでくださりありがとうございます!次回も是非読んでくださいね!