いあ!クリスの体調不良 15
無限に強くなり続ける存在が神に敵意を持っている、その事実だけでも危険性は計り知れない。
故に、カオスにおいてその手の事象が発生した場合特例で全種族全人類が総力を挙げて排除、あるいは封印を施すために捕獲にあたるのだ。
今回の場合は外界由来の事象のため、カオス内部のみで完結する事象とは規模が異なる。
先述のカオス内に存在する邪神を凌駕する者は例外なく封印措置が施され、またその封印の対価として地位や名誉、あるいは資産などを与えられている。
ある種の国宝扱いとなるのだ。
これは邪神や、それに匹敵する存在が珍しくないカオスだからこそできる事であるが、自称大魔王の場合は話が異なる。
もとよりこの世界に来た目的の一つが打倒神である。
つまりは、最初から最後まで狙いは邪神の命。
そして生まれながらに生まれた世界で最強格の存在だった男、全てが自分の思うままだった者に対して説得などできるべくもない。
「ふむ……? その特異なんたら、というのはよくわからぬが……貴様らは我と事を構えるつもりと見てよいのだな?」
「チッ……」
小さくアデルが舌打ちをする。
少なくともこの場に集められたヒーローでは歯が立たなかった。
警官たちも、ヒーローと同程度だろう。
如何せん、この場に集められたヒーローというのは前回の事件から算出した自称大魔王の戦闘力から見てCランク。
中級の戦闘力しか持たない者達だ。
それは鍛え上げた獣人や、特別な力を得た人間、魔術に精通したエルフなどにとっての基準レベルである。
それ以上の、B級やA級といった努力だけではたどり着けない強さを持つ者達。
またS級といった才能を持った上で血の滲むような努力を積み重ねてきた者達は学園世界のような戦う術を持たない者が多く集う場所や、リゾート世界……桃源郷のような要人達が足を運ぶ世界の護衛に回されてしまっている。
それらを呼び戻す事など転移門を抑えられている今、許可が下りないだろうという事は目に見えていた。
加えて今の自分の状況。
無傷と言って差し支えのないナコト、ルルイエ、アバーラインの三人。
彼らが周囲の状況を考えずに本気を出せば、おそらくは自称大魔王の抹殺は容易だが三人の性質上この場に集まった警官やヒーローを守りながらの戦闘になるだろう。
ともすればアデル自身も足手纏いである。
そう考えた瞬間、アデルの額に衝撃が走った。
「アデルちゃんはね、難しく考えすぎなんだよ」
「っ! ったー! ぁっー! ふんぬぁー!」
額を抑えてのたうち回るアデル。
その数m前方ではデコピンを放ったナコト、ただのデコピンで人を吹き飛ばすことも大概だがその衝撃を受け切ったアデルの身体も大概である。
「どうせ自分が足手纏いだとかなんだとか、そんな事でも考えてたんだろ」
ゴキゴキと関節を鳴らすアバーライン。
上着を脱ぎ棄ててシャツの袖をまくり上げ、ネクタイを外していつでも戦えると全身で表している。
「神の血を得たと言ってもまだまだ素人さん、私ら三人の前じゃ雑魚同然ってね」
煙草に火をつけながら、12の羽根を展開して両手に魔術で生み出した炎を構えるルルイエ。
「ふむ、前哨戦と言ったところか……よかろう、貴様らの全力とやらを見せてみるがいい!」
この場における最大戦力であろう三人を前にして、今だ不遜な態度を取り続ける自称大魔王。
特に身構える様子もなく、しかしまとう空気が先ほどまでのそれと一変する。
そして高らかに名乗りを……。
「さあ、かかってくるがいい! 我はオリュンピアを制する大魔王! マドリぶふぅ!」
上げられなかった。




