いあ!クリスの体調不良 1
この日、ルルイエ探偵事務所では少女のうめき声が響いていた。
「うぅう……あぁ~……」
その正体はというと……。
「大丈夫? クリスちゃん」
「だ……だいじょばないです……うぅ……」
邪神の娘にしてトラブルメーカー、ヒーローを目指していたらなぜか探偵助手になってしまった少女ことクリスだった。
現在彼女はパジャマ姿にガウンを羽織りソファーでうずくまっている。
その眼前には食べかけのお粥が一杯。
「んー食欲もなさそうだし、そんなにつらいなら部屋で休む?」
「……体調悪い時って人が恋しくなりません?」
「ごめんねぇ、私体調崩したことないからわかんないや」
そういって眉をひそめてほほ笑むのはルルイエ探偵事務所の大家であるナコトだ。
その手には季節のフルーツを盛りつけた皿が載っている。
「でもまぁ私でよければしばらくそばにいてあげるけど、病院行ける? タクシー呼んでおこうか?」
そう言いながらナコトはお粥の入った椀の隣に皿を置き、クリスの頭を少しだけ持ち上げてソファーとの間に自分の太ももを滑り込ませた。
いわゆる膝枕だが、クリスは恥ずかしがることなくナコトの太ももを枕に腹部を抑え続けるのだった。
一応大丈夫と首を横に振っていたことから歩けないほどではないと見て取れる。
さて、そんなクリスの不調の原因だが……。
「でも……こんなに酷かったっけ? クリスちゃんのお月さま」
いわゆる女性特有のあの日である。
邪神の娘であろうとも、これに悩まされる女性というのは全世界共通だ。
「季節の変わり目ですから……もうすぐ夏だからお父さんの力が強くなるんですよ」
「へぇ……でもなんでフィリップスの力が強くなるとクリスちゃんのお月さまが酷くなるの?」
「肉体はお母さんに依存しているので神の血とエルフの身体のバランスが崩れて……うっぷ」
説明をしながらも顔を青ざめさせて口元を抑えるクリス。
元々重い体質だが、季節の変わり目になると邪神の力の根源、つまりは民衆の信仰心に変化が起こるため不調はピークに達するのだ。
「あーごめんね、もう喋らないでいいから病院の時間までこうしてよう」
ナコトは器用にもクリスの頭を揺らさないようにしながらテーブルの上に置いていた瓶からクリスに水を飲ませる。
普段ならば瓶を持ち上げるまでもなく、クリスの権能で中身だけを口元に運ぶこともできるが、月の日に限ってはそれすらも難しくなる。
故に、ナコトの介護をクリスは甘んじて受けているのだ。
「サクランボ、食べる?」
少量の水を飲ませたナコトは瓶をテーブルに戻し、布巾でクリスの口元を拭ってからフルーツの乗った皿に目を向け問いかけた。
「……」
ナコトの問いに無言で首を縦に振るクリス。
その口元に運ばれたサクランボを唇で茎からむしり取り、数回噛んでから種ごと飲み込んだのだった。
「種は出そうね」
そう言いながらナコトもサクランボを茎ごと口に含み、ごみ用にと置いていた空皿に茎と種を吐き捨てる。
それは器用にも茎と種はごくわずかな果肉で繋がったまま、なおかつ茎は結ばれた状態で皿の上に落ちた。




